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エルフは言霊に希う  作者: 望月うさぎ
始ノ章 「はじまり、はじまり。」
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其ノ参 言霊で伝わる思い、言霊じゃなくても伝わる思い。

私がよく見てる方は気づいたら数話分一気に更新されてて、面白くて、凄いなぁ...と思いました…

気が付くと俺はログハウスのベッドの上で眠っていた。気を失う前を思い返してみても、これがコニオさんの言っていた魔力切れの影響のようだ。

……しかしコニオさんは先程の魔法を簡単な魔法だと言っていた。つまりこれはコニオさんの説明に照らし合わせるとDランク相当の魔法、位のものなのだろう。それで気を失った、という事実に頭が重くなる。エルフは魔法が得意なイメージだったが、この世界でもそうだとは限らないのか。


「……やっと、起きたか」


コニオさんがドアを開け入ってきた。持ってきたお盆の様な物の上に簡素な食事が乗っている。個人的には使ってみたい、などと言った挙句簡単な魔法で気絶してしまった手前恥ずかしいからもう少し後で会いたかったのだが、コニオさんは待ってくれそうにない。


今だけは不便極まりないこの喋ることが出来ない現象に感謝さえ覚える。黙って俯いていても理由を伝えなくていいしそこまで不自然じゃない。


「おい、お前……」


しかし呼ばれてしまった。心做しか遠慮がちな声につられてゆっくりと顔上げると目が合う。顔はいつもの無表情なのだが、俺を見る目が変わっている気がした。俺は思わず俯き直す。


……言葉を、待った。



「国の学校で本格的に魔術の勉強をしないか?お前ならすごい魔法使いに成れる」







なにを言われたかよく分からなかった。

と言うよりもコニオさんの正気を疑いかけた。

……俺が凄い魔法使いに?あんな簡単に気絶した俺が?流石に冗談だろう。

そんな困惑した気持ちが表情に出ていたのか、コニオさんは言葉を続ける。


「《ウォータールート》は本来、川のせせらぎ位の速さの水を、細い水流にしてこちら側に飛ばすことで水を取りやすくする程度の魔法、せいぜいが生活用だ。だがお前は魔法で湖全ての水速、水流の太さ、向きも全て変えた。……それでも並の奴なら気絶する」


「しかしお前は人の形を作った。あんなこと普通は、誰も出来ないし、良くて数秒人形に保たせるのが精一杯だ。お前がやったことを他人に言ったら頭がおかしいと思われるくらいにはお前は凄い魔法使いだよ」


俺はコニオさんに凄いと言われたのが冗談などではないとわかった途端、表情筋が緩むのを止められなくなった。恥ずかしくなってまた俯く。頬がとてつもなく熱い。

気づいた様子もないコニオさんは急に何かを思い付いた様で


「お前の『詠唱』を詳しく教えてくれないか?」


と言ってきた。


恥ずかしさよりもコニオさんの頼みを断れない思いが先行し、俺はまた湖まで出て棒で1字1句違わないように慎重に書き記す。


「やはり……。お前は才能もあるが、

言霊遣い(ことだまつかい)』でもあるらしいな」


聞き慣れない言葉に思わず首を傾げる。ことだまつかい?なんだそれは。


「俺も噂と本の知識だけだがな。『言霊遣い』というのは、この世界全てを探しても数少ないめずらしい者を表す言葉だ。『言霊遣い』は詠唱の際、自然の魔力を司る微精霊に言葉に気持ちを乗せて、伝えることが出来るらしい。……さっきもお前の詠唱にに微精霊達が応えたのだろう。あれは俺の死んだパートナーだ」


確かに俺はコニオさんのパートナーと面識は無い。


俺が詠唱をする際に伝えた感情に応じて魔法が変化する、ということらしい。

……話を聞いていて思いついたことを実行してみる。


“我を照らす光よ、『その輝きを集わせ』、

俺の気持ちを(・・・・・・)コニオさんに(・・・・・・)届かせて(・・・・)

《ライトレター》”


最後の言葉は勝手に決めたがどうだろうか。

……という言葉が目の前にゲームのチャット機能のように光る文字で現れた。


「……まさか自分で詠唱して魔法を使ったのか?俺と話をするために?」


『ダメもとでしたが出来て良かったです。……これでコニオさんと話せます。……声はないですが』


成功した嬉しさでついついにやけてしまう。

とりあえずこれでコニオさんとのコミュニケーションは円滑に取れるようになった。話を続けよう。


『何故私の知らないコニオさんのパートナーさんの姿が出来たのでしょう』


「確かにな......あ!?」


急に慌て始めたコニオさんは立ち上がり外へ出た。どうたのだろうと思っていると、


急にコニオさんが湖に飛び込んだ!


大きな音と水しぶきを上げながらコニオさんは服を着たままどんどん湖の中央へと、深く潜ってゆく。

そこは丁度俺が魔法を使った場所だった。


見ていることしか出来ずオロオロしているとしばらくしてコニオさんが湖から、……長い間水の中に浸かっていただろうに全く錆びた様子の無い白い光沢を持つ鎧を持って上がってきた。


俺は慌てて、“風よ、コニオさんを乾かしてあげて”とお願いした。


……魔法の詠唱とは到底言えない様なものなのだが、暖かい風がコニオさんと鎧を乾かして行った。気持ちを言葉に乗せて伝えて魔法に出来るのは、なるほど俺のいた世界で言われている言霊と同じような気もする。


「急に飛び込んですまない。これはパートナーの着ていた鎧だ。おそらくお前の言葉に微精霊応えるためにこの鎧の力を媒体として水でその持ち主だった彼女の形を取ったのだろう」


大切そうに鎧を眺めコニオさんはため息を着く。


「俺はこの鎧を探す為に森に住んでいたんだ」


『探し物が見つかって良かったじゃないですか』


「いや……確かにそうなんだがな。ずっと探していたのにまさか湖の底の砂の中とは……これだけ澄んでいる水の中でなんで気づかなかったのだろうか……」


そういってコニオさんは寂しそうな笑顔で笑った。

しかしすぐにいつもの顔になったコニオさんは感心したように、


「しかしさっき乾かしてくれたのも魔法か。さっきから無言詠唱で高度な魔法を...凄いな」


と言った。


『無言詠唱ですか?』


またも知らない情報。魔法に関しては我ながら現金だとは思うのだがに褒められたことで関心が高い。


「ああ。通常魔法の詠唱は微精霊に命令を与えるために声にだすんだ。言葉は口にしないと伝わらない、というのが通説だが、たまに魔力で命令を与える無言詠唱という技術を使う奴もいる。時間がかかるから不意打ち用などが主だが」


「これを見て確信した。お前さえ良ければ学校に行かせて、魔術の勉強や訓練をさせたい。そうすれば今よりさらに魔力量も上がるし、精度も上がるだろう。どうだろうか」




命を助けて貰ってここまで面倒を見てくれたので『正直コニオさんと別れるのが嫌』なのだが、それに恩を少なからず感じている。そんなコニオさんの『期待に応えたい』し……


……あれ?今何か出なかったか?


思わずコニオさんの顔を見るとコニオさんがはにかみながら


「……心配しなくても王国にも俺の家があるからそこで過ごせは良い。偶然だが俺がこの森に来た目的も果たしたので帰ろうと思っていたところだ。別れなくていい。俺も目的が果たせたのはお前のお陰だからお前が別れたくないと言ってくれて嬉しいよ」


と言ってきた。……さっきのがライトレターで見えていたようだ……。

恥ずかしさと感謝の気持ちをどちらも表そうとして、俯きながらコニオさんに飛び込んだ。

あれ……?なんでこんなことをしたんだろう。

……色んなことがあったから……混乱してる。


コニオさんは少し驚いていたが微笑んで離さずにいてくれた。そうして、コニオさんは王国に戻ることに、俺ははじめての王国に行くことになったのだった。

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