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 砂の狼に追いついた頃にはほとんど全てが片付いていた。

 亡霊騎士の小隊は狼によって無残にも噛み殺され、落ちた空の甲冑を砂の前足が踏みつける。砕けた騎士の甲冑は白い砂へと生まれ変わり、風に吹かれて消えていく。

 狼は、馬に乗り、通りを逃げる三人の騎士に目を向ける。槍や剣、斧をそれぞれ振り回す。いずれも騎兵用の立派な武器ではあるものの、さらに巨大な狼にしてみれば、他愛のないおもちゃのような代物だった。

 背を丸め、爆発的に加速する。目にも止まらぬスピードで、二人の騎士を追い抜きざまに葬り去った。残る最後の一人の前に、音も無く、軽やかな身のこなしで着地する。口の端から鋭い牙を覗かせて、無音の唸りで威圧する。圧倒的な力を前に観念したのだろう。騎士は長い槍と盾を構え直すと、馬の脇腹を蹴とばした。

 悲鳴にも似た嘶きを上げ、狼に向かって走り出す。揺れ動く馬の背では亡霊騎士が槍を引く。姿勢を屈め、睨みを効かせる狼は、むやみやたらと突っ込む騎士に真正面から食らいついた。

 亡霊騎士とその馬は、狼の中を突き抜けて短い間エメラルド色の光を放つ。何事も無く済んだかのように、しばらくそのまま走っていたが、やがて膝が折れ、頭が垂れて、砂を被った通りの上へと崩れ落ちた。

 騎士と馬の肉体は元の魔力に分解されて消えて行く。地面を滑り、完全に止まってしまうより早く、騎士の身体は消滅していた。

 短剣の鞘に片手を添えたまま、砂の狼と対峙する。王の如く堂々と、威厳を持った立ち振る舞いで、ミツキの遥か頭上から無言で彼女を見下ろしている。手を伸ばすなら、触れられそうなほど近い。やがて興味を失ったのか、頭をゆっくり持ち上げるとミツキに背を向け、城に向かって走り出す。ミツキは鞘を手放すと、思わずため息をついた。

 万が一にも戦闘になっていたなら、当然無事では済まされなかっただろう。ただの小物と判断したか、それともただの気まぐれか。いずれにしても、無傷で立っていられるのは単にツイてただけに過ぎなかった。

 エメラルド色の人通りを抜けて城へと戻る。まだ夜は始まったばかりだが、もう一日だけ亡霊都市で過ごすことにした。先の戦闘で疲弊したのも事実だが、大気に満ちる砂による視界の悪化が主な理由だった。ついでに城を探索し、お宝を見つけられれば御の字だ。価値のある貴重品を発見できたなら、砂漠で遭難した甲斐あったと言えるだろう。

 城門の前に着いた時、一陣の風が城へ流れる。周囲の空気を道連れにして天に向かって、風の抜け道を作り出す。空を覆う砂塵に円い穴が開く。ふと見上げれば、澄んだ空から月光が斜めに差し込んでいる。青白い天の光を受けながら、小さな小さな火の玉が、砂の狼と共に星空の中に消えて行った。

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