第2話 初試合は突然に その3
練習も射撃から対人戦へと移りだした矢先、一撃たちを待ち受けていたのは?
「大島くんが諸々教えてくれるので助かるよ」
松風先生は部室でのんきにエスプレッソを飲んでスコアリストを見ていた。
部の活動を何も知らない顧問とは新鮮だ。
もっとも、好き勝手やれるということだろう。
守は歴史部の方の部室で千春と話し込んでるし、礼介はタブレットで楽譜か何かを観ていじってる。
そこに着信音。
「ん?ああ、私が堺丘の戦車部顧問やってる松風で…ああ、今いますよ…狙くん、記者から電話だ」
「きしゃ?」
「ネットのニュース記者らしい。」
「まじですか?」
キャプテンの抱負がどうとか意気込みがこうとか聞いてくる。
「目標?全国制覇とか世界大会代表ですねえ」
「そんなこと言っていいのかよ」
「いいんじゃないか?目標なら」
「次はフィールドで練習したいんですが」
この辺りでフィールドがあるのは海沿いの堺浜競技場。
プロチーム・堺ディメンションのホームフィールドにもなっている。
市電に乗って堺浜の競技場に着いた。
ただっぴろい敷地に山やら谷やら砂浜に岩場、廃墟まで置いてある。
バトルにはおあつらえ向きだ。
「まだ5人しかいないから練習試合ってわけにもいかんな」
「まあ、3人と2人に分かれて練習だな」
何度かシャッフルしながら2人がかり、3人がかりで練習した。
山の上からロケット砲や榴弾砲を撃ちこんだり、廃墟に隠れて防衛したり。
「1人多いだけでこれだけ有利になるのか」
守の言葉にみなが頷く。
「背後取ればかなり有利だ」
俊也の俊足に俺も何度も背後を取られた。
「はあ、10式戦車でも撃破されるのか」
「それがタンキングの面白いところだ。」
GW。
みちるたちと歴史部の調査と言う名の旅行で彦根城に行ったときのこと。
「あんたたち、ネットでちょっと話題になってるわよ」
みちるがスマホを見せてくれた。
ニュースサイトらしい。
堺丘高校戦車部設立
タンキング発祥の地でついに誕生
文章だけのベタ記事と思ったら部室改装した時の写真が載ってる。
気を利かせて松風先生が送ったんだろう。
取材で応えた話がなんかまんま載ってる。
“狙うはもちろん全国制覇、世界大会出場ですとキャプテンの狙一撃くんは意気込んだ”
「ストレートに載せるのかよ」
「フカしか真剣か、あんたたち次第よね」
みちるの声は挑発気味だ。
こりゃ連休明け、えらい話題になるな。
案の定学級では
「狙くん、見たぞ」
「世界大会代表って本気?」
など聞かれる。
「ああ、本気だよ」
「世界1回戦大会とかじゃないよね?」
「んなわけねえだろ」
その日も堺浜のフィールドで練習していた。
休憩室で一息つけてると隣りに座っていた男が話しかけてきた。
「あんたたち、試合は?」
「ただ練習してるだけだが」
「実は俺たち、対戦相手がドタキャンしてさあ」
「よければ対戦相手になってくれる?」
「おう、面白いな。」
「あんたたち、どこの学校?」
「堺堀だよ」
堺堀高校か。わが校の姉妹校…というか大昔共学になったときに生徒入れ替えたから仲間みたいなもんだ。
「おい、堺堀、練習試合やってくれるってよ。」
「マジか!?」
「やろう」
成り行きで初試合。
さっと礼をすると、試合開始の合図がコンタクトレンズに表示される。
相手の装備はチャレンジャー2主力戦車が3人、AS-90自走榴弾砲が2人
イギリス装備で固めてるな。
「まずはウォーミングアップと行きますか。」
「ああ」
俺たち5人の初試合が始まった。
続く
★解説
☆堺浜タンキングフィールド
堺港の埋立地にある広大なタンキングフィールド。
大阪では舞洲などと並ぶ巨大タンキングフィールドであり、プロリーグチーム・堺ディメンションのホームグラウンドも置かれている。
アクセスは堺市・堺東・堺駅からの市電とバスであり、大規模なイベントの場合は舞洲や狭山池など近隣のフィールドとの臨時バスも運転される。
高速道路インターチェンジにほど近い、ショッピングモールが近隣にあるなど利便性が高いのが特徴。
☆堺堀高等学校
大阪府堺市北区にある共学高校。最寄り駅は堺東駅。1クラス30人で10クラス、全校生徒900人。
一撃が1年時で創立130年。
元旧制堺堀高等女学校(現在の堺堀高等学校)。なお新制高校への移行にあたり、近隣の堺丘中学校(現在の堺丘高等学校)と生徒交換して共学化。
堺丘に次ぐ進学校だが学業以外にも重点を置いている。
制服は男子詰め襟、女子セーラー服
いきなり初試合することになった堺丘高校戦車部。
訓練は大丈夫?




