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沈む太陽と昇る月  作者: あいあむ
傍にいる者達の王
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 寒気がするほど苦い味だった。苦い事で有名なゴーヤを生で齧っても、ここまで酷くはならないだろう。

 口元を拭い、茶碗を老婆へと差し出す。やはり薬草は確かに入っている。そのうえでさらに別の何かを入れているようだった。

「苦いのは認めるがもう少し飲んでおけ。魂に効く良薬だ」

 老婆は床下から岩を魔法で持ち上げ椅子にする。杖を突き、腰を下ろすと何度か位置を調整し、ミツキの両目を覗きこんだ。

「さて、不滅の勇者よ。お互い率直な話しをしようじゃないか」

「話し? 尋問の間違いでしょ」

 ゴブリンを部屋の隅へと下がらせて、もっと茶を飲むように勧める。眉をひそめながらも我慢して、乾いた喉を潤した。

「勇者と言う者はどうしてこうも他者を信用せんのか。お前さんを見つけたのは一週間も前のことだ。砂漠の中で干からびておったのを我が旅団が偶然見つけたのだ。この言葉すら信用できぬのであれば、こちらとしてはお手上げだ。証明する手立てなど有りはせんのだからな」

「私の装備は?」

「心配せずともひとまとめにして保管してある。完全に回復した暁には、砂粒一つ余さず返してやろう。しかしお主は砂漠の中で何をしておった。砂漠を舐めておるとしか言えんような服装だったが」

「ただの事故。で、アンタは蛮族の長ってこと?」

 後方に控えたゴブリン共に目を向ける。彼らは皆大人しく老婆の言うことをよく聞いて、メイスを片手にミツキの動向を伺っていた。

「いかんとも答え難いな。今でこそここには蛮族しかおらぬが、人族だって訪れる。ここは砂漠に点在する中継地点だ。儂はその維持管理をしておるだけに過ぎない」

「嘘だ。正規の中継地点なら、蛮族なんかに管理させるはずが無い」

 老婆がわずかに口角を上げた。

「裏ルート。公式から離れたコースでしょ」

「いかにも」

「なるほど。密輸業者も含めてしまえば人族って言った事は嘘でなくなる」

「予想以上に頭は回るようだ。さすがだ、としか言いようが無い。補足するなら密輸業者のみにあらず、亡命者や、どこぞの軍隊なんぞも訪れる。儂らはそうした者どもに対して物資の補充と、安らぎの場を提供し、報酬を得て生活しておるのだ。どこへ向かうつもりだった?」

 目を強く閉じ、軽いめまいを払い除ける。茶碗の中に自分の影が映り込む。細かな波が立つ水面に合わせて影も揺れていた。

「帝都。そこが私の帰る場所」

 蛇の目を閉じる。口の中で帝都、と呟き繰り返す。やや間を置いて目を細く開けた老婆の瞳を、砂漠の光が照らしていた。

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