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沈む太陽と昇る月  作者: あいあむ
夜の空
3/112

3

 原理だけはずいぶん前から考えていた。今まで試してこなかった自分の魔法の可能性の一つを、今こそ試してみる時だった。

 まずは充分以上の血を流す。次に新しい外套で血を包む。最後に魔法を使うだけだが、その前に脈打つ自分の傷に意識を向ける。流血は徐々に穏やかとなり、傷は瞬く内に塞がっていく。肌に付いた血を拭い取ると深く負った傷は跡形も無く、文字通り完全に消えていた。

 不老不死、それが彼女の魔法だった。多少の傷はもちろんのこと、どんな大怪我だろうと直ぐに治る。魔力量は膨大ながら、特異な魔法である為に攻撃への転化が全くできない。だからこそ師であるレインの下で剣術に武術を学んだし、レナームをも味方につけた。

 レナームにとって見てみれば、初めこそ膨大なミツキの魔力に惹かれただけだろうが、もう長い事一緒に過ごして来た。言葉を解する訳ではないが、何も言わなくとも意図は理解してくれる。狭い場所を除けばどこに行くにも一緒であったし、これから先も変わらぬだろう。

 外套に、正確には外套で包んだ血に魔法を使う。外套は得も言われぬ動きと共に、歪な形に膨らみ始める。やがて重量を増す外套を彼女はレナームの背に置いた。暫くそれは不気味にうねり蠢いて、やがて端から足が覗く。次いで両手が出現すると、最後に頭が現れた。

 遅々とした動作でそれは起き上がる。片手で外套を抑え込み、辺りを見渡しミツキで止める。彼女の持っている目の色は、鏡で見る色そのものだった。

「何か覚えていることは?」

 生まれたそれはミツキが身に付けていたブーツを、防具を、武器を見る。そして自分の現状を見て、ゆっくりとした瞬きをする。そして小さく口を開けたかと思うと、開口一番ため息をついた。

「上手くいったんだ。そして私が後から生まれた偽物って事か。服ちょうだい。ポーチの中に入っているでしょ?」

 ポーチと呼んだ背負い袋を投げてよこす。たとえ血の一滴だろうと、歯の欠片だけであろうとも、それは間違いなくミツキ自身だ。ならばそこに不老不死の魔法をかけてしまうとどうなるか。答えは今ここに、ミツキの目の前にあった。

「地図を見ていた。ナイフを突き立てた所までは覚えている」

「やっぱり。なら今、私が何を考えているか分かる?」

「もちろん。事が済んだらどうやって私を処分しようか悩んでいる」

 ミツキは歯を強く噛む。見れば見る程自分だった。身長も、おそらく体重も、気にしたことも無い何気ないような動作まで、他人から見た自分はこんな感じなんだと思わせられる。

 何の事も無げに彼女は服を取り出し身に着ける。シャツもパンツもサイズは完璧、つまり自分と全く同じ。黙り込んだミツキに冷たい笑みを浮かべると、起伏の薄い話し方で言った。

「冗談。もうアナタと私は別個体。本当に分かる訳ないじゃん。役割が済んだらちゃんと消えるから。そんな怖い目で見ないでよ」

 ブーツに防具を身に着けベルトには短剣を下げる。グローブにバックラーを取り出して、順に装備していく。外套をその身に纏うと、暴れる髪を慣れた手つきで結い上げた。

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