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砂漠だろうと、森だろうと、海底であろうとも。昔、国があったとしても驚くには値しない。現在こそ過酷な環境下だろうとも、かつては肥沃な土地であったり、温暖な過ごしやすい気候である場合がざらにあるからだ。
しかしこの都市に限っては、初めから今と変わらぬ環境下に築かれたものらしい。やや黄色味が掛かった日干し煉瓦は砂漠の砂に極めて近い。壁は厚く重厚な造りをしており、砂嵐対策だろうか、大抵の建物は背の低い平屋となっていた。
時と砂の浸食が控えめな建物に目を付ける。なんら他と変わりない、ただの平屋だ。ミツキは戸の無い入り口から中を覗きこみ、先住民が居ないと確信すると中へ滑り込んだ。
内部は言うまでも無く薄暗く、直射日光が当たらぬ分だけ涼しく心地よい。風通しは決して良いとは言い難い。他の建物には内部まで砂が積もっていたのを見るに、偶然にもこの建物の立地が悪いだけだろう。
家具の無い屋内は狭く、圧迫されそうだ。だが反対に、ヒトの大きさに合わせたサイズ感は丁度良く、一定の安心感をもたらしている。
夜通し歩き続けた疲労がたまり、眠気となって襲ってくる。休める場所を探し求めて隣の部屋へ移動しかけた時、目の端に人影が映った気がした。
咄嗟に身を隠し息を潜める。尾を離すと、いつでも抜けるように短剣へ手を伸ばし、相手の出方を伺った。
刻一刻と、時間だけが過ぎていく。干しレンガの壁に砂の当たる音だけが耳に届き続ける。こめかみから汗の雫が流れ落ちる。何ら動きが無いのに業を煮やし、ミツキは慎重に部屋の奥を覗きこんだ。
部屋の奥には誰も居なかった。だが、人影を見たのはあながち間違いでも無かった。片手剣を持ち、防具も衣服も纏う彫像がミツキに背を向け立っている。兵士の彫像が見つめる先には両手で顔を覆い尽くす、男と女そして子どもの彫像が見上げていた。
皆揃って服を纏い、生きとし生ける人のように恐怖の色を湛えている。さらに驚くべきことは、いずれの像も光を受けて深緑色の輝きを部屋の中にもたらしている事だった。
ミツキは柄から手を離し、手を振れないように顔を近づける。兵士は大きく口を開け、何か命令しているようだ。エメラルドに似た輝きをしているが、不純物も傷も無い。腕に浮き出た血管さえも緻密に表現されているがまず鉱物として、そして彫刻として存在するはずない代物だった。
考えられるとするならば、鉱石に関する魔法を扱う何者かによって、作り上げられた作品だろう。
ノミとハンマーで叩いて作れるはずが無く。これほど巨大な原石がいくつも転がっている訳がない。研磨傷も全くなしに、滑らかな曲線を形作られていること自体あり得なかった。
新たな仮説、何らかの魔法が人だったものに作用してエメラルドへと変えてしまった可能性が頭をよぎる。しかし、それこそ削って作る以上にあり得ない。
魔法は意志の力で制御する。この世に存在する意志あるものは意識、無意識によって常に自身を他者の魔法から守られている。例え神格であるレナームだって、敵の体内で炎を起こすことは不可能なのだ。
ミツキは考えるのを止め事実だけを記憶すると、うす暗い建物から外に出た。