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沈む太陽と昇る月  作者: あいあむ
世界と人と全ての神の創造者
111/112

111

「ヒナタはどうして自殺したの?」

 ヒナタは伸ばした手を下ろし、流星を数えるのをやめる。輝きはどれも一瞬限りで、一秒だって持つものは無い。儚く消えた光の跡から、また新しい流星が輝き生まれ、一瞬だけの煌きの後、また消えた。

「自分の価値が信用できなくなって、違うか。自分に自信が持てなくなったからかな。ミツキは?

「私もたぶん、同じかな」

 夜の世界の突きに目をやって、天の川を越え昼の世界に目を向ける。いずれ青に変わるであろう、赤みを帯びた東の空は澄んだ茜色を放つ。

「私は唯一無二だと思っていたけど。でもいったい誰にとって? ヒナタが死んでから気づかされた。私に一番近い人でも、結局自分が一番だった。世界でただ一人の存在だろうと、見てくれる人が居なければ、意味も、価値もないんだってね」

 大の字で寝転がったままヒナタはソードに目を向ける。ソードは変わらず天を見上げ、ゆっくり目を閉じまた開く。

「でも、あの世界には私に価値を見いだしてくれた人が居た。私のままで、私の全てを肯定してくれた。自分を守るのに精いっぱいな世界だったけど、あの人に会えたことだけは良かったかな」

「また、あの世界に戻りたい?」

「もう、いいかな。ちょっと休みたい」

 わかったと、ヒナタは小さくそう言った。ソードがヒナタに目を向けた時、彼女は鼻を啜って顔を背ける。彼女に声を掛けようと手を付き半身を起こした時、ヒナタは唐突に寝返りを打つとソードに抱き着き驚かせた。

 普段なら、やめろと言って拒絶するところだが、今日はそれができなかった。ヒナタの目と鼻は赤く染まって、やたらと鼻を啜っていた。泣いてるの、と聞いては見たが彼女は無言で首を横に振った。

 彼女の背中を優しくさする。いつしか流星群は納まり、天の川も消えつつあった。太陽は天蓋の頂点を目指して進み続けて、月は地平に沈みつつあった。月の時間は間もなく終わる。だが時が過ぎれば、また月の時がやってくる。それまで地平の下で月はゆっくり休むのだ。

 学校の鐘が鳴り響く。音は重くてよく通り、澄んだ空に、世界に響かせる。ヒナタは大きく鼻を啜ると、遅々とした動作で身体を起こした。

「ミツキ、また会えてよかった。本当に、心から

「私もだよ、ヒナタ。待っててくれてありがとう」

 今度こそ、ヒナタの手を取り起き上がる。しなやかな彼女の手は冷たくも温かくあった。二人は手を取り見つめ合いつつ微笑を浮かべ、やがて手を緩め、そして指が離れて、最後に指先が互いを求めて宙を掻いた。

「生まれ変わったらまた会おう。そしてまた友達に」

「うん。なろう。そして今度は二人で一緒に大人になろう」

 学校の鐘が二周目に入る。空気を震わすその音は、魂の終着と、そして新たな旅立ちを祝福しているかのようだった。二人は一緒にコンクリートの縁に立つと、ヒナタが笑顔で口を開いた。

「さぁ、行って。アナタの物語はこれでおしまい。でも不滅の勇者ミツキの話はまだ続く。アナタが別けちゃった魂はまだあの世界にとどまっているから、みんなを待って私も行くよ」

 太陽と月、二人の影は重なった。ソードはとびっきりの笑顔をヒナタに向けると、門の先へと落ちて行った。

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