其ノ肆ノ弐 王国へ 〜道中編・中〜
暫くして休憩が終わり回復したおれとコニオさんはまた道に戻り歩き始めた。
太陽は少し真上を過ぎたころ。四季があるのかは知らないが今は熱くも寒くもない丁度いい気候だ。
たまに心地の良い風が吹き抜けてゆく。
「この道をずっと行けば、村に出るはずだ。そこで今日は泊めてもらう」
と後ろを歩いているコニオさんが言った。今日は野宿ではないのか。嬉しい様な……旅っぽく無くて残念な様な。
まあ、下手に野宿するよりは泊まれた方が安全でいいだろう。
というかあのテントを使わなくて良いので喜ぶべき事なのかもしれない。
『分かりました』
周りの風景を楽しみながらそう答えた。
ずっと道にそって流れていた川が曲がって遠ざかっていく。すると
高い山が横並びに連なっていて渓谷になっている光景が目に入った。その山と山の間の少しだけ低くなった所に道が続いて居る。
『……あれ?この谷を超えるんですか?』
「そうだが?」
『道をずっと行けば村に出るって言ってませんでしたっけ?』
「安心しろ。道はあるし村もある」
谷を通ると言ってもこの二座の高い山に挟まれた谷なので、そこまで行くのにかなり時間が掛かりそうだ。
更に歩いていき山が近づいて来ると確かに谷に向かって道がつづいていた。かなりの登り具合で。
……本当に登山するのか。今日止まる村は山間村なのだろうか。登山なんて前の記憶でもいつやったか思い出せないほど昔だ。
「ほら、どうした。行くぞ」
気づけば既に麓にたどり着いていた。思わず止まっていたおれをコニオさんが急かして来る。
待って。本当に待って。……そんな気持ちを無視してコニオさんはおれを押し始めた。もちろん体格差で逆らえる訳が無い。こうしておれの登山が始まった。
「ーーーっ……ーーゅ……」
いつまで登っただろうか。登ることに集中していたので時間の感覚が無い。しかし小さくなった子供の身体は予想よりはるかに体力が無い。息が既に絶え絶えだ。
正確には体力が少ないのに加え、登り、小さくなって歩数が増えた。等々の関係でどんどん体力を奪われるのだ。
永遠に続く。そう思われた登り道が、急になだらかになる。谷に入ったようだ。
「もうすぐ村に付くぞ」
そう言われて気づいた。空が大分暗くなっている。そんなに長い間登っていたのか。その証拠にもう足が棒のようだ。
……その時、遠くに村が見えた。あれが今日泊まる村なのだろうか。後ろにコニオさんに見えるように
『着いたらまず宿を取りましょう』
必死な様子が伝わったのか、元からそうするつもりだったのか特に反論されることも無く、
「ああ。そうしよう」
という声が聞こえた気がした。
……速度を上げた。宿で休めるという期待がおれのどこにあったのかも分からない最後の力を引き出したのか、半ば走るようにして村に到着する。検問などはあるのだろうか。少し待っているとコニオさんがきた。
「何で走るんだ...。まぁいいが。到着だ」
そこは山間に挟まれながらもその土地を上手く使って建てられた家の割と多い村だった。何方かと言えば横ではなく縦に広がった村だ。ここから見える道に色々な看板が掲げられている。
表記は大分イラストっぽかったので分からない程では無いが、その中に書かれている文字は良くわらない。……後々勉強する必要かあるだろうか。
「さて、ではとりあえず宿を取ろうか。といってもそこまで金を持っている訳では無いから、いい宿には泊まれないが」
頷いた。正直もう足が限界を迎えている。コニオさんに付いていくと、ベッドのマークが付いた家に来た。看板的にもここが宿屋だろう。
扉をあけるとチリリンという軽やかな鈴の音と共に、
「いらっしゃいませ」
と落ち着いた初老の男がにこやかにお辞儀をした。
「ふたり部屋を一泊あるか?」
とコニオさんが言っ……
ん?
……ふたりべや?
「ーーーーッ!」
いやいや!いくら大人じゃなくても男女同じ部屋は不味いんじゃ……!
折角あのテントに入らずゆっくり出来ると思ったのになぁ……。
「はい、二人部屋ですね。では2階の突き当たりにどうぞ」
……小さすぎるのか?……子供過ぎて許されるんですか、そうですか。
部屋に入ると大きなベッドが二つ……じゃなった。一つの大きなベッドがあった。
...えぇ...。いいのかこれ。いくらベッドが大きいとはいえ男女で一つのベッドは不味いんじゃ無いのか?
だがコニオさんは全く気にしてなさそうだ……
そんなものなのか?
とりあえず悶々としながらも荷物を起き、とりあえず布団に寝転がろうとして思った。
『お布団を汚さない様に服着替えた方が良いですか?』
そう。おれはこの世界に来た時の質素な服しか持ってない。皮の色の無地の半袖の服に同じ色の半ズボンの様なもの、...俗に言う奴隷服のようなものだ。起きた時もうこれだったのだからひどい話だ。器用になったことを利用して頑張って綺麗にしてきたが、自分一人のベッドなら店の人にまだ任せればいいが、流石にコニオさんと同じベッドでは気になる...色々と。
「俺は気にしないが、どうしても気になるならこの村に服が無いか見て見るか?」
当然、頷いた。
村を見て回ると、街の角に、服屋があった。
「すまない、この子の服を合わせてもらえないだろうか」
俺もコニオさんも服の事はわからないので、入ってすぐ店員さんに頼んだ。……これが悪手だと、今のおれにわかる方法など無かった。
店員さんは女の人だった。おれを見た瞬間、目の色が変わった。
「かっわいいーーーッ!!!
いいんですか!?えぇ。任せてください!私がこの子にピッタリな服を必ずや見つけて見せますとも、ええ!」
鼻息荒く、女の店員さんが答えて、おれを個室に連れ込んだ。
そこには、どこにあったのか、服、服、服。
千万無量の服で溢れていた。
「さーて...少し待っててねー、貴女に合う服を取り入れて来るからねー」
そう言うと彼女は物凄い速さで駆け回り、迷うことなく数着を持ってきた。
「順番に行くからねー」
<1着目>
全体的に花柄をあしらった半袖に薄い緑色のスカート。
……スカートなのだ。前のおれに女装癖なんて無かったしこの世界でも履いていたのはズボンだった。スカートは初めてだったのだが、凄く膝下から風を感じスースーする。こんなものを良く履けるものだな...
落ち着いていていいと思うのだが、彼女的にはあまり気に入ってないらしい。とりあえず保留となった。
<2着目>
2着目は黒地に縦の縒りがが入っている服にグレーのスカートだ。...もうスカートは確定らしい。
この世界の文化レベルがわからない。レジャーシートが無いのに前の世界出みたような洋服はある。服だけ進化が早かったのか。
<3着目>
...メイド服だった。それもメイド喫茶に居そうなミニスカートの。
「どう?」 「(ブンブンブンブン)」
全力で首を左右に振った。
「とりあえずこんなものですかね」
ようやく落ち着いたらしい店員さんが終了を告げる。おれはもう自分でもわかるぐらい顔を真っ赤にして蹲っていた。
...それぞれ着替えた後に全部見られた。……コニオさんに。メイド服も見られた。.....コニオさんに。
「……どれがいいんだ?」
コニオさんが聞いてきたので手で「2」を示す。
「……っ……じゃあその2着目の服と、3着目の服で」
……は?
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2着目の服を着せてもらい、帰った。
……なぜコニオさんはメイド服を買ったのだろう。
まさかコニオさんにそんな趣味が?いやでもそん人には見えなかった。
そんな事を考えていたら、宿に着いた。
とりあえず綺麗になったので寝転がる。コニオさんは今やることがある、と言って居ないので帰ったら聞いてみよう。そう思っていたが、寝転んでいるうちに寝てしまった。