ヒーローオタク、拉致される
昔からヒーロー物の特撮が好きだった。
悪人や怪人をバッタバッタとなぎ倒す姿にすごく憧れた。
毎日毎日録画テープが擦り切れるほどには見まくっ
た。
変身ポーズも鏡を見ながら死ぬほど練習した。
ヒーローに憧れて所構わず変身ポーズをとったり、決め台詞を言いまくったりした。
好きが高じすぎて空手や柔道、剣道ともう色々な武道や格闘技に手を出した。しかも途中から素人のくせに自己流まで編み出した。
おかげで小学校でのあだ名は『ヒーロー馬鹿』だ。いやあだ名が安直すぎるとか言うな。
何故そこまで狂ったようにヒーローに憧れたかというと、大切な人のために守れる強さが欲しいとかでもないし、大火災にあってその時救われた人の影響で正義の味方になろうと思ったわけでもない。
単にかっこいい、好きだから、それだけだ。
そんなヒーロー好きの、いや、ヒーローオタクの僕こと立川守器は今日から新しい高校に転入することになった。
その大事な転入日に僕はというとだな。
「寝坊したぁぁぁぁあああああああああ!!!!」
違うねん、昨日は気合入れようと好きな特撮シリーズぶっ通しで見てたらいつのまにか夜が明けそうになっててそれでいざ布団に入ってみると思ったより寝ちゃったから起きてみると1時間の大寝坊ぶちかまして今に至rってあああああああああああああああああああ言い訳してる場合じゃねえええええええ!!!
今の時間は8:50、普通に歩いて30分の道を、寝癖はついたまま、学生服のシャツは出しっぱなし、靴下は黒と赤のそれぞれ別のものを履いて、それはもうなんともみっともない姿で、全速力で走る。
僕は走るス○パーマン、さながら側から見た姿はちょっとした変質者、いやれっきとした変質者。
けどそんなものに構ってられない、転入初っ端から遅刻は格好がつかねえ、すでにこんな姿で格好はつかないけど遅刻はシャレにならない。
日の当たる坂道を自転車でもないし、地に足ついたまま駆けのぼらない、むしろ駆け下っている。
間に合え………!足が千切れてもいい……!二度と使えなくなっても、この瞬間だけは譲れねえ……!!
いややっぱ足は普通に使えるままでいてください。
そんなくだらないことを考えているうちに学校の門が見えてきた。腕時計にチラリと目をやるとまだ8:56、授業が始まるまで残り4分。
やったぜ!!どうにか間に合った、あとはこのまま職員室に向かうだけ。
と、安堵している僕の横に一台の車が止まった。
ただの車ならなんてことはない、いつもならそのまま素通りするだろう。
だが止まったのは黒塗りのリムジン。
ん?リムジン?こんな普通の住宅街にリムジン?なんで?Why?
と、チラリと目を向けると中からスーツ姿の屈強な外国人っぽい男たちがゾロゾロと出てきた。因みに全員ハゲてる。
しかもその男たちは僕を取り囲むように円になる。
因みに全員脂ぎってる。
ん???取り囲む???
なんだこの状況?????
なんで僕いきなり囲まれてんの???
ていうかなにこの人たち、急展開すぎて頭がついてきてないんだけど。えっ、ちょっ、腕掴まないで。怖い怖い怖い。
その外国人達は何かを確認するかのように僕の方を見ながら話し合っている。
そんなボソボソ話し合いしてんじゃないよ。絶対外国語で喋ってんじゃん。何語なの?英語?英語なの?
「立川守器君ですね。一緒に来てもらいます」
いやその見た目でめちゃくちゃ日本語流暢なんかーーーーーい!!
あまりに気が動転しすぎてしょうもないツッコミを入れてるうちに、筋肉ハゲスーツ軍団に取り押さえられ、リムジンの中に突っ込まれてしまった。
まあ言いたいことはたくさんあるけどとりあえず一つ。
転校初日、僕、拉致されました。