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 槍のように尖る石突の初動に合わせ、頭一つ分低くする。鞘で軌道を外へ逸らすと、慣性で遅れた髪をすり抜けて、外套の膨らむフードを刺し貫いた。

 鞘で戦斧の柄を抑え、アーマーの隙間に剣を差し込む。腹部の小さな隙間から刃を一気に引き抜くと、デュラハンは片膝を付き、武器を持つ手を地に付けた。

 ミツキは無言でデュラハンを見下ろす。甲冑は傷に満ち溢れ、投じて来た戦いを想起させる。相手に自分の武器を与え対等にする、正々堂々とした戦いぶりに心の中で敬意を表しつつ、片手剣を両手で逆手に持ち替えた。

 空っぽの甲冑の中に浮く命の炎に目を向ける。甲冑がもたらす闇に浮く、光は小さくも強く輝きを放つ。信念か、執念か、それとももっと違う何かを断ち切るべく、剣先を光に向けると、ひと思いに貫いた。

 霊馬がデュラハンの傍らに歩み寄る。荒々しく勇猛だった姿は一体どこへやら、動かぬ騎士に静かに寄り添う。薄れゆく甲冑の脇で脚を曲げると、砂に頭を乗せ消えてしまった。

 甲冑が消え、戦斧も徐々に薄れゆく。魂の下に募った魔力が核を失い霧散する。月の光に当てられて、手にした剣も無くなると、唯一残ったミツキの足跡さえも砂漠の風が吹き消した。

 カンテラに収められてたイグナイト達が解放されて、好きに飛び回りながら空へと消える。ミツキは夜の寒さに身震いすると、遅々とした動作で捨てた装備の回収に向かった。

 鞭、もとい食料であるワイバーンの尾を肩に掛け、壊れたバックラーを拾い上げる。戦闘中の混乱で果実は砂に消え、半分近くを失った。なるべく探してみたものの、埋もれた果実を探すのは並々ならぬことでは無かった。

 果実の皮を噛み千切り、甘い果汁を吸い上げる。幾分か呼吸も落ち着いた頃、強い風がミツキを包む。砂漠の砂が夜空を覆う。力の弱い星から光は失われ、一つ、また一つと消えて行く。

 風に乗る砂が集い波打ち砂の狼となり砂漠を駆ける。頭、肩、腰、尾の順に身体を激しく上下させ、一歩一歩蹴りだす度に風が吹く。

 長いこと各地を旅して回ったが初めて見る存在だった。見た目からしてゴースト系の近縁種だろうが、具体的な種は分からない。

 片手で風を遮り目を守る。砂の狼がミツキの頭上を飛び越えた後、わずかに遅れて来た風が髪を乱して吹き抜けた。外套が激しくはためき、大きな音を奏でている。月の光の射す下で、砂の狼は城壁を越え遺跡の中に消えて行った。


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