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今まで気にも留めてこなかったが注意して見てみれば、翠玉の彫像はいたる所に存在していた。
建物の中、屋根の上から通りの中央にまである。目にしただけでも数十体か、それ以上もの数にも上り、総じて剣を持つ兵士か、もしくは恐れおののく人々に大別された。
もちろん彫像の一体一体はどれをとっても傷は無い。屋外に晒され続けた像だけは、わずかな傷が付いているも気に留めるほどでは無かった。いずれにしてもその表情は異様なほど生々しい。腕を曲げて浮き出た筋肉の盛り上がりから、指毎に異なる爪の形さえ表現され、悪趣味なまでに几帳面な製作者の性格が十二分に見て取れた。
かつての通りをまっすぐ進む。砂埃で霞む視界の先に、これまでとは全く様相の異なる建築物が見えてきた。
干しレンガとも違う。白く黄ばんだ石材で建てられた、巨大な宮殿だった。今ミツキがいる通りは正面のファサードへと続き、幾何学的かつ抽象的な彫りの浅い彫刻の巨大な門が、半壊しその口を大きく開けていた。
権力者と呼ばれる存在は最も豪華な場所に住みたがる。この世界でも、元の世界でも同じことで、もはや世界を越えて共通する法則なのかもしれない。
この法則に従うならば、亡国の王の城となる。
砂漠故に背は低く。代わりに広い床面積を擁している。背の高い塔もいくつか残存しているが、居住のためでは無さそうだ。
ミツキは崩れた門から入り込む。太い柱が立ち並ぶ回廊が真っ先に姿を現す。緑の彫像は数え切れぬほど並び、武器を持った兵士の姿を象っている。ご丁寧にも、像が纏う防具は二つに別けられていた。
建物内は打って変わって適度に陰り、穏やかな風に満ちている。当時の王の応接間か、謁見の間と言ったところだろう。長方形の広間は砂の浸食も無いに等しく、正面には金細工がふんだんに施された椅子が安置されていた。
装飾を細かく見る気にもなれず、外套を外して玉座に引っ掛ける。果実の乗ったバックラーと、ワイバーンの尾を脇に置いて座り込んだ。
左右のブーツを放り出す。歩き疲れて痛む足を肘置きに置き、反対側を枕代わりに頭を乗せる。眠気の淵に呑まれる前に、防具を外してしまおうと遅々とした動作で外しにかかった。
適度に吹く風が心地よい。普段の倍は時間をかけて、武具と防具を外しとる。乱雑に投げ出されたアーマーは汗と砂とワイバーンの血にまみれ、一部は傷付き、焼け焦げてすぐにでもメンテナンスが必要だった。
無いとは思うが念のため、短剣を腹に抱え込む。万が一にも敵が来たときに必要となる、実用的なお守りだ。頼れる者は自分しかいない。防具は無くともなんとかなるが、武器だけは手放すわけにいかない。
剣の重さを感じつつ、外套を大きく広げて身体にかける。まばたきをしようとしただけなのに、瞼は二度と開くことなく、眠りの淵まで落ちていった。