せんしゃぶ! 外伝 第2話 憧れへの疾走
数子が英雄と走る青春
暖かいから暑いへと変わる5月。
週末の朝、航空公園を1人の少女がローラースケートで駆け抜けていく。
年は15,6あたり。
ウェーブかかったこげ茶のポニーテールを後ろになびかせ、
赤色のシャツはふくらんだ胸を隠しもしない。
デニム地のホットパンツも腰のボリュームをはっきりさせ、長い美脚を強調していた。そこへ白抜きで「Victory」と書かれた赤いロングソックスをはいてるから視線が集まろうというものだ。
身長は160cm台半ば。ローラースケートを足すと170cm台に見える。
その少女、数子の顔には思案の色があった。
少し早く来たのは1人で走りたかったから。
通り過ぎていく景色。
ついこの前、桜色だったところが緑一色に変わっている。
変わってツツジの植え込みが真っ赤になっている。
そう、変わる。
つい2ヶ月前まで、私は中学生だった。
背伸びして、着たい着たいと思っていた彩高の制服が、今は普段着になっている。
彩の国高校で毎年6月に開かれる埼玉タンクフェス。
タンキング業界としては春の目玉イベントだ。
高校側も戦車部の1年が出し物を出すことになっていた。
1年女子キャプテンに就任した数子にとっては最初のヤマである。
タンクフェスでまとまったチームが夏の団体戦へと向かっていく。
実に上手いスケジュールだ。
タンキング最強と名高い彩高の秘訣はこのタンクフェスにあった。
考え事をするのはこうやって公園でローラースケートするのが1番。
何がいいだろう?
と、自販機でジュースを買う少年の前を通りすぎる。
慌ててUターンして少年の前に戻った。
数子「おはよう!」
英雄「早かったな」
その少年、英雄も同い年くらい、背丈はローラースケートを足してもまだ数子より高い。
数子とお揃いの服装だが、靴はまだローラースケートに履き替えてない。
手にしたペットボトルを数子に渡した。
開けて口に注ぐ。
英雄「もう決まった?」
お互いのジュースを飲む音が聞こえる。
数子「今悩んでてさ。」
声より先に、飲む音で伝わった感じがした。
数子「私、もう1周考えてくる!」
数子はちゅんと英雄にキスする。
唇から甘いオレンジの味がする。
高校に入ってから、ずっとこの味。
飲み干したペットボトルをクズカゴにぽいと捨て、さっと走りだした。
数子の眼から英雄の笑顔が遠ざかる。
赤白とりどりのツツジが眼の両脇に写っていた。
私はやりたいことがある。
そう思ったらそう行動するのが数子。
入学前からの憧れ。
制服も校舎も、カリキュラムも全部憧れだ。
英雄とダブルで戦車部キャプテンになったことも夢のよう。
1時間後。
ベンチに数子は腰掛けていた。
隣では英雄がなにやら音楽を聞いている。
数子「で、私はこれで行こうと思うんだ」
英雄「いいね」
数子「ありがと」
数子「で、私これにしたいんだ」
部室で数子が推した。
企画書には
テーマソング&PV作成
とある。
皐月「数子らしいね」
瑞希「誰が作曲するの?」
明郎「そりゃ俺さ」
男子サブキャプテンにして音楽作りの天才、明郎にとっては腕の見せ所だ。
小鳥「ボーカルは私だよね」
ネット時代の歌姫と名高いユーチューバーの小鳥が手を挙げる。
葵「カメラ、どこに置く?」
紅葉「こことここはスマホ、ここはドローン」
コスプレイヤーの葵と紅葉はカメラアングルをせっせと考える。
どのアングルがインスタ映えするかには詳しい。
走「操作は俺に任せてくれ」
プロゲーマーでもある走にとってはドローンの操作はお手の物だ。
瑞希「鳥井くん、差し入れ頼むよ」
甘平「ロケ弁ならぬロケスイーツってやつさ」
実家がパティスリーの甘平が出すスイーツは味に定評がある。
「これは3日目、晴れてればそのままこっちのパートも。」
すみれの頭脳がスケジュールを作り出す。。
コスプレ、同人誌など趣味の世界で培ったスケジューリングだ。
昆「なら俺はここでジャンプ」
サッカー選手として鳴らした昆は自慢のアクションで演出を盛り上げる。
皐月「ここで狙いをつけて」
シモ・ヘイヘの再来と名高い皐月の正確な射撃が華を添える。
録音、撮影、編集、休憩、仲間として結束していく。
職員室。
数子「これで、どうですか」
あや「いいわよ」
顧問の高島あやはいつもどおりの笑顔。
トントン拍子に決まった。
あとは運営委員会に話を通すだけだ。
委員1「おお、いいね」
委員2「こういうティーンっぽいの欲しかったんだよね」
いかにも高校生な資料がツボを突いたようだ。
当日。
梅雨に入ったはずなのに、見渡すかぎりの晴天。
会場でPVが流れる。
反響に見入る部員たち。
来場者たちの興奮する顔。
通りすがりの少年たちの会話。
「かっけーな」
「俺も作りたい」
あや「タンキング、好きになってくれるといいな」
高島先生はいつもこうだ。
今年の部員、そう言えば5年前のタンクフェスで高島先生がプロ選手だった頃にサインを渡した相手。
あのとき、みんな選手になろうといってたっけ。
ふじみ「今年の1年、やるよね」
進「こりゃ1,2年で同時優勝かもな」
松也「夏が楽しみだよ」
ひのき「文化祭、私達も力入れなきゃ」
数子は航空公園の街路を走り抜けていた。
ロータリーをくるっと回り、街路樹をするっとくぐり抜け、売店の前に差し掛かる。
ペットボトルを持った英雄の前にピタッと止まった。
英雄の脚からはローラースケートが見えた。
数子「うまく行ったでしょ」
英雄「ブッキー、君のおかげだよ」
受け取ったミネラルウォーターのペットボトルを半分ほど飲む。
英雄「気が早いけど夏合宿のネタ、考えたんだ」
数子「ええ、教えてよ!」
英雄「1周して、戻ってきたら教えるさ」
数子「約束よ」
数子はちゅんと英雄にキスする。
唇から甘酸っぱいレモンの味がする。
2人はペットボトルを腰のホルダに挿し、一緒に走りだした。
脇のツツジが散りだし、アジサイが色づき出している。
☆解説
太田 松也 (おおた まつや)
19期男子キャプテン
10式戦車使い。
長身細身で黒髪先端分け。
人付き合いがうまく、あっという間に多数派になる。
川越市民。
北条 ひのき (ほうじょう ひのき)
19期女子キャプテン。
10式戦車使い。
数子同様胸は大きめ。
茶髪ロングでストレートの髪質。
他人思いな所がある。
川越市民。
町野 進 (まちの すすむ)
18期男子キャプテン。英雄同様にリーダーシップに富んだ人物だが英雄と逆にコミカルなキャラ。M1A2SEP使い。ロボット好きで自らロボットを作ることも。
所沢市民。
福岡 ふじみ (ふくおか ふじみ)
18期女子キャプテン。ストレートの黒髪ロングで世間と試合を覚めた眼で見ているところがある。身長は同年時の数子と同等だが貧乳で「胸は飾り」が口癖。
90式戦車使い。
ふじみ野市在住




