忘れ去られた課題
5,休息
「私んちの隣が食べ物屋、この店の前にあるのが旅道具を売ってる店……」
案外幸運だったのかもしれない。
まぁ殺されかけたんだが。
俺は今目的の村、「香深村」に来ていた。
この村は人口2〜30人ほどの小さな村で、小さいながらも物は充実している。
必要経費が省けてよかったが、傷が癒えるまで暫く村で休むしかないだろう。
「ありがとう。どう礼をしたらいいか」
「いいよ礼なんて。で、泊まるところは決めてるのかい?」
「確かここには宿が無かった筈なんだが」
「良く知ってるね。」
「俺も冒険家だからな」
「どうだい?私の家に来るってのは」
俺は首を横に振った。
「それはいくら何でも図々しくはないか?」
「じゃあどこに泊まるんだい」
そう言われればそうだな。
どうすればいいか、俺が頭を抱えていると、
「ゔぁぁーん!兄ぢゃーん!」
突拍子も無い鳴き声に俺はびくりと肩を震わせる。
声のする方向に顔を向けると、
案の定というべきか、女の子が泣いていた。
綺麗な銀髪を十字の髪留めで止め、その頭には作り物のような綺麗な耳が生えていた。
流石に間違えようがないだろう、俺はその子の名前を呼んだ。
「コルー!」
するとコルはこちらに気付き、
こちらに駆け寄ってきた。
俺はその子を抱きかかえた。
「ごめんな、不安だったろう。もう大丈夫だぞ。」
「う……ひっぐ……に……兄ぢゃん」
「コル、一緒に村を回ろうか。」
「ゔん」
コルはこくりと頷いた。
留守番は流石に厳しかったか。
自重しよう。
6, 急襲
一通り村の紹介を済ませてもらい、今俺たちはナディアの家に来ていた。
ナディアの家は木造二階建て一軒家で、割かし新しめの家だった。
俺はその家の二階に泊まらせてもらうことになり、喜び半分不安半分という感じだ。
あらかじめ部屋の案内と明日のスケジュールを確認しておいた。
明日には此処を出るつもりだ。
いつまでも家に泊まらせてはもらえない。
1日泊まらせてもらうだけでも失礼なことだろうに、これ以上我が儘をいえばさすがに怒りもするだろう。
「明日の準備はこれくらいでいいだろう。コルー、用意できたか?」
「もうちょっとー!」
コルには村案内の時にリュックを買ってやった。
早速使ってくれているようだ。
「兄ちゃーん!」
「どうしたー?」
「変な音するー!」
変な音?そんなの特に聞こえないが……。
そう思った瞬間、あたりが急に寒くなった。
緊張感で張り詰めた村は、しんと静まり返り、何かを引きずる音が次第に大きくこちらに聞こえて来ていた。
「コル、俺の方に」
「うん」
いつも元気なコルまでもがこんなに緊張感に襲われているということは、相手はかなりの大物なのだろう。
着実に近づく音。
その音に耳を澄ませ、じっと通り過ぎるのを待つ。
その音はナディアの家の前で止まり、
俺の体は家の残骸とともに外へ投げ出されていた。