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第四話 妻問い

 色々と考えている内にも異世界転生した美少女の顔色は悪くなり、このままでは絶命するのも間近と思えた。


「親父は、お袋との出会いを童話の王子様になった気分で迎えたと言っていた……つまり……」


 喉元(のどもと)まで正解が出そうになっているのだが、思い浮かばない。


 そして再び彼女の可愛い顔を見ていると、柔らかそうな唇が目に入った。


「そうだ! 童話の眠り姫の目覚めは、王子様の口付け(キス)が定番だ!」


 俺は彼女の顔に、自身の顔を近付けた。


 丹精な作りの顔を見つめていると、心臓の鼓動が更に速くなり、口から飛び出しそうな勢いだ。


 顔に血が充血してくるのか、クラクラしてきた。


 それでも眠れる美少女のやや青褪(あおざめ)めた唇に、自身の唇を接触させた。


 ちゅ♡


 初めての口付け(ファーストキス)であったことを自覚すると、更に顔が熱くなる。


 一方、美少女の唇はひんやりしており、死人(しびと)のようであった。


 俺は仮死状態の彼女が目覚めるようにと、強く唇を押し当て、そして彼女の唇を舌先で押し割り大人の接吻(ディープキス)へと夢中で移行していたのだ。


 すると……、彼女の口の中に熱が帯び始めたではないか!


 美少女の睫毛(まつげ)が、(かす)かに動いて俺の額を(くすぐ)る。


「――……き、きゃあぁあぁぁぁ。わた、わたくしの唇を! この無礼者め、手討ちにしてくれる!!」


 そして美少女は目覚め、俺と接吻(キス)していることを悟ると、顔を逸らして激しく(ののし)った。


「ふぅ~~。ようやく……目覚めてくれた」


 対して俺は、安堵(あんど)の溜息を吐いたのであった。


「俺はお前を助けたい」


 俺は、一世一代の覚悟を以て、真摯(しんし)な態度で口説くことにした。


「無礼者め! (いまし)めを(ほど)いて殺してやる!!」


 対する美少女は(いき)り立ち、極度の興奮状態にあった。


「ならば……このまま、此処(ここ)で朽ちるまでお前を放置しよう。この石棺に納められた者は、この世界に取って不要物と判断されるらしいから、遺体も綺麗に消失してしまうみたいだからね」


 俺は(わざ)と、石棺から離れて壁際まで後退した。


 この位置からだと、俺の姿は見えないはずだ。


 一方、彼女は手足を拘束されているため、身動(みじろ)ぐくらいしかできない。




 俺が石棺から距離を取って見守っていると、石棺から脱出しようと美少女が悪戦苦闘している物音がする。


 更に(しばら)くすると、静かになり(すす)り泣く声が聞こえた。


 俺は彼女を助けたいという衝動に駆られたが、此処(ここ)が勝負処だと判断してぐっと我慢する。


「あの……もし……見知らぬ御方様。いらっしゃるのでしょう? 貴方様は、わたくしを救おうとして下さったのですわよね。先ほどのご無礼はお(ゆる)し下さい。どうかわたくしを助けて下さいませんか?」


 とうとう美少女は心細くなったのか、か細い涙声で謝罪と助けを求めてきた。


「俺はお前のことが気に入った。俺の妻となってくれるのなら助けよう」


 何だか魔方陣で喚び出した、悪魔(デーモン)と契約しているような気分となった。


 俺との婚姻契約は可哀想だが、彼女も姫騎士であったのならば政略結婚の実態についても理解しているはずだと考えたのだ。


「わたくしを妻に……、ですか。側室や(めかけ)は嫌よ。正妻であれば考慮するわ」


 ところが美少女は案外に(したた)かで、俺に条件を突き付けて来た。


「俺には妻がいない。お前だけだ」


「本当ですか?」


勿論(もちろん)、本当だ。もし嘘を言っているようなら、お前の剣で俺を殺すと()い」


「解りましたわ。わたくしは、貴方様の妻となります」


 俺は美少女から嫁入りの言質(げんち)が得られたことで、持ってきた登山用ナイフで(いまし)められていた荒縄を切ってあげた。


 そして再び美少女の身体を持ち上げたのだが、先ほどと異なりとても軽い。


 俺は腫物(はれもの)を扱うような丁寧な仕草で美少女を石棺から救い出すと抱き締めた。


 俺の鼻孔に美少女の甘やかな匂いが(くすぐ)り、柔らかくて温かな体を感じた。


 女の子の身体とは……、こんなにも良いものだったなんて……。


「ありがとうございます、貴方様。わたくしのフルネームは、シャーロッテ・タイロン・ブラスラームと申します。幾久(いくひさ)しく可愛がって下さいませ」


「俺のフルネームは天野英雄で名前は英雄だ。シャーロッテ、俺の方こそよろしく頼む」


「わたくしの……ヒデオ様」


 俺が名前を教えると、シャーロッテはぎゅと抱き着いて来た。


 この世に、こんな幸せなことがあったなんて……夢のようだ。


 俺が助けたシャーロッテは、ブラスラーム公国の第三公女殿下であったという。


 シャーロッテの年齢は、花も恥じらう16歳。


 昨年、『成年の儀』を終えたばかりの初々(ういうい)しい姫君(プリンセス)だった。


 シャーロッテは、故国が蝗害(こうがい)によって飢餓に襲われたことにより、神への救済を求める祭りの供物として奉げられたらしい。


 それにしても異世界では、贄は美少女に限るという話だが、とても可哀想な身の上だった。


 彼女はお付の侍女たちに湯浴みをして磨かれた後、司祭の手によって(いまし)められて『(とき)の狭間』へと投じられたのだとか。


 (ちな)みに愛剣と共に投じられたことから姫騎士として間違われたわけだが、シャーロッテは剣術が好きなだけの単なる姫君(プリンセス)であったらしい。


 ()うして俺は、(うるわ)しい彼女というか、美少女の嫁を得ることが叶った。


 本当に親父には、感謝の気持ちで一杯だ。


 ところで、可愛いシャーロッテは、ふわふわとしたピンクの髪と、空色の瞳をした美少女である。


 当面は(かつら)とカラーコンタクトが必要だろう。


 親父の話だと、一年もすれば日ノ本人へと同化してしまうらしい。




 そして二年後、すっかり日ノ本人と見分けがつかなくなった彼女と結婚した。


 当然のことながら、戸籍の偽造などは親父の伝手(つて)で処理済だった。


「可愛いお嫁さんね、英雄。大切にするのですよ。シャーロッテも英雄のことを頼むわね」


「はい、真璃亜お母さん」


「はい、マリア様。まさか英雄様のお母様が、姫騎士として名を馳せたマリア様だったとは……、あの時は吃驚(びっくり)しましたわ」


「わたしもシャーロッテみたいな花嫁さんを迎えられて嬉しいわ」


 花嫁衣裳を(まと)って嬉しそうな笑顔を向けてくる彼女は、とても(まぶ)しかった。


 そして彼女の名前は、天野(あまの)楽天(シャーロッテ)となったのであった。


 俺は楽天(シャーロッテ)を抱き締めて、誓いの口付け(キス)を贈り、彼女を幸せにするのだと決意した。


お読み下さり、ありがとうございます。

これにて完結いたしました。


 マリアの漢字表記は、検索してみると何と百種類以上ありました。流石に人気な名前ですね。その中から『真璃亜』を選択しました。

一方、シャーロッテの漢字表記の『楽天』は中国語のようでしたが、これしかヒットしませんでした。orz


 物語は「めでたし、めでたし」で終わるハッピーエンドも良いものでしょう。


登場人物

天野英雄(あまのひでお) 21歳 俺は……だ。

東亜大学の4年生

美男子なのだが、ダサイ親父の影響か全くモテない。

茶髪に黒目、中肉中背


天野秀幸(あまのひでゆき) 56歳 儂は……じゃ。

ダサい恰好をした中年親父

日帝大学で民俗学を教える教授でもある。

各地の伝承に詳しく、朽木村の天神伝説にも通じていた。


天野真璃亜(あまのマリア) 42歳 わたしは……です。

茶髪に黒目

英雄の母にして、若い頃は美少女として知られていた才色兼備な女性。どうして秀幸と結婚したのかは不明であり、秀幸以外には身寄りがなかったらしい。

正体は、異世界転生者のマリア


マリア・アネッタ・デ・アルンデルセ 17歳にて神に奉げられた。 

滅亡したアルンデルセ王国の第二王女

青髪に青灰色(せいかいしょく)瞳の凛とした王女様。姫騎士として隣国との戦争に参戦するも、故国が敗れて投降する。その後、隣国の繁栄のための贄として『刻の狭間』に奉げられた。


シャーロッテ・タイロン・ブラスラーム 16歳 わたくしは……ですわ

ブラスラーム公国の第三公女様。

ピンクのふわふわ髪に水色の瞳の愛らしいお姫様。

勇者への憧れから剣術にのめり込んでいた。

故国が蝗害(こうがい)による飢餓に襲われ、救済を願う神への供物として『刻の狭間』に奉げられた。

朽木村では、副葬品の剣により姫騎士と誤認されて処分されることに、英雄がお持ち帰りすることになる美少女。

後に天野楽天(あまのシャーロッテ)と名乗ることとなる。


朽木天神神社 (元々は朽木転人神社と云った)

朽木村で篤く信仰されている神社。

神社の奥にある天神山は神域とされ、立ち入り禁止である。

実は天神山の中腹にある(ほこら)の奥に隠された洞窟があり、その最奥に磐座(いわくら)があり、そこに異世界にて贄として奉げられた美少女が転移してくる。

その横には石棺が置かれており、不要と判断された転移者が入れられる。すると意識を取り戻すことなく絶命し、更に数日で遺体は消滅してしまう迷宮仕様となっている。

村の掟では、姫騎士は過去に惨殺事件を起こしたことから廃棄対象だった。


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