忘れ去られた課題
9, 加入
熱も引き、身体のだるさがなくなったのは、次の日のことだった。
久しぶりに外の空気を吸おうとして外に出ると、
荒れた街が広がっていた。
まだ完全に復興したわけではないようだ。
自分がやった訳では無いが、罪悪感は残る。
狙いはコルだったのだろう。
「あまり自分を責めるな」
思い詰めた俺の背中に楽しげな声が聞こえる。
どうやらナディアに気を遣われているらしい。
「《業》が出た時に来てくれた冒険者がね、ナダたちを連れてこなかったらよかったって、そしたらこんな事にならなかったって、そう思ってた時に言ってくれた言葉なんだ」
そういうと俺の隣に並び、顔を覗き込んでくる。
「どうした?」
「あんまり背負いすぎちゃダメだよ?」
「わかってはいるんだが……どうも消えなくてな」
そう言いため息をつく俺に、
「ため息つくと幸せが逃げちゃうよ?」
にやけながら言ってくる。
「なんだその顔は」
「ううん?以外と真面目だなぁと思ってね」
それまで俺をどんなやつだと思ってたんだ。
「いつ旅立つ予定?」
「明日だな」
「風邪を はもう大丈夫なの?」
「もう何ともない。早く旅を始めたい」
「それはわかるけど……無理しないようにね?」
「今まで無理をしたつもりは無いし、これからもしないよ」
「……そんなこと言って、立ってるのもやっとなくせに」
……分かっていたのか。
実際、今は足に相当な力を入れていないと立っていられない。
体力がだいぶ落ちたみたいだ。
すぐにでもここを出たいんだが、2、3日はかかるだろうか。
「……もう少し休んでいこう」
それを聞き、ナディアは満足気に頷く。
「兄ちゃん?」
コルが起きたみたいだな。
「おはよう、コル」
「ふわぁ、おはよう……」
「もう少し寝ていても大丈夫だぞ」
「じゃあもうちょっと寝る……」
「コルは朝に弱いみたいだな」
「あんたは、ほんとコルに弱いよね……」
10, 延長
起きてから家事を手伝っていたら、はやく旅に出たいなら大人しくしていろと言われ、寝室でいることにした。
かえって迷惑だったらしい。
室内にはコルが寝ていた。
何故ここにコルがいるんだろう。
「どうしたもんか……」
起こしてはまずいしな。
たがこれでは休めない。
……他の部屋入ってみるか。
外に出ようとドアノブに手をかけ外へ出……
「ふわぁ、おはよう……」
起こしてしまったか。
「兄ちゃん、なんで固まってるの?」
「……お前が寝てるから、起こしてはまずいかなぁと、ほかの部屋をあたろうと思ってな」
子供にいらぬ遠慮はさせたくない。
よし、部屋を変えよう。
部屋を出て隣の部屋のドアノブに手をかける。
ゆっくり開けてみると、まだ誰も使っていない部屋だった。
ここで寝よう。
「それで、なんで付いてきてるんだ?」
「まだ眠い……」
「さっきの部屋で寝ていればいいんじゃ」
「一緒に寝るー」
えらくなつかれたもんだ。
会った時と今とでだいぶ印象が違うな。
「じゃあ、さっきの部屋に戻ろう」
「うぅん」
それは肯定と否定のどっちなんだ。
「戻ろう……」
肯定だったらしい。
まだ足がガクガクする。
すぐにでも休もう。
部屋へ戻って、コルを寝かせる。
「兄ちゃん寝ないの?」
「まぁ、大丈夫だろう。ゆっくり休め」
それだけ言って、隣で見ていてやると、気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
ちょうどドアが開き、ナディアが入ってくる。
「まだ寝てなかったの?」
「寝かせてたんだ」
「隣、空いてるから使うといいよ」
「あぁ」
「見ててくれて、ありがとね。あとは私が見とくよ」
「あぁ、任せた」
俺もゆっくり休もう。
……足がガクガクしてイラつく。
10, 延長
いつの間にか朝になっていて、俺は布団に突っ伏した状態で眠っていた。
この部屋に入ってからの記憶がない。
どうやら部屋に入った瞬間落ちてしまったようだ。
ひどく腹も減っているし、そろそろ起きよう。
立ち上がり、ドアを開ける。
「ナ、ナダ、おはよう」
「おはよう」
既に朝食の用意を済ませたナディアが、ドアの前にいた。
起こしに来たのだろう。
どうしよう、気まずい。
特に理由はないのだが、気まずい。
「朝、出来てるよ食べよう」
「あ、あぁ」
ナディアが沈黙を破ってくれてよかった。
一緒に食卓に向かうとそこには、
「……おはよう」
こっちを向こうとしないコルが既に座っていた。
何か怒っているのか?
「朝からずっとこんな調子でね。聞いたら、兄ちゃんのせいだって」
「もしかして、昨日のことか?」
「それしかないだろうね」
昨日、コルにずっと隣にいてやると言って、約束を破ってしまった。
寝かしつけた後はナディアに代わってもらったのだが、それが駄目だったんだろう。
「コル、いい加減機嫌直しな。昨日はナダだって厳しかったんだから」
それを聴くなりコルは部屋を飛び出していく。
「コル!」
急いで追いかけたが、追いつくことが出来ない。
獣人の力だ。
少しずつ追いついていくが、未だ距離がある。
ようやく腕が掴める所まで来たが、さらなる不運
「コルー!」
腕を引くが、俺の体は止まらず、飛び出してしまう。
馬の嘶きが響き、背中に衝撃が走る。
コルを抱き抱えた形で丸まった為、数m吹き飛ばされる。
痛みを殺し、叫びそうになるのをどうにか堪える。
喉をどろりとしたものが伝い、口から溢れる。
その紅い色、体中に走る激痛、薄れゆく意識、
どうやら神に見捨てられたようだ。