せんしゃぶ! 第19話 ぞなもし
一撃たちの前に現れる新たなライバル
12月後半。
いよいよダブルス全国大会。
瀬戸内海に面した会場は晴れ晴れとしている。
俺とみちるは朝、庭を散歩していた。
どこからともなく、パイプオルガンの音色が聞こえる。
俺「おお、なかなかいい曲じゃないか」
みちる「小フーガト短調かな」
よく見るとベンチに少女が座ってタブレットで演奏している。
いくら瀬戸内海とはいえこんな冬場にコートはおって野外演奏とはちょいと風変わりだ。
音は立てかけたロケット砲から流れていた。
俺「オルガン弾を使うとはな」
亜麻色の髪に緑目をしたその少女は演奏をピタッと止めてこっちを向いた。
腰くらいまで伸ばしたストレートな髪がぶわっと巻き上がる。
その顔は昨日、彩と千春が作戦会議で何度も見ていた顔だ。
確か、エレン・マクファーレン。グランドエイトの1つ日本オレンジ高校の選手。
?「ご清聴ありがとぞなもし」
ぞなもし?
なんか聞いたことある言葉だが…
?「ぞなもしという言葉が気になるぞなもし?」
俺「ああ、気になる」
?「ぞなもしは日本は愛媛、松山市界隈で使われる語尾ぞなもし」
みちる「くわしいね」
?「そりゃそうぞなもし、私は日本で言う言語学博士持ってるぞなもし」
俺「博士?」
?「そう、私が持つ博士号6つのうち1つぞなもし」
晴と同じ?と思っていると晴が歩いてきた。
晴「学期は違えど、弾き方の癖は変わらんな、エレン」
エレン「晴、久々ぞなもし」
晴「AIと方言の関連性で共同研究して以来だな」
エレン「あれからもう5年も経ったぞなもし」
この前の作戦会議を思い出した。
晴「エレンはIQ300、俺と同じだ」
彩「確かにおつむの回転良さそうだけど」
千春「大島くんくらい作戦力あるとか」
晴「まあ、そう考えてくれ」
みちる「あ、私、今度対戦する堺丘の真下みちるです」
俺「俺も堺丘の狙一撃だ。」
エレン「私は日本オレンジ高校の女子サブキャプテン、エレン・マクファーレンぞなもし」
みちる「あなたも晴くんみたいにわざわざ高校入ったの?」
エレン「そう、伊予市で楽しい日本の高校生活を満喫中ぞなもし」
エレン「この制服、似合ってるぞなもし」
コートの内側から見えるスカーフ。
エレン「ぞなぞなもしもしぞなもしもーし」
ここまでぞなもし好きとはどういうおつむの使い方をしているのやら。
晴「ぞなもしが気に入ったか、エレン」
エレン「いざ使ってるエリアで暮らすと面白さがわかったぞなもし」
そうこうしているうちに向こうから男女のカップルが歩いてきた。
エレン「花子ー、譲治、こっちぞなもーし」
譲治「お、エレン、そいつらは?」
エレン「対戦相手ぞなもし」
花子「サカキューのようだけど?」
俺「その通り。男子キャプテンを務める狙だ。」
譲治「俺は日本オレンジ高校の伊藤」
花子「私、女子キャプテンの鈴木です」
譲治「今回のダブルス、スタメン表見てるから知ってると思うが俺と花子は男女、エレンは女子だ」
対戦表からするとこいつらが男女準々決勝の相手。
女子は北方農芸高校とぶつかる。随分と面白くなってきた。
そこへもう1人、焦げ茶髪の一本結びにした女が歩いてきた。
ハンナとかいうエレンの相方だ。
ハンナ「花子、忘れ物ですよ」
花子「あれ、なんか忘れたっけ?」
ハンナ「ほら、イヤホンですよ」
花子「おお、ありがとう」
ハンナ「そこの方、サカキューのようですね」
みちる「そのとおり、キャプテンのみちる」
ハンナ「私はハンナ・カミンスカ、エレンと女子ダブルスに出場ですよ」
エレン「花子とハンナコ、ポンダチぞなもし」
俺「ハンナコ?」
ハンナ「まあアダ名なんですよ」
俺「次の戦い、よろしく頼むぜ」
晴「ああ」
急にエレンが真面目な顔になる。
エレン「言ってもダブルスは優勝確率95%だからね」
ハンナ「エレンがぞなもし使わないってのは真剣ってことですよ」
そんなハンナの言葉を背に、俺たちはホテルの部屋に戻った。
レストランで朝食どきだ。
晴「しかし、英語でも中国語でもそういうやつだったが、日本語ではぞなもしか。こりゃ傑作だ」
みちる「なら1つ、レースケに作曲してもらう?」
と、明郎と葵が歩いてきた。
明郎「ぞなもしさん、面白いねえ」
俺「あんたらも遭遇したわけか」
葵「遭遇もなにも、女子は団体戦のときに嫌というくらい聞いたからね」
明郎「ああ、いい歌詞だった」
葵「小鳥さんに歌ってもらおうよ」
明郎「お、いいね」
礼介「楽しみにしてるぜ」
俺「そういや市場くんはどうした?」
葵「一番ならそこで練習中だよ」
明郎「君たちの心配はあらかたメッセでの件だと思うが」
俺「ああ、凹んでるところ追い討ちかけるのは趣味じゃないんだ」
数子「ずいぶん気を使ってくれるのね」
数子のウェーブヘアが首をもたげる。
ストレートでもポニテでも魅力のある女だ。
数子「おかげで英雄も私も皐月もとっくに本調子戻ったよん」
俺「やっぱあんたは笑顔だな」
数子「ありがとう」
早速オレ高と対戦だ。
花子も譲治もはメルカバMk4。
主力戦車コンビ同士の戦い。
会場はコロッセオのようなところに地下からエレベーターで出入りする。
プロジェクションマッピングでインテリアが変わる。
今回は近未来都市。
近未来といっても1990年代辺りのデザイン。
つまりはこのタンキングバトルが生み出された頃、21世紀をイメージしたデザインらしい。
試合が始まる。
花子は「迫撃砲の花子」と2つ名があるほどでメルカバ名物の迫撃砲で追い詰めてくる。
主砲と迫撃砲、2つの砲撃をかわしながら花子に肉薄する。
みちるは俺の陰からの支援攻撃に回る。
オレ高の応援団は昔のロボットアニメみたいな曲をガンガン応援でかけてくる。
俺は特にアニメに詳しいわけではないからなんの曲かは分からない。
ひょっとしたら最近それっぽく作った曲だろうか。
俺「あいつら、どういうつもりだ?」
みちる「昔のアニメってね、世界でウケたのが結構あるの。留学生との話題になるから使ってるんじゃないの?」
俺「で、なんのアニメなんだ?」
みちる「私も分からないわよ」
俺「終わったら守にでも聞くか」
みちる「詳しいもんね、守くん」
花子は迫撃砲で俺たちの後方を狙ってくる。
退路を絶って追い込む、5人戦で彩の国が守の釣り野伏を破った戦術だが、1人でやれるのはメルカバならではだ。
左右に離れたところから譲治も突っ込んでくる。
主砲の射程範囲に入るやいなや砲撃を仕掛けてくる。
譲治「攻撃は最大の防御だ」
花子「譲治、格言もいいけど戦闘もしっかりね」
格言の譲治。
確か試合の動画にそんなコメントかタグがあった気がする。
さっきはコートやらなんやらでわかりにくかったが、運動着になるとスレンダーな花子の体型がよく分かる。
遥ほど長身ではないが、細身にごついメルカバの主砲をつけているので特徴的だ。
迫撃砲の直撃を砲塔を盾にしてガードする。
主砲も打ち込んでくる。
10式の防御力が勝つか、火力のメルカバが勝つか。
トドメのミサイルを仲良く打ち込んでくる。
2人共俺の方を狙ってくる。経験ある俺をまず潰すようだ。
だが、ミサイルはみちるの機銃で撃破された。
譲治「花子、補給へ行け!」
譲治が防御に回る。
花子は補給基地に逃げた。
どうも譲治以上に攻撃したらしい。
メルカバMk4の欠点は迫撃砲の分補給に時間を要すること。
機関砲を積んだルクレールもだが、防御が弱めのメルカバは防戦に回ると一層不利だ。
その時間差を使えば数的に有利になる。
みちる「チャンス!今のうちに補給してくる」
俺「ああ、ここは1対1でなんとかする」
譲治「補給させるか!」
体当たりで譲治を跳ね飛ばす。
俺「させるに決まってるだろ!」
2人が倒れる間に、みちるは補給基地に向かった。
俺も譲治も立ち上がる。
譲治「だったらお前を先に倒す」
距離をとって機銃を浴びせる。
譲治「その程度で阻止できるか!」
いちいち喋ってくる。
譲治「必殺、ルートデストロイヤー(退路破壊)」
迫撃砲が俺の4方に降り注ぐ。
昔のロボットアニメのような必殺技名を言いながら襲ってくる。
アニメ趣味は応援団の演奏だけでは無いようだ。
確かに退路は絶たれてしまったが。
譲治「そっちは主砲もないだろう。トドメだ!」
主砲を打ち込んでくる。
俺は擲弾を譲治の方へ投げ込んだ。
主砲とぶつかる。誘爆で砲弾は吹っ飛んだ。
譲治「く、弾切れなんて」
主砲を切らしたのはお互い様のようだ。
みちるが戻ってくる。
俺はみちるをかばおうと機銃掃射で譲治を牽制した。
みちる「一気に行く!」
みちるの主砲が譲治を狙う。
とはいえ、譲治も機銃で迎撃してくる。
そこを補給が終わった花子が突っ込んでくる。
それでも花子の主砲の射程まではまだ時間がある。
俺「よし、俺のいうように行動してくれ」
発煙弾を放つ。
煙の中、花子がビシビシ迫撃砲を打ち込んできた。
狙い通りだ。
数発主砲の砲弾をみちるからもらう。
みちるは数発前へ砲撃し、右後方へ一旦下がってから前進する。
さっき補給したばかりだけあって花子はひたすら砲撃してくる。
その間に譲治が補給に回るのは目に見えている。
みちるは、オレ高の補給基地に向かった。
花子「譲治、補給中を狙ってくるわ」
煙の動きで分かってるはず。
さあ、間に合うかどうか。
補給中の譲治に主砲で砲撃を浴びせる。
みちる「もらった!」
ディスプレイ「譲治 撃破!」
うまくいった。
みちるの後ろから花子の迫撃砲が浴びせられる。
そうやってみちるの方を狙うと思ってた。
花子「背中見せるって、甘いわね」
かわそうとした矢先、背中に直撃!
ディスプレイ「みちる 撃破」
その文字が出るやいなや、俺は花子の後ろを取った。
花子「弾切れでしょ?ムダな……」
俺のやぶさめ撃ちが花子の装甲ない箇所に命中する。
みちるは撃破されたが、俺がしっかり仕留めた。
譲治「砲弾、融通してたのか」
俺「そうさ」
花子「譲治、今度は準々決勝で終わりね」
譲治「何もいうことはないな」
俺「敗戦の将は兵を語らず、か」
譲治「いや、単に疲れただけさ」
冬らしい柔らかな正午の光が差していた。
☆解説
・日本オレンジ高校
世界的な教育機関オレンジグループの日本法人。中高一貫校で幼稚園から大学院まで存在。
伊予市に広大なキャンパスを持ち、鉄道が学園内まで乗り入れているので松山市近辺からの通学も可能。
オレ高のあだ名がある。
世界各地の優秀な学生を集めていて、グループ内での留学が盛ん。




