てんき
ああ、明日はきれいな星空だ。
そのことばを誰が言ったのであろうか。
「すまない。私があなたたちを巻き込んでしまった。」
低く凛とした黒髪の女性の声が空間に響いた。
おれはすぐにその言葉を否定したかった。
あなたに罪はない。騙されただけだと。
部隊はまだ十代後半だと思われる女の子を隊長とした小部隊だった。最初の方は100以上の人数がいたのだが、ここ数か月で50人いるかいないかまでに減っていた。
ただの一兵なので、理由は知らない。隊長が会議で中央に背いたとか聞いたが、そんなの、おれは信じたくなかった。どうせ噂だろ。んなわけあるか。そう相手に返してしまった。
けれど、今の状況でその噂を否定することはできなくなってしまった。
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数日前、拠点としていた基地に
ある部隊が孤立してしまった、救助に向かってほしい。状況不良至急願う。との伝令が届いた。
孤立したという部隊がいるのは山の中腹とのことだった。
奇襲にあったのだろうか、理由は知らないとのことだった。他の部隊の状況はわからないが、おそらく動けるのが私の部隊だけであったのだろう。少ない人数だが救援に向かうことにした。
また、部隊を率いるものは若者ということだった。知り合いではないか、まさか同期なんてことは、といろんなことが思い浮かんだ。
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険しい森を駆け抜ける。
山の麓はひらけてるのでそこで休憩を考えていた。
森を抜けた途端、目の前に海が現れた。
その名の通り、うみだ。一面のうみだ。夕暮れに照らされた、きれいなうみだ。まっかな、ひとのうみだ。深緋いろのうみである。沈むひとびとの服は味方の兵服を着ている。到着前に敵にやられてしまったのか、いや地図の場所と違う、移動したのか、それとも増援の人か、様々な思いが脳内をかける。
それでも、じっとしてはいられない。
さっと確認をして、迂回して目的地に向かう、と指示を出す。
まだ、周りに味方が残っているかもしれない。敵もいるかもしれない。そうして馬に乗ろうとしたときに、最後まで探索していた兵が、上官の腕章をつけたひとを見つけた。との報告があった。上官がここにいるのであれば、この部隊の生存者がいる確率は低いであろう。だが残っている可能性も捨てきれない。急がねば。
しかし、上に報告するために確認をしなければならないので、その上官のからだを、部下に反すように頼んだ。切り傷が多くあるらしいので、相当な数切られたのであろう。大量出血が死亡原因だろうか。近づくたびにだんだん見えてくる。
髪色は、黒。身長は、190あたり、だろうか。腕章の色は、あお。
この時点で、もう、わかった。まさか、いや、ここに、いるはずがない。でも、背格好だけで、わかる。うそだ、いやだ。どうして。
私の動きが止まっているのも気にせず、からだを反した。
なぜ。そのことばだけで頭がパンクしそうだった。
強く、賢く、凛々しい兄だった。面倒見の良い、自慢の兄上だった。私よりも大きい部隊を率いていたはずである。そんな兄が、なぜ。
まず、もらった地図の示す場所になぜ布陣を張ったのか不思議でならなかったのだ。この部隊の上官は、何をしているのかと。それとも、何か私には伝えられていない策があったのか。伝令をもらった時点でおかしい点がたくさん出てきていたのだ。うすうす思ってはいたのだ。罠ではないかと。
いや、増援できたのだろうか。
でもおかしい。兄が率いていた部隊は私たちとは全く別の任務にあたっていたはずである。
まさか兄は、罠にはまってしまったのだろうか。いや、そんなはずは。
「隊長?」と声をかけられてはっと気がついた。悲しむのは後だ。目的地がどうなっているか確認せねば。弔うのは、それからでも遅くはないだろう。
戦闘になることを考えると、ここに人員を割いて調査することができない。
確認が終了したので目的地に進む、と伝え、馬に乗って目的地へ向かった。
その判断がいけなかった。いや、対処の仕方がいけなかったのであろう。上からの命令であるから断ることなんて、できやしない。ましてや味方の危機である。助けに行く以外の選択肢なんてなかったのだ。
ちがう、そんなの言い訳でしかない。もっと、情報確認をもっとすればよかったことだ。ああ悔しい。虚しい。もっと、もっと、もっと。
だから、私の大切な戦友を、友を、家族を、すべてを失ってしまった。
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部隊長がすべてを話してくれた。我が国はもう、敗戦一歩手前なのだと。物資が少ないのも、人が少なくなってきているのもそれが理由だと。だからその会議で、上に抗議したのだ。これ以上犠牲は出せない、出したくない。これ以上意味がない、降参しようと。そう訴えたのだと。
湿った地面に座り、汚れた迷彩柄の服を着た小柄な女性が、上を向きながら語った。
ひとつの弱いランプしかなく、それ以外光源がないのに、その姿ははっきりと見えた。
「隊長。」と外の見張りをしていた兵が負傷して戻ってきた。
何を言いたいのかは、わかっていた。
みんな、わかっていた。
「明日の天気は、天泣かな。」
そう言って、薄汚れた頬を上げ、まつげを湿らせた。
黒く、艶やかな短い髪がたなびく。耳にはちいさな星型のピアスがついていた。
彼女を先頭として、湿度が高くじめじめとした、それでいてあたたかいこの空間から、あかるいくらやみへと、飛び出した。
ああ、明日の天気は。
お読みいただきありがとうございました。勢いで書いてしまった作品なので至らない点がありましたら申し訳ないです。
感想など書いていただきますと喜びます。
あなたの今日のてんきは何でしたでしょうか。
それでは。おやすみなさい。