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赤い剣から血が落ちる。額を伝い流れて、目元へ向かう。力の抜けたミツキの身体は抱き着くようにソードの上に覆いかぶさる。ナイフと共にミツキの身体を脇へ転がすと、一人力無く立ち上がった。
ブーツで転がし仰向けにする。瞳孔は既に開き切り、見る間に血の気が失せていく。不老不死の魔法だから彼女はまだ生きているかも、なんてことは無さそうだった。
脈打ちながら一つ転がる心臓を踏みつぶす。水風船さながらに多量の血を吐き出して、靴底の跡を浮かべている。ただ単に動いていただけの心臓はあっけなく、無力でひ弱な塊として、その短すぎる生涯を今終えた。
ソードは思わず身震いをした。自分で自分の抱きしめて、急に感じた寒気を防ごうとする。記憶に残るミツキの温度は、冷たい空気に攫われどこかへ消える。暖炉の炎も尽きかけて暖まるには弱すぎる。暖を求めて外に出た時、天に輝く溢れるほどの火に気が付いた。
青く通った空の下で、全身で光を浴びる。暖かく、そして心地の良い天の光は、一羽の巨鳥の姿に変わる。全身の羽毛を全て炎に変えたその鳥は太陽を背に、大きく開いた口いっぱいに炎を滾らせまっすぐソードに降りてくる。
まったく、私らしい終わり方かな。
彼女は口元を緩め目を閉じる。目元で止まった赤い血が、目尻から頬を伝って顎から落ちる。雫が大地にぶつかって弾け、砕け散った時、天を仰ぐソードを炎の巨鳥が喰らいついた。