其ノ間ノ壱 あの日あの場所で。あの子に。
今回はコニオ視点です。あんな時こんな時のコニオの気持ち、...分かるように書きたいですね。
俺は走る。速く。もっと速く。どうしてこんなに急いでいるのか。それは、少し前に聞こえた聞き慣れない声のせいだ。
狼の、鳴き声がした。この森で一度だって聞いたことのない。
そしてその声の元に辿り着いた時、俺は見た。
この世界に存在すること自体が異常な程大きな狼に取り囲まれ恐怖で震え、腰が抜けてへたり込んだのであろう所の地面を濡らしながらでさえ。
綺麗な白金のようなしろがかかった金髪を腰まで伸ばした、可憐さが全く損なわれず見ただけで魅入られそうでいて、儚げな彼女を。
俺は咄嗟に剣を抜き、周りにいる狼を斬った。
あまり強く無かったのか、一刀で終わってくれた。振り返ると、呆けた表情で彼女が俺をみていた。
「……怪我は無いようだな。」
そう声をかけると、彼女は何か言おうとしたようだが、そのまま気を失ってしまった。俺は狼から素材を採取すると、バックに入れ、彼女を俺のログハウスへ連れて行き、ベッドに寝かせた。とても肌が柔らかく、そして何よりも軽かった。
朝になって彼女と話した……正確には彼女は話せないらしく筆談だったが、その結果、
彼女が、絶滅したと思われていたエルフであること、
気付いたらここにいた事、
ここの世界の事を何も知らないことが分かった。
その関係で彼女が扱う言葉は《あの戦争》以前の文字だった。今は簡略化されて使われなくなったので懐かしさを覚えたが見た目の幼そうな少女が自在に操る姿はまるで叡智の化身のような神々しささえ持っていた。
試しにこの世界のことを少し話すと、いつも分かりにくいと言われる俺の話しを分かってくれているらしく、俺は嬉しくなり、色々なことを話した。
彼女は、とてつもない魔法の才能を持っているらしい。……エルフだと分かった時点で文献の通りなら相当だろうとは思ったが、ここまでとは思わなかった。湖の水が見せたのは、かつて俺が救えなかったパートナーの姿だった。普通の魔術師ならまず発動不可能、維持も国お抱えの魔術師が何人も揃ってやっと維持出来るであろう時間を彼女は魔力の使いすぎで気絶してしまったが1人で展開して見せた。
『あの時はごめんね。ありがとう。さようなら。』
俺は頬を涙が一筋伝わるのをただ感じていた。
起きた彼女は何故かバツの悪そうな顔で俯いている。理由を聞くと俺が教えた魔法は簡単だった筈なのにそんなので気絶していて恥ずかしい、だそう。
その世界のことをよく知らないから出た言葉だろうが、他の魔術師が聞いたら発狂することを本気で言ってみせる彼女に未来を感じた。
そして彼女は頭も非常にいいらしい。彼女のアドバイスでずっと探していたパートナーの鎧を回収することが出来た。
昨日魔法を見てから、この娘は出来ることならそれ相応の教育機関で更に強くして欲しいと思ったが、それを伝える前にまた驚かされた。
彼女は少し難しそうな顔をしたと思えば、彼女の前にキラキラと美しく光る小さな壁と文字が現れた。筆談をする為の魔法など、今まで聞いた事が無い。すなわちそれは魔法の創造。並のことではない。思わず行く気は無いかと問うてみる。すると、
『正直コニ んと別れ が嫌』
『期待 は応 い』
と、思考が漏れたらしい魔法での文字が浮かんで来た。
それに気付いた彼女が恥ずかしそうに俯く。
大人びた雰囲気の彼女が失敗したりした時や恥ずかしい時などに見せる幼げな反応は見ていてその差から、さらに引き込まれそうになる。
彼女が賛同してくれたので、王国に戻ろうと思う。聞いたところの話しを纏める限りだと、俺も見たことの無かった『言霊遣い』、というものだと思われる。本当に実在していたとは。
王国に行くにあたって、準備をした。
俺達はまず食材等々を準備した。
大体集まって帰る途中、ある鳥の気配がした。
気配を消して立ち止まる。後ろから付いて来ていた彼女がぶつかって抗議の視線を投げてくるが、
「カントリがいる。お前はここで待っていろ」
事前に言っておいて良かった。俺はいつも通り、
────いや、いつも以上に慎重に近寄り、跳ぶ。そしてそのまま相手の首を狩る。
……もう少しむこうにまだ居るな。
立ち上がろうとしていた彼女をそのままにさせて
───少し高いので助走を付けて跳ぶ。その途中葉と身体が擦れて音が出てしまう。
逃げられた、と思ったが、なんと周囲の森が檻のように鳥の行く手を阻んでいた。鳥の数は2匹。
どちらも狩ることが出来た。あれは恐らく彼女の魔法だろう。隠密性、範囲、どちらも膨大な魔力が無いと実現不可能だ。現に俺もいつ使われたか全くわからなかった。もし実戦で使われて、逃げようとしたら。その効果は非常に高いだろう。
その冷や汗を隠すように、微笑みを無理矢理浮かべ、
「大漁だ」
と言った。
問題が発生した。それは、彼女の名前がわからなかった事だ。俺に命名できるような才能は無い。
結局彼女が時間をかけ、ミツキという名前になった。何時か彼女の本当の名前がわかるまでの名前だ。何時か本当の名前を知りたい。俺は自分でも気付かないうちにそう考えていた。
同じ苗字にしようとしていたが、今はしたくなかった。同じ苗字になるのなら、俺から言いたかった。どうしてかは分からない。
そして森を出た。彼女ーーミツキは目を好奇心で輝かせていた。
どんどん進んで行く。本当なら2日目に辿り着く筈の山に1日で着いてしまった。疲労困憊らしかったが、あのスピードなら当然だろう。
宿屋に付くと、眠ろうとして何かに気付いた様で俺に、服が欲しいと言ってきた。疲れているのだから気にせず眠れば良いのに、俺に気を使ってくれる。
服屋で彼女似合う服を合わせてもらおうとしたら、そこの女店員は彼女を奥に連れ込んだ後、何着か持ってきた。
結局彼女似合う希望で二着目を、
店員の視線の圧力で三着目を買った。
ミツキは俺の趣味を疑っていそうだが、女店員の視線が凄かったのだ。そして三着目を買った時の笑顔も。買わなかったらどうなっていたか。
ただ、俺はこの店にあるような服を見たことが無い。こんなに良さそうな服なのに普通の服と変わらない。いつの間にか進化しているのだろうか。
俺が酒場で明日の天気などの情報を集め、
帰ると、ミツキはベッドで寝ていた。綺麗な寝相だが、スカートなので少しめくれていて、目を全力で逸らした。そのまま横に寝転がると、
なんとミツキが俺の腕に抱きついてきた。
脳が凍りつくのを感じながら、ほどこうとするが、気持ちよさそうなミツキの寝顔に負け、気を逸らして寝ることにした。……もちろんほとんど眠れなかった。
朝になって横で動く気配、自分でも気付いていなかったのだろう。恐る恐る俺の腕から離れ、ベッドから出るミツキの真っ赤な顔を起きていたが寝た振りをして見ていた。
山を降りるとミツキが木の影に入り、『レジャーシート』というものをかけて、着替え始めた。
警戒心をもう少し持ってほしい、そう思いながら見下ろしていると、今日の朝宿屋の主人に言われた盗賊が見えた。
……あれは懸賞金が多額にかけられている有名な盗賊じゃないか。盗賊とは聞いていたがそこまでの大物だとは聞いていない。
ミツキが攫われたら不味い。急いで伝えなければ。それしか頭に無かった俺は、
───真っ裸のミツキと目が合った。
……何も考えられなくなる。
ミツキが大粒の涙を流し始めてやっと脳が活動を再開する。……とりあえず今するべきことはミツキをこれ以上傷つけないこと、そして盗賊にバレない事だ。俺はそっと閉め、その前の草むらに隠れる。
……着替え終わったミツキは俺を睨んでくる。
そんな視線に耐えながら少し話したあと、逃げる方法を決める前にミツキが魔法──あれは《エアーアーマー》だろう。便利な防御魔法だが欠点があることを彼女は知らないだろう、止められなかったが大丈夫だろうか。
そんなことを考えているうちにミツキは盗賊に囲まれ……囲まれていてよく見えない。どうなって居るのだろうか……
そして盗賊の並びが丁度様子を見れるようになった時、俺は頭がどうにかなるかと思った。
──そこには首を絞められ震えているミツキの姿が目に入った。アーマーも消えて、殴られている。
────脳が焼き切れるような感覚と共に時間がゆっくりになる。
あいつらは殺す。飛び出して走り、彼らの中心に飛び降りて降り、一刀の元に首を切り取る。1人残らず即死させる剣は会心の1振りだった。
気がついたのかミツキは泣きながら俺に飛びついてきた。怖かっただろう。抱き上げたまま王国へ向かう。ミツキが泣き疲れて寝てしまったので、寝顔を見ながら背負い直し、急いで王国に向かった。そうして王国に着いて、久しぶりに我が家に着く。感慨に浸る事なく急いでミツキをベッドに寝かせ、ポーションを飲ませる。これで殴られた傷が少しは良くなるだろう。
気が付いたらしいミツキは料理を持った俺を見て泣き出してしまった。俺が悪いのに。俺か始めから逃げることを提案していれば。そしてちゃんとミツキのことをみて、助けに行ければ。俺が悪いのに、ミツキはごめんなさい、ごめんなさいと繰り返す。口が下手な俺はどうすれば気持ちを伝えられるだろう。俺はミツキを抱きしめた。
俺はこの娘を守らないと行けない。そう思った。