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沈む太陽と昇る月  作者: あいあむ
天と地の所有者
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 音を立てて燃える暖炉の火の前に唯一の人影が座っている。安楽椅子を軋ませて、前後にのんびりゆったり揺れる。

「もう来ないかと思ってた」

 日本語だった。ソードと全く同じ声で、振り返ることなくそう言った。

「来ないなら来ないで良かったんだけど。せっかく来たんだし、どう? 私と少し話でもしない?」

 本を閉じる音がして、暖炉を蹴って安楽椅子を回転させる。器用にその場で半回転した椅子の上には、ソードと変わらぬ顔立ちの少女が足を組んで座っていた。

「あの人たちが言っていたんだけど、アンタ魔神を従えたんだって? それにその剣、レインさんに勝ったんだ。やるじゃん。さすが私って感じ」

 聡明なる郷士の騎士の本を片手に持って、頬杖を付く。揺れる暖炉の赤い光は、彼女が浮かべる表面だけの微笑みに濃くて深い陰影を作りだす。

「どうやったの? 魔神はレナームみたいに友好的じゃなかったはずだけど。復活させたら懐く訳? まさかそれだけなはず無いよね」

 胸元に下がるレナームの為の鳥笛が揺れる度に炎の光を受け止めて、艶やかなその表面に赤い光が瞬き映る。防具はもちろん九つの武器も全て装備し、唯一外套だけは身に着けないでいた。

「何とか言ったら? 会話にならない」

 ソードは何も言わずにミツキを見つめる。彼女は椅子から立ち上がると、本をテーブルへと投げやって腰の剣に手を掛けた。

「アンタと話しに来たわけじゃない」

「あぁ、そう。じゃぁ、一応聞くけど。何しに来たわけ?」

「アンタに答える必要は無い」

ソードは言い終えると共にミツキへ向かう。

 暖炉の炎が爆ぜる音が響き渡る。ソードはミツキへ走り出す。赤と青が平行する二本の軌跡を宙に残して、青、赤、青と切りかかる。抜剣と共に三度の攻撃を受けたミツキの短剣は早くも折れた。

「あぁあ、気持ち悪い。これが本当に私? 目つき悪いし服はボロボロで血まみれだし、髪もボサボサで白くなって来ているし。人間と言うよりどっかの化け物みたい。私と全く同じ顔して、同じ声をして。こんな化け物産み出した私が一番悪いんだけど、それにしたってあり得ない」

 ソードが剣を振る度に、ミツキの武器が砕け飛ぶ。青で短剣を弾き飛ばして、赤で片手剣を砕き折る。絨毯や壁、テーブルを引き裂き砕き、破壊しながら追い込んでいく。

「あの日の事を記憶しているのなら知っていると思うけど、アンタを産んだのは魔神を倒すためであってアンタ自身を望んだわけじゃない」

 ナイフの突きを青い剣の透かしで止める。捻り落として切りかかる赤を、彼女はバックラーで軌道を変えた。たった一度の攻撃でバックラーに深い傷が付く。ミツキの足払いを難なくいなすと、ナイフと短剣を打ち飛ばした。

「アンタの役割はもう終わってる。アンタを望む人なんていない。居なくなったと知った時、手間が省けて嬉しかった。なのになんでかな。そのまま死んてくれればよかったのに、私の前にまた現れた。そして今もこうして剣を向けている」

 ナイフとそして短剣を力任せに破壊する。赤と青の切っ先がミツキの防具を表面を裂く。彼女は転がるテーブルでソードの攻撃を一度だけ身を守る。

「これでも私すごく悩んで後悔した。だから二度と私を生み出さないと決めたのに。なんでかなぁ。アンタは私の意志に反して勝手に増えて立っている。レインさんたちには戦うなって止められたけど、せめてこの手でアンタの命を終わらせる!」

 頭の上から振り下ろされる両手剣を二本の剣で受け止める。力任せに両手剣を切り折った時、ミツキの蹴りが青色の剣を宙に飛ばす。ミツキは回る剣を空中でつかみ切りかかると、二つの剣がぶつかり合った。

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