36
赤色の朝の陽が射す教室は、どこかよそよそしいものだった。大して仲が良いわけでも、かと言って特別悪い訳でも無いクラスメイト達の影が伸びる。普段なら、仲の良いグループで固まり他愛ないお喋りに興じているはずなのに、今日は一つのグループ、一つの話題で持ちきりだった。
影の群れが見守る中、一人離れてミツキに歩み寄る。互いに認知はしているがそれだけの男子生徒が好奇な視線を一身に浴びて、突っ立ったままのミツキの前に立つ。
「なぁ、大丈夫か? お前一番仲が良かったもんな。俺で良ければ話、聞くぞ」
心配そうな口調で、神妙そうな面持ちながら鼻の穴を膨らませている。表向きこそ心配しているが、その実探偵気取りな愚か者だ。話を聞くと謳いつつ、隠す気のない本心では情報を寄越せと催促している。
ミツキは彼を無視して鞄を下ろす。本当にやるかどうかもわからない、授業の用意を準備する。
「ヒナタのことなんだけどさ。お前一番仲良かったよな。一応ほら、俺達同じクラスだしさ。なんであんな事をしたのか、早く分かった方がお前の為にもなるかなって思ってさ。何かいつもと違ったり、知ってることとか、あれば教えて欲しい、かな」
しつこく付きまとう素人探偵など居ないかのように、淡々と教科書類を机の中にしまっていく。現文、古文、生物、英語、世界史、物理、次から次へと知識の束を机の中に押し込んでいく。
「お前本当に」
「大丈夫だから、あっち行ってて」
ごめん、と一言、そしてため息をつき素人探偵はようやく離れて行く。好奇の目で成り行きを見ていた群れに戻れば彼はさながら英雄で、死地から生還した彼を湛え同情し、ミツキの態度に眉をひそめ合う。
小鳥のさえずりのような無意味に囁き合い、性格的にどうだとか、ステレオタイプな素人理論を並び立て勝手な憶測で理解した気になっている。自分たちの方が悲しんでいると、より人間らしいと信じて止まず、悲しそうなそぶりも見せないミツキが人間である事さえ疑う声さえ聞こえていた。
ミツキは無言で立ち上がる。級友達に背を向けて、朝日に染まった赤い教室からたった一人で出て行った。