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月明かりとこの星

作者: 梓ちひろ


「あの星にはには月明かりという言葉があったらしい」


 父は上空に輝く惑星を指差し、そう言った。なんでも月明かりとは、太陽が見えなくなった後に、その星を照らす光のことらしい。


「あの星に暮らすモノたちは昔、月明かりのお陰で、太陽が見えなくなっても、真っ暗にならないそうだ」


「あの星は、いつでも明るいよ。月明かりなんて、いらないんじゃないの?」


 僕には理解できなかった。この星は太陽が沈んだら、あの星が昇って光を灯す。いつでも輝いているあの星に、明かりなんているのだろうか。


「あの星が明るいのは、電気のせいだ。太陽が見えなくなった後、今は電気で、あの星のモノ

たちは暮らしているそうだ」


 電気については、最近授業で習った。あの星では、この電気を使って文明が発展したらしい。そして、今では電気がないと、あの星のモノたちは滅んでしまうらしい。いつでも明るいこの星には、当分いらない代物だ。


「電気があの星に生まれてから、この星が供給していた月明かりがいらなくなった。だから、あの星はこの星との貿易をやめた。そのせいでこの星は、貧しくなってしまったんだ。父さんが子供の頃さ」


「なんで貧しくなったの?」


 この星は、随分と昔は活気があったらしい。歴史の教科書にも書いてある。昔の人たちは、仕事をせずとも、毎日遊んで暮らしていたそうだ。


「この星は月明かりを輸出して、その代わりにあの星からたくさんの物を貰っていたんだ」


「輸出?」


「ああ、そうか。分かりやすく言えば、こちらが月明かりをあげて、あちらからお返しをもらっていたんだ。交換していたんだよ」


 分かったような、分からないような。まだ子供の僕には、難しい話だった。


「あの星からはお菓子とか、車とか、いろいろな物を貰って、贅沢していたんだ。昔はね」


「お菓子?車?」


「ははっ、そりゃ分からないか。もう少ししたら、分かるようになるさ」


 父はそう言うと、またあの星を見上げた。その目は、遠くを見据えているようにみえ、どこか悲しげだった。大人はよく分からない。泣きそうにもみえた父は視線を戻し、今度は真剣な目で、僕の顔を覗き込んだ。


「明日は成人式だな。おめでとう」


「うん。あの星に、1年間行くんだよね。楽しみだなあ」


 期待を膨らます僕に微笑んだ父は、またすぐに悲しい顔をした。


「いいか、どんなことがあっても、逃げるんじゃないぞ。辛くても、我慢するんだ。父さん、待ってるからな」


 大人はやっぱりよく分からない。成人のお祝いで、あの星に行くんでしょ?辛いわけないじゃん。逃げるわけないじゃん。お金だって貰えるんだし。そのお金で、内緒で父に新しい服を買ってあげよう。喜んでくれるかなあ。


 さあ、明日の出発の準備をしよう。楽しみだなあ。最初は汚染地域って所で、ゴミ拾いって言ってたなあ。どんな所なんだろう。ああ、楽しみだなあ。


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