第2話 初試合は突然に その2
装備を買いにタンキングショップに来た一撃たち。買うのはどの装備?
その週末、
俺たちはモールのショップにいた。
展示されてる戦車は本物の戦車の形に組まれている。
壁にも銃やら砲塔やらがずらっとかけられている。
「へえ、こんな風になってるのかよ」
「おい、これをどうするんだ」
店員が教えてくれた。
「試着したいんですか?」
「ああ」
「じゃあそこのアームバンドつけてください」
「テレビのCMみたいに自動的に装着しないんですか?」
「ありゃ演出ですよ」
「やっぱそっか」
飛んできて装着なんて架空なのか。
店員は戦車の砲塔を抱える。
「こうするんですよ」
持ち上げると砲塔をガボっと外した。
「利き腕はどっちですか」
「右だ」
「なら右手ですね」
砲塔の下についたジョイントを右手のアームバンドにくっつけた。
「なんかこれ、クルクル回りそうだ」
「はい、回ります。ロックもできますよ」
「どうやって」
「下にセンサーがついていて、こんな感じで」
ほう、こう操縦するのか。
「ヘッドセットつかえば音声でロックも解除もできます。」
利き腕と反対のアームバンドには機銃つけて、足には弾薬ホルダー。
おお、ニュースで見るタンキング選手っぽくなってきた
「で、お客さん、どの車種にします?」
「俺は こいつがいい」
10式戦車、最新の戦車と書いてある。
「やっぱ俺にはこういう正面突破できそうなやつでないとな」
「いい音出す、こいつに決まりだ」
「こいつは絵になる」
「軽い」
礼介はM270MLRSロケット砲、守は90式戦車、俊也は16式機動戦闘車。
「俺はこいつかね」
晴が手にしたのは99式自走榴弾砲。
これでみな選んだな。
「あと、ヘッドセットはどれにしますか?」
「ディスプレイコンタクトレンズは?」
「これ、学校に届けといてもらえます?」
週明け、学校に装備とユニフォームが届いていた。
「おお」
「これが俺たちの装備か」
さっそく装着した。
「なかなか似合うじゃない」
「起動!」
音声で立ち上がる。
コンタクトレンズのディスプレイにグラフやら名前やら表示された。
10式戦車
状態:無傷
etc
砲塔からガシャンと弾薬を装填する音がした。
狙いをつけて…
松風先生がすっ飛んできた。
「おいおい、ここで撃っちゃダメだよ」
勢い余って校舎をふっとばすところだった。
「で先生、どこで練習するんですか」
「こんな狭い校庭でやったら学校吹っ飛びますよ」
わが歴史ある堺丘、設備での泣き所は狭い狭い敷地だ。
「射撃訓練できる所ないんですか?」
「使うには工事がいる。」
「いつ工事するんですか?」
「文科省にも府にも話はつけたが、早くて秋、2学期だな」
「それまではどうする?」
「駅前の撃ちっぱなしがある」
駅前にあるスポーツセンターにある撃ちっぱなしの練習場。
「野球とかゴルフみたいだな」
「装備は持ち込みで、っと」
目の前に的ロボットがうろちょろしている。
ロボットと言っても人型ではなく、掃除ロボットに的を載せたような感じだ。
さっそく弾薬を装填する。
狙いをつけて…
「発射!」
叫んだ瞬間、衝撃が右腕に走った。
ドーン!
後ろに並んでいた俊也が駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫だ」
「左手で押さえたほうが良いぞ」
隣のあんちゃんは左手で右手を支えて撃っている。
俺の弾はえらく的はずれなところにあたっていた。
「こりゃ、なれるまでが大変だ」
5回、10回とやってるうちに発射には慣れてきた。
的はなかなか当たらないが発射に慣れるほうが先決だ。
ようやく発射に慣れた頃に弾倉が切れた。
俊也と交代する。
隣の遠距離レーンでは晴が練習している。
向こうは遠い分、当てるのに苦労しているようだ。
弾倉を交換し、自分の番になったら撃つ。
何10発目かでようやく初命中。
的が吹っ飛んだ。
繰り返しているうちに命中するようになった。
「あっという間の3時間だったな」
「いやあ、面白い」
「リアルにFPSやってる気分だよ」
練習場での撃ちっぱなしも慣れてきた。
主砲が命中するようになってきたので次は機銃。
機銃は命中もさることながら相手を足止めしたり、撹乱させる役割もある。
的ロボめがけて機銃掃射する。
ビシ!
的ロボの動きが止まる。
足周りに命中すると一時停止するようだ。
そこに主砲を撃ちこむ。
見事命中!
「かなり上達してきた、かな」
「かなりってもんじゃないな」
晴が出したスコアリスト。
「これが平均的な命中率の伸び、これが一撃、これが礼介…」
「順調に伸びてるな」
「楽譜にするとあまりいい曲にならないね」
「ちょいと昇るには急な坂道だね」
「しかし、イラストならいい感じになるだろ?」
守のやつ、さっと線を書いてどこかのアニメキャラにしている。
「たしかにそう見えるな、はは」
いやあ、実に面白い仲間だ。
続く
★解説
☆練習場
タンキングには大別して2種類あり、ゴルフや野球のように撃ちっぱなしで射撃をメインに練習できるもの(シューティングセンターとも呼ばれる)と、対人戦で実際の練習試合ができるもの(タンキングフィールドとも呼ばれる)がある。
装備は持ち込み以外にレンタルも可能。
レンタルの場合はコンタクトレンズの代わりにディスプレイゴーグルを借りることになる。
コンタクトレンズがディスプレイになる前はゴーグルが主流だった。
貸してくれる弾薬は標準的なものなので特殊な弾薬を使いたい場合は持ち込む必要がある。
☆タンキングのショップについて
スポーツショップ系とトイショップ系、独立系の3種に大別される。
スポーツショップ系は高校生~社会人をターゲットにすることが多い。体験コーナーはなく試着がメイン。
トイショップ系は小学生をターゲットにするケースが多く、模擬弾のない音と光だけの装備が中心なので体験コーナーもある。
独立系は大学以上のコアなファン層をターゲットにすることが多い。マイナーな車種、パーツを揃えているケースが大半。通販と郊外のタンキングフィールド併設店がメイン。
装備が揃い、練習を始めた堺丘高校戦車部。さて次に撃つのは?




