せんしゃぶ! 外伝第22話 初雪のVサイン
瑞希の心に降る初雪
一郎「これで終わりにしよう」
私「何言ってるの?」
一郎「もともとすれちがっていたんだ」
私「そ、そんな」
秀樹「僕にはそう言ったよな」
眼が、覚めた。
夢だ。
窓に映る私の曇り顔。
カーテンを開ける。窓を開ける。
雪がちらつく。
初雪だった。
所沢駅。
いつものように紅葉と待ち合わせる。
紅葉「どうしたの、瑞希?」
私「あの夢」
紅葉「またか」
あの夢で通じるほど何度も同じ夢を見た。
中1。
私は通っていたダンススクールで秀樹と出会った。
近くの中学の同学年。
心が重なっていって、付き合うようになった。
ただ手を握るだけでも嬉しくなった。
ある日のささいな喧嘩。
それで私は別れを告げた。
中3。
学級委員長の私と書紀の一郎。
ファーストキスをあげた一郎。
2人の生活のすべてになっていった。
ある日のささいな喧嘩。
それで一郎は別れを告げた。
紅葉「最近見てなかったんじゃない?」
私「だったのになあ」
紅葉「そりゃタンクメッセの件でしょ」
はじめて紅葉と出会ったのは小5のタンクフェス、一緒に彩高でタンキング日本一になろうと誓った。
それから2年近く経った。
中学の入学式。
鉢合わせた私と紅葉。
同じクラス。
それから仲良くタンキングスクールに通ったり塾に通ったり。
中学の失恋。
どっちも紅葉は見ていた。
唐突の破局。
一郎との一件からしばらくしたある日。
私「もう彼なんかいらない」
紅葉の心に、いつまでも残る言葉。
紅葉だけじゃない。皐月の心にもきっと。
中学2年。私が通いだした体操教室。
皐月との再会。
一緒に習った体操。
私にとって、紅葉も皐月も大切な友。
一郎にふられた直後、皐月は懸命に慰めてくれた。
駅から学校まで半ばほど歩いたところだった。
皐月の声が聞こえる。
私「おはよ…あれ?」
皐月「おはよう」
背中まで伸びるポニーテールを振り回しながら走ってくる。
昨日までのアップヘアとはまるで別人に見えた。
皐月「変わった?」
私「変わった」
紅葉「前より美人になったよ」
ぎこちない笑顔。
皐月「私、笑うの5年ぶりだけど、ど、どうかな?」
重人「お、木屋さん笑ってるじゃん」
通りかかった重人に褒められた。
皐月「あ、ありがとう」
水泳の練習があるのか、重人は部員たちとプールへと走っていった。
紅葉「数子は?」
皐月「英雄と部室に行ったけど」
英雄「おっはよー」
私「立ち直るのも早いわね」
数子「だってキャプテンだし」
英雄と数子は授業の予習をしていた。
もう済んだことのようだ。
すみれ「ちょっとこっち来てくれる?」
私を外へ連れ出すと
すみれ「2人にしとこうよ」
すみれ「私、キューピット失格よね」
私「そんな自分を責めないでよ」
すっと浮かぶ大将の顔。
私の心から消えない顔。
一学期のある日。
3限が終わった頃。
私「また告られた」
葵「で、振ったんだろ?」
私「付き合って悲しむより、付き合う前に悲しんだほうが楽だから」
私の返事はためらいがち。
昼休み。
いつも隣から聞こえてくる「早弁」だの「今日は大盛り無料」だのが聞こえてこない。
葵が見ると青菜に塩の顔。
バスケットボール部期待の新人「大将」こと田中大翔。
しょげた大将なんて入学以来初めてだった。
葵「大将、食わないの?」
大翔「なんにも通らない」
葵「まさか、伊倉さんに?」
大翔「戦車部で聞いたの?」
葵「名前までは聞いてないけどね」
大翔「にしても、あいつなんで」
葵「伊倉さん、色々あったから」
大翔「色々?」
「昔失恋して、それ以来」
大翔「そっか、すまん」
ため息が大翔からもれる。
大翔「2度と会うか!って言っちゃったな」
葵「体育も音楽も同じなのにか?」
大翔「あ、いけね」
葵「ちょうど音楽午後あるし、謝っとこうよ」
大翔「ああ、そうするか」
紅葉「瑞希、いい笑顔してた」
すみれ「授業でやな顔しなくて済むよね」
私「ありがとう」
謝れば済む話。
それから数ヶ月。
すみれ「で、練習試合どうする?」
私「雪だけど」
すみれ「このくらいならできるでしょ」
練習の男女戦。
女子の猛攻を葵が弾幕バリアで防御する。
男子の反撃も皐月の弾幕バリアが遮る。
装弾数でいえばBM21の皐月がBM30の葵より有利だ。
しかし、葵もそこは知っていて親子弾や煙幕弾でカバーしてくる。
すみれ「このままだと弾薬が尽きるのは同時。」
小鳥「尽きた時の陣形は?」
すみれ「男子が包囲する形で展開している」
紅葉「場合によっては葵も機銃で追撃してくるよ」
すみれ「先手を打つ。残弾2になったら皐月は補給に戻って。小鳥がその間に陽動で包囲網の中心を突破して。」
数子「バリアにぶつかるけど?」
すみれ「英雄も葵も正面突破には戸惑うはず。その隙に皐月は補給前に残弾で前線を攻撃して包囲を崩す」
皐月「包囲が乱れたところを撃破ってわけね」
作戦通り。そう思ったが葵も察していた。
同じように補給帰投中にロケット砲撃で援護してくる。
包囲網が狭まり、小鳥も紅葉も撃破されてしまった。
数子、私、すみれも被弾を重ねる。
皐月は昆の猛砲撃をかろうじてかわし、補給を終えた。
皐月「何やってるの、すみれ」
すみれ「ごめん、作戦見破られて」
すみれの気持ちも消沈気味だ。
どこからか聞こえる大翔の声。
大翔「伊倉さん、頑張ってるね」
向こうも練習が終わって通りかかったようだ。
私の目には爆風の先に見えるものが映った。
私「すみれ、謝るより、勝つよ」
女子残り「勝つ!?」
私「私たち、彩の国ヴィクトリーなんでしょ!」
私がV字状に主砲を放つ。
攻勢をかけていた男性陣の前にVの字の爆風が飛ぶ。
5年前のタンクフェス。
ヴァーミリオン…今の高島先生に聞いた。
私「ヴィクトリーってなに?」
あや「勝つってこと」
数子「反撃しよう!」
女子の反転攻勢。
雨のように注ぐ皐月のロケット砲。
私の主砲が英雄や甘平の装甲をぶち抜く。
試合は女子の勝利だった。
英雄「ふう、女子もやるねえ」
私「悩むより、勝つほうが立ち直るでしょ」
その日、私はいつもよりも早く眠りについた。
私「今度は2人とも、実ったわね」
皐月「ちゃんと実った」
2人でVサインする。
笑顔の私と皐月。
満たされた、幸せなときが流れる。
眼が、覚めた。
夢だ。
現実なら、よかったのに。
いや、現実にしよう。
窓を開ける。
小春日和。
外の景色も、私の顔も。




