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霊馬が蹄で大地を叩く。馬の腹を蹴り飛ばし頭の上で戦斧を回す。まさに人馬一体と化したデュラハンは、手綱を介さず馬を走らせる。全速力で駆る馬は、速度や大きさに甲冑の重量も相まって、その様子は自動車に近い。
短剣を上段に、鞭を下段に構える。両足を肩幅に広げて腰を落とす、教わった通りの姿勢を保つ。短剣よりもリーチはあるが、迫る馬の速度を鑑みれば攻撃可能な時間は一瞬だ。馬上からの攻撃に特化した敵の装備を前に、不利なままであるのに変わりない。かと言って、逃げて助かる相手でもなさそうだ。
襲歩で迫る馬の足が時計回りで接地する。充分に速度が乗って交叉襲歩に移行すると、安定した背中の上でデュラハンは、長く持った戦斧を振るった。
最小限のステップで避けて、馬を掠めながら頭を下げる。迫る軌道修正した柄に短剣を合わせると、速度を合わせ、下から頭上に持ち上げた。
受け流すと同時に身体を捩じり、回転しながら鞭を振り回す。デュラハンの足、馬の胴、そしてイグナイトの詰まったカンテラを減速せずにすり抜けて、色付きの風を引き裂いた。
心臓が早鐘を打つ。たった一度の衝突が交感神経を刺激して、大量のアドレナリンを生み出す。闘争と逃走の神経は血圧を上げ、ミツキの瞳孔を拡大させた。目の渇きさえも気に留めず、ターンしてくる敵を見据える。
ギャロップで再突撃を図るべく、戦斧で馬の尻を打つ。ミツキは先ほど同様の体勢を取るも、鞭を手放し鞘を外して剣を納めた。
鞘付きの短剣を片手で構え接敵に備える。デュラハンに限らず騎兵全般に通じる事で、破壊力に秀でているが攻撃が直線的すぎる。恐怖に勇気が打ち勝つならば、この程度の攻撃に当たることは無い。
振り上げられた戦斧の刃を白い光が、先に向かってなぞり上げる。長い柄をしならせながら、デュラハンはまた水平に斧を振るった。
両足を前後に広げ、短剣を縦にし鞘を支える。可能な限り腕を前に出し、肘を少しだけ曲げておく。斧の軌跡に交差するよう合わせると、真正面から受け止めた。
革製の鞘を引き裂き、短剣の刃と打ち当たる。刃と刃のぶつかり合った振動が両腕を通じ、痺れとなって全身を巡る。衝突の衝撃を腕を曲げて和らげるも完璧だとは言い難く、斧は速度を落としながら、ミツキの纏うアーマーをいとも容易く切り裂いた。