表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/4

第二話 朽木村に潜伏す 

 俺は大学生活最後の夏休みに、親父から教えられた朽木村に赴くことにした。


 元々はバイトをして軍資金を貯める予定だったが、嘘だとしても夢のある話である。


 社会人となれば、長期の休暇を取得するのは困難なので、最初で最後のチャンスとの意気込みで臨んだ。


 異世界から転移してきた美少女を、恋人にすることができれば最高だ。


 ただ、俺は異世界語など知らないが、親父の説明によると界の壁を越えた者は、新たな世界の洗礼を受けるのだとか。


 異物である異世界の美少女を同化させるために、容姿が現地人へと徐々に変貌するのと同じように、元の世界の知識レベルに合わせてこの世界の言葉を理解するようになるのだとか。


 何ともご都合主義的な設定だが、異物を同化するための働きは強制力といえる程に強いものらしい。


 現にお袋も、日ノ本人として人生を謳歌(おうか)していた。


 だが、我々が不要と断じた者は、この世界の異物として消滅する定めとなるようだ。


 所謂(いわゆる)、童話の陸に上がった人魚姫の如く(はかな)くなるらしい。


 その冷徹な事実を踏まえて朽木村は、因習の残る寒村(かんそん)だ。


 ゆえに、俺の行動を村人たちに気取(けど)られる訳にはいかない。


 俺は、必要な物資を購入して密かにキャンプ生活を行い、その時を待つことにした。


 親父の説明では、異世界の門が開き、美少女が転移されてくるのは、決まって晴天にも(かかわ)らず、雷鳴が鳴り響く特異日なのだという。


 親父は、古文書に残された断片的な記述から、朽木村の秘密を(あば)いたのだという。


 まさに民族学の学者としての面目躍如(めんもくやくじょ)であったという。


 訪れた朽木村は、山間(やまあい)に数百軒の家がある小さな村であったが、確かに村人は美男美女揃いだった。


 親父の推定では、民家の地下には座敷牢があり、異世界転生してきた美少女を監禁して篭絡(ろうらく)しているようだという。


 一見すると長閑(のどか)な田舎の風景なのだが……。


 俺は単なる旅の途中の振りをして、朽木村を通り過ぎると密かに舞い戻って山中にテントを張って、その日を待った。


 親父によると、異世界人が流れ着く場所も決まっているという。


 (ひな)びた朽木村に在って、ひと際豪奢(ごうしゃ)な社殿を有する『朽木天神神社』の奥にある原生林の生い茂る山中だ。


 そして『朽木天神神社』では、その天神山をご神体として(あが)めている。


 (ちな)みに延喜式(えんぎしき)神名帳(じんみょうちょう)によると、創建当事は『朽木転人神社』と呼ばれていたらしい。


 天神山は聖域とされており、何人(なんぴと)たりとも立ち入ることができない禁足地だ。


 しかしながら実際には、社殿の奥から山中へと向かう山道があり、天神山の中腹に(ほこら)が祭られているのだという。


 そして、その(ほこら)の裏に洞窟(どうくつ)が隠されているのだとか。


 その洞窟は天然の風穴(ふうけつ)らしいのだが、最奥部に岩で出来た磐座(いわくら)があるのだという。


 そして、その磐座(いわくら)の上に異世界人の美少女が、仮死状態で唐突に出現するらしい。


 更に磐座(いわくら)の横には、(ふた)の無いおどろおどろしい石棺(せっかん)が置かれていると親父は語っていた。


 石棺には流れ着いた美少女の内、引き取り手の無かった者が納められる。


 異世界転移してきた美少女は、手足を荒縄で(いまし)められたうえに仮死状態であるので、抵抗されることなく納めることが可能なのだとか……。


 そして石棺に納められた美少女は、目覚めることなく(はかな)くなる。


 更に遺体も、数日もすると消滅してしまうらしい。


 この現象は、電脳遊戯(パソコンゲーム)の迷宮における遺体の消失と似ていると思った。


 親父の説明では、現地人が不要と断じた瞬間、異世界人はこの世界の異物として抹消される運命に堕ちるのではないかと説明していたが、俺には良くわからない。


 そして親父が言うには、石棺に納められた直後であれば、回収することが可能なのだとか……。


 どうやら絶命する前であれば、救うことが可能らしいのだ。


 実はお袋も、石棺に納められた美少女だったらしい。


 後日、親父は、民族学の伝承を聞く振りをして朽木村に調査に入ったことがあるという。


 そして村人の重い口の断片から、特定の職種に就いていた美少女は、危険人物として処分される(なら)わしであったようだと結論付けた。


 贄として流されてきた美少女が、単なる王女や貴族令嬢ならば問題ない。


 女賢者や女魔法使いであっても問題ないらしい。


 基本的に異世界の文明レベルは、俺たちの世界における中世程度らしいので、女賢者を名乗っていても直ぐに脅威となるわけではなく、娶った男性の色に染めることが可能らしい。


 女魔法使いの場合、この世界では魔法が励起できないらしく、問題ない。


 一方、問題となるのは、剣技に優れた姫騎士である。


 過去に娶った男性の下から逃げ出し、逃亡の途中で幾人もの村人を惨殺するという凄惨(せいさん)な事件が何件かあったという。


 そこで、異世界転生してきた美少女が姫騎士であると断定された場合、問答無用で石棺に納められる(なら)わしとなったようなのだ。


 彼女たちは、副葬品として一緒に投げ込まれた愛用の剣や杖などと共に転生されてくるので、素性を推測することが容易(たやす)いらしい。


 結局、親父は、姫騎士と断定され処分された美少女を回収して来いと(のたま)ったわけだ。


お読み下さり、ありがとうございます。

続きは、以下の予定で公開します。


第三話 特異日      11月23日12時公開

第四話 妻問い      11月23日21時公開


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ