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両手で持った赤い剣で、青い剣を受け止める。肩からミツキにぶつかって、防具の上から切り裂いた。溢れ出した血は直ちに止まり、二つに切れた防具が垂れる。ミツキは防具を切り外し、ソードの追撃を素手で流す。
三桁をも超えて切り結ぶ。一進一退の攻防はどちらかだけに傾くことなく、優位と不利とを行き来する。傷も疲労も全て魔法で誤魔化して、全く同じ二人の勇者は合わせ鏡のようだった。
無理矢理に隙を創り上げて、先手を取ったのはミツキだった。暖炉の中に剣をかき入れ、灰と薪をソードに散らす。彼女が目を閉じた瞬間に、手首を下から切り上げる。赤い剣は回転しながら宙に舞い、天井へと深く突き刺さった。手を治し、刃の上から青い剣を叩き落とす。拾うより早くミツキが蹴って、滑り壁にぶつかった。
むき出しの手を軽く握り、牽制の軽い拳を二度放つ。予期した通り防いだ後に、蹴りを入れて来た。ブーツでしっかり受け止める。バランスを取る為広げられたミツキの手首を掴むと半回転し、背中越しに投げ飛ばす。彼女はソードの肩の上で身体を捻ると、受け身を取って逆にソードを床に投げ飛ばした。
思いもよらぬ反撃に背から床に叩きつけられる。回避する間も無く彼女は最後のナイフを引き抜いて、ソードの額目がけて振り下ろした。
咄嗟に出した両の手を刃は貫き目と鼻の先に差し迫る。片手をナイフの底に当て、徐々に体重をかけていく。両の足も固められ、身体を捩る事すらままならないでいた。
「レインさんに打ち勝ったこと、アンタにしては上出来だった。でももうおしまい。アンタ達はギルドによって紫ランクの蛮族として認定された。不死の身体に倒したはずの魔神を蘇生できる。おまけにこの世界にも、ギルドの内情にも詳しい。喜んで。紫ランクの蛮族なんて、世界で一体だけしかいなかったんだから」
彼女の垂れた前髪が、ソードの額に触れる。首から下がる鳥笛がソードの近くで大きく揺れる。手から流れ落ちた血が刃を伝い、その先端で徐々に膨らみ滴り落ちた。血は頬を伝い流れて、髪を赤く染めあげる。互いの瞳に映った姿を互いに見つめ合う。
「アンタの命を終わらせる。それが私の責任だから。私なりに敬意の表して、アンタの目だけは見ていてあげる。大丈夫。アンタが生きていたことは死ぬまで覚えていてあげるから。それが私の罪滅ぼし」
ナイフは更に重たくなって、切っ先がついに目に触れる。血が目に入るもソードはしっかり目を開く。赤く霞んだ視界の中に、暖炉の火を受け輝く赤色をした光が見えた。
「さぁ。終わらせよう。私達の戦いを」
「終わるのはお前だ!」
ソードは片目を犠牲に頭を持ち上げ揺れる鳥笛を口で咥えて、地からの限り吹き鳴らす。盛大に鳴り渡る甲高い音にミツキは怯みナイフを持った手が緩む。すぐに刃を押し返すと、天井に刺さった赤い剣に自分の魔力を差し向けた。
刃に付着した血が再生し、膨らみ剣を押し出す。刺さった刃は引き抜かれ、暖炉の光を撒き散らし、回転しながら落下していく。赤い剣の重たい刃はミツキの頭を刺し貫くと、ソードの額に触れて止まった。