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黄昏前の光が部屋に差し込む。ミツキは目を擦り、身体を起こす。固い床の上で寝たからか、体中が痛む。大きなあくびを一つすると、両手を組んで身体を伸ばした。
酷い夢を見ていたような気がする。内容はほとんど覚えちゃないが、心臓は激しく脈打ち、口は乾き、鼻の奥に軽い痛みを感じた。数分の時間をかけて頭が覚醒しきるのを待つ。改めて大きなあくびをすると、赤い果実を手に取った。
ふと目の端に、よく見慣れた物が映りこむ。昨晩この小部屋に来た時は気づかなかったが、それは剣のようだった。果実を片手の平の上で転がしながら、手を伸ばし、指に引っ掛け手繰り寄せる。剣ならば遺跡に来てから沢山見て来たが、あまりに古く風化して、一度でも振るおうものなら折れてしまいそうだった。
本来ならば九つもの武器を扱うミツキにとって、短剣とナイフを一本づつしか持っていない今、武器が少なく、心もとなく感じていた。不十分な武器を補うべく、良い状態の物があれば装備品に加えようと考えていた。だが見かける武器はどれも劣化して、彼女のお眼鏡にかなうレベルには到底届かなかったのだ。
傷の無い果実を脇に置く。鞘に目立つ装飾は無い。ミツキの短剣と同様に革製で、汚れが全く付いていない。使われた形跡の無い鞘を握って、親指を鍔に押し当てる。軽い力を指に込めると、唾を丁寧に押し込んだ。
剣が鞘から抜ける音が小部屋に響く。壊れ物を扱うように柄を持つと、刃を鞘に擦らせながら抜き放った。
ミツキは思わず目を見開いた。刀身は赤く曇った色をしており、傷の一つも着いていない。太陽の光を受けて赤みは一層強くなり、薄暗い部屋の中を深紅の輝きで染めあげていた。
大きさからして片手剣だが通常の物より重量がある。振りが遅くなる一方で、破壊力は高いと言える。柄は充分以上に長くあり、両手で握ることもできる。ミツキは片手で剣を構えると、仮想の敵へと二度斬りかかる。両手に持ち替え突きを放ち、そのまま派生し切り払う。
以前に一度、青く輝くオリハルコンの剣を借りたことがある。金属にしては極めて軽く、どれほど雑に扱おうとも刃が欠けることは無い。実用的な装飾は大層立派で、世界に一本しか存在しない業物中の業物だった。持ち主いわく、大切な人の形見だそうで、たった数分の後に力づくで取り返されてしまった。
見つけた剣は勝るとも劣らぬ逸品だ。赤き刃を持つ剣を、逆手に持ち替え鞘に納める。期待以上のお宝に、心弾ませ背に背負う。位置を何度も調整したがどうも馴染まず、やむなく腰に装備する。
今日の空は澄んでいる。砂漠の向こうに隠れかけた、太陽の赤い光の下で出発の為に身支度を整えた。