第2話 初試合は突然に その1
いよいよ立ち上がった堺丘高校戦車部。部室は?
「で、戦車部立ち上がったんだ」
朝、登校中の電車で俺を見るみちるの目。
「ま、1番になれそうだし」
「1番?」
「俺はなあ、何やっても2番なんだ」
「ふうん」
「1度は1番になりたくてな」
「入部1番だったじゃない」
「そりゃな。でもさ、どうせなら試合とかで1番になりたいんだよな」
「応援してる」
「お、ありがと」
みちるの目つき、一瞬変わった気がした。
「そうそう、歴史部も掛け持ちで入ってよ!幽霊部員でいいから。」
「なんで?」
「まだまだ部員少ないからね」
雪乃さんも言ってたな。ま、幽霊でも数にはなるか。
駅を降りた。
「一つ聞きたかったんだけど」
「ん?」
「この『チルコ・マッシモ』って君だろ」
スマホの画面を見せた。
SNSの歴女グループ。
「あ、検索したんだ、そだよ」
「むっちゃ書いてるじゃん」
「だよ、てかいま書いてる」
「何?」
「こんな話」
画面に見える城の歴史、写真。
「マジ?見に行ったの?」
「行ったよ、春休みに」
「今度一緒にいく?」
「行こ、行こ」
「お、さっそくデート?」
千春がまた顔を出す。
「なんだ、次原さんか」
「千春、ま、まだそんな仲じゃないし」
「へえ、登下校一緒ってフラグたってるじゃない」
「ば、ばか」
みちるの顔がちょっと赤い。
こうしてみるとかわいいな。髪型も似合ってるじゃないか。
「市場くんも顔赤いぞ」
「お、おい」
「あ、このコメ私だ」
バルジってHN。名前の「春と次」をもじってバルジか、それとも胸がバルジなのか。
「へへ、デートじゃないんなら一緒に行こうよ、狙くん」
「お、おう」
「このエスプレッソマシン、誰の?」
「私のだ。みな使ってくれ」
松風先生がマシンにコーヒー豆を突っ込む。
「ただし、掃除は戦車部と歴史部の皆でな」
先生はにんまりしてスイッチを入れた。
「こいつも重要な装備だ」
「装備ってーと、タンキングの装備ってどこに売ってるの?」
「この辺あったっけ?」
「この近所なら地下鉄の駅前にあるモールの店が品揃えいいって。」
先生はエスプレッソマシンからカップを手にした。
「お、詳しいね」
「ちょっとググれば今はすぐわかるなあ」
「そうそう、これ」
歴史ある高校のこれまた歴史かかった別館の資料室におまけのように貼られた「戦車部室(仮)」の紙。
「先生、ちゃんとした看板ないの?」
「校長に聞いたが自由に作っていいそうだ」
「じゃ、後で作っときます」
「この看板じゃ俺たちで打ち止めになりそうだからな」
「あと、」
先生はカップを飲み干した。
「部室いじっちゃっていいよ。校長の許可はとってある」
さっと先生が部員を見渡す。
「で、部長は誰にする?」
真っ先に俺が言った。
「俺、やりたい」
「一番最初の部員は狙くんだ」
「異議ないな」
「俺も」
「僕も…副部長とかもあるの?」
「あるみたいだな」
「そこは2番目の大島くんで」
「はあ、俺か。あんまり仕事振らないでくれよ」
「まあ、振ることもないさ。そうそう、試合出るならユニフォームも揃えないとね」
晴がWebのカタログを見せてくる。
「これとかどうだ」
「こっちが良いです」
「せっかくだし、ぐっとイメージ変えたいよね」
部室のインテリアはセンスありそうな琴音に任せることにした。
壁紙を張り替え、家具を持ち寄り…
「戦車部ってより西海岸系カフェってノリだな」
クモの巣貼ってた倉庫、というより廃墟だった第2資料室のビフォア・アフターっぷり。
雪乃が驚いてる。
「こういうのもありですよね」
清井さんはうれしそうだ。
「そのほうが楽しいでしょ」
礼介はシンセサイザーでなにやら弾いていた。
「エスプレッソマシンもあるんだし」
「歴史部とドア1枚隔てりゃ別世界か」
「タンキングってさ、部屋に基地みたいな名前つけるのはやってるってよ」
「じゃ、キャンプサカイガオカってどう?」
「なんだそりゃ?」
「テントでも張るのか?」
「キャンプには基地の意味もあるんだよ」
「それに昔学校の近くにあった基地、キャンプカナオカって言ったらしくってよ、それっぽいだろ」
「いいねえ、それ」
Camp Sakaigaoka
Tanking Club & Histrory Club
いい看板ができた。
部室や看板に合うだけの実績つくってやるぜ。
☆
校長室。
第25代校長 白根 直樹 と第26代教頭 原口 徹也がテーブルを囲んでいる。
「松風くんの話、本当にいけるかね」
「松風くんに乗ったのは校長じゃないですか」
「まあ、そうなんだけどな」
「何をやっても一回戦、なんてのはそろそろ終わりにしなきゃ」
「とはいえ、我々が生徒だった頃も一回戦って言われてたじゃないか」
「去年母校に戻ってみたら相変わらずで笑いましたよ」
校長の手元にあるPC、画面には過去40年の部活成績が出ているが読む必要もないくらい一回戦で負けていた。
「しかし、はるか昔には栄光の時代もあった」
「そう、”あの人”がアレをやっていた頃は、な」
2人はPCに表示される検索結果「優勝 堺丘高等学校」を見ていた。
もう半世紀以上も前、なのか。
☆
帰り道、駅までみちると晴と歩く。
歴史の話になる。
歴女ってこういう話で1日過ごすのか。
ん?みちるや千春が歴女なら晴はなんだ!?
ふと、晴の名前をググってみた。
画面に出た話。
まじか!?
「おい、これお前!?」
「ああ、そうだ」
IQ300、3歳で大学、4歳で大学院、5歳で博士、10歳で博士号6個、以後はAI、遺伝子を研究などなど。
天才ってレベルじゃねーぞ!
「で、そのIQ300がこんなチャラい高校生やってるんだ!?」
「15歳として生きたいから、さ」
よく聞かれてるとばかりに
「どんなアタマ持ってようと15歳ってのは1回しかこないからな」
「昔の武将みたいなこと言うんだな」
「たしか、徳川頼宣よね」
「さすが歴女、チルコ詳しいねえ」
「まあ、色々知ってるけど」
「でもこんな天才がメンバーに入れば作戦は安心よね」
「おお、そこ頼んだぜ」
「まあルールやらなんやらはあらかた調べたが、実践はまた別ってな」
そうだ。
「しかし、意外と皆知らないんだな」
「友達いちいちググるなんてしないでしょ」
「確かにな」
歴女にIQ300、面白い仲間ができたもんだ。
装備を揃える一撃たち。果たして何を選ぶのか?




