20
白い砂地は貪欲に零れた落ちた血を吸い尽くす。痛みはほとんど無い一方で、視界は極端に狭くなり、肉体が悲鳴を上げる。ブーツが砂地を深く掘り、二本の平行線を描く。
歯を食いしばり戦斧の柄を掴む。赤く染まった刃を抱え込み、自身の身体を支点に変えて力の限り柄を振った。
デュラハンの安定していた重心がずれ、仰け反り後ろへ傾いていく。馬の速度もさることながら、纏う装備の重量と、意地でも戦斧を離すまいと努力する、行為のすべてが徒となる。急ぎ手綱を掴もうと手を伸ばすにはもう遅く、二度、三度と空を掴むと鞍の上から落下した。
鐙に足が引っかかり、馬に引かれて地面を滑る。デュラハンは戦斧を片手に握ったまま、剣を引き抜き、霊馬の腹ごと絡む鐙を切り落す。
無い頭を重々しくもたげ、苦労しながら起き上がる。左膝から右足、左足と順に、砂地につけて両手で戦斧の柄を掴む。杖の代わりに柄を突き立てて、力を籠めると二本の足で立ち上がる。
ミツキは傷付いたアーマー越しに手を当てる。溢れ出る赤い命の源がたちまち止まり、傷が消えた。鞘に納めていたと言え戦斧を真正面から受け止めた短剣は、見るも無残に欠けており、剣と剣との打ち合いでさえ、決して長くは持たないだろう。
青白い月の光が射す下で、二人は外套を風になびかせ対峙する。主人に加勢するべく戻った霊馬を制止して、デュラハンは自らの片手剣を鞘ごと外し、ミツキに向かって投げてよこした。
首なし騎士に目を向けながら、慎重に片膝を付き拾い上げる。簡素で質素で装飾の一つも着いてない。鍔に親指を押し当てて、力を籠める。剣身は鋭く細く、幽かな光を放つ。月光と同じ色で光輝いて、重さを欠片も感じさせ無いでいた。
短剣を腰に戻し、剣を構える。一方の手に片手剣を、反対の手には鞘を逆手に構え持つ。手首で軽く剣を回すと、デュラハンに向かって走り出した。
砂を踏むたび舞い上がる。一挙手一投足に全神経を集中させる。ミツキを迎え撃つべく振りかぶった斧を見て、ガードの為に鞘を握りなおした。
剣を引き、懐に飛び込まんと加速する。最も危険な中距離を抜け剣の先を向けた時、眉間に定められた石突が面前にまで迫っていた。