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高い砂丘を登る。乾いた砂は滑りやすく、普通の山より登りにくい。強い風も相まって何度も転倒しそうになった。澄んでいた空気は砂塵を含み、薄れぼやけて見通しが悪い。自分が今まで残してきた足跡は早くも砂に隠されて、数歩分のみ後ろに続くだけだった。
峰の頂から顔を出す。見たような小山がどこまでも続き、常に形を変えている。海原にも似た光景で、月光のもたらす光と影が明確にわかれていた。
ミツキは砂の上に座り込む。長いこと歩き続けて疲労がかなり溜まっている。極端な寒さも原因の一つだ。収穫した赤い果実を取り出して、ナイフを突き立て皮をむく。厚い皮を投げ捨ると一思いにかぶりついた。
口いっぱいに甘みが広がり渇きが癒える。あとは焚火ができれば最高だった。
陽が沈んでなお気温は下がり続け、風を遮るものも無い。体感温度は零度なのだが深夜にかけてさらに下がるだろう。身体は小刻みに震え続け、エネルギーと熱を求めている。
一瞬、砂塵が和らいだ。開けた視界の遥か先に、砂丘とは異なる物が見えた。台地にしては直線的で、人工物のようにも見える。帝都、もしくは旧都かと問われれば、いずれにも共通する尖塔がない。ミツキが瞬きをした時、ひときわ強く風が吹き砂埃が視界を覆い隠した。
影の台地は丁度目指す先、西の方角にある。今晩中、進み続ければ明け方頃には辿り着くだろう。ミツキは果汁の一滴までなめとると、荷物を持って立ち上がった。
遠回りにならぬ程度に峰沿いに進む。大きな耳をした猫がうろつき、驚いた蛇が地中に潜る。天蓋を黒く覆う帳の表面に星が張り付き瞬き輝く。ミツキはひたすら足元に視線を落とし、西へと向かう。
適度に休憩をはさみつつ歩き続ける事、数時間あまり。ついに東の空が明らみ始めた。
台地のように見えた物は確かに人工物のようだった。風と砂による風化は著しいものの巨岩のブロックが積み重ねられ、砦のようになっている。帝都とは比較できぬほど小ぶりだが、ちょっとした国の首都と変わらぬ規模を有していた。
ミツキは崩れた砦の隙間から、中へと踏み入れる。
砂が厚く積もり、都市本来の姿は分からない。ただの軍事要塞では無さそうだ。民家のような建物も多く並んでいる。全ての建物に共通するのは、極めて古く人の手がない事と、半分近くまで砂に埋もれていることだった。
熱を含んだ風が砂と共に駆け抜ける。ミツキは赤く染まる東の空を振り返ると、灼熱の太陽を避けて過ごせる場所を遺跡内で探すことにした。