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エルフは言霊に希う  作者: 望月うさぎ
壱ノ章 「いってきます。」
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其ノ拾玖 陸時間目 確かな変化

『おはようございます、マナ校長先生』


「昨日はどうしたんですの? 魔法クラスにも顔を見せて無いとみんな心配していらしらっしゃいましたよ?」


翌日学校へ来ると、学校の入り口にマナ先生が立っていた。付近で話している人達が、校長がわざわざ出ていることでざわめいている。


『すみません。昨日は用事がありまして、学校を休みました』


居心地の悪さを誤魔化す様に礼と共に言葉を送る。


「そうですか……、まぁ、本来ならば急なことで登校出来なくなる事があるのはこの国では当たり前でしたわね。ここまで心配されたのも今まで休むことが今までに無かった勤勉さの証でしょうか」


マナ先生はそう言って納得したようだ。


「それはさておき、お決まりになられましたか? これからの道を」


マナ先生の言葉に、わたしは頷く。


『はい。やっぱり、折角回復魔術が使えるのだから、しっかりと物にしたいと思いました』


「ということは、私の元で学ぶ、と?」


『そうです。......でも、一つだけして欲しいことがあるんです』


そう。それはわたしが昨日クインさんと話して決意したこと。

これがダメでも決意は変わらないが通ってくれた方が嬉しいのは確かだ。


「して欲しいこと?」


『して欲しいと言うか、取り入れて欲しいと言うか』


『《部活》を創りたいんです。』


わたしは前の世界での記憶を元に異世界の制度を提案する。


「《ぶかつ》......? ですか? それは一体どう言った物なのでしょうか」


やはりこの世界には無いことなのだろう、校長が怪訝そうに聞き返してくる。


『えっとですね......とりあえず、移動しながら話しましょうか。いつまでも校門前に居る訳にも行きませんし』


頷いた校長先生と共に、マナ先生の部屋へと歩く。



わたしがこの世界で提案した《部活》は、《部活》と言っても、本格的にスポーツや道をするのではない。この世界でするのは、好きなことの研究だ。

例えば剣術が好きな人が集まり、流派や戦術などを語り合い、偶に訓練場などで活動する。と言ったようにその分野について深く考えてゆく活動だ。

その為にマナ先生に、《部活》の活動に必要な空いた教室があるか、と聞いたが、授業が終わったあとなら空いた教室は多くある、と聞いたので問題ないだろう。


その実現で学校側のメリットとなるのが、研究科目の更なる発展、そして問題となっていた生徒の上下関係などの改善だ。これは本来の部活で効果が見込まれているものである。


これらを伝えていると校長室の入口に到着した。マナ先生に続いて部屋に入ると校長先生は椅子に座って少し考える素振りを見せ、


「よろしいでしょう。制度を整えてまた設立を宣言します」


と言った。


『良いんですか?』


全く話し合いもせずに設立を承諾したことに驚き、思わず聞くとマナ先生は


「ミツキ様のお話を聞く限り設立してわが校がデメリットを背負う可能性があまり考えられませんし」


「何より他でもない生徒からの素晴らしい提案ですもの。それを聞き入れられなくて、誰が校長ですか」


と言って微笑んだ。


『ありがとうございます!』


これで1つ決意が形になった。


『では、よろしくお願いします』


「ええ。任せてくださいな」


『では、ええっと……魔法のことも、これからよろしくお願いします。何をすれば良いでしょうか?』


部活の話だけで多くの時間を費やしてしまった。本来の目的はここでマナ先生から魔法の使い方を教えてもらうことなのだ。それを疎かにする訳には行かない。


わたしの言葉を見て気を取り直したのか、マナ先生はまた少し考えた後


「そうですね、前回は単純に回復魔術を使って頂きました。ですので今回はそこから、用途に合った効果だけを発現させることで1つの効果を高めるというのをやって頂こうと思います」


と言った。


『用途に合った……ですか』


「はい。ただ《傷を癒す》だけのイメージから《これを癒す》という限定したイメージに変えることで1度に治る範囲、速度を上げることが出来ます」


確かにそう言われれば道理だ。全ての傷を癒そうとするとどうしても漠然としたイメージにかならない。それを限定することで強くイメージ出来るようにするということか。


『なるほど……分かりました。でもどうやって練習をすれば良いでしょうか』


「こちらへ。前のように手を繋いでくださいな。今までは医療魔術の生徒なんて全く居なかったので私の個人的な施設しか過ぎなかったのですが、一応訓練施設が無いわけでは無いのですのよ」


そう言ってマナ先生は私に手を差し出す。恐らく転移してその訓練施設まで行くのだろう。


手をとると、前のような浮遊感と光。それが収まると私はまた研究室のような所に来ていた。

前と違うのはその部屋がとても横長になっていて、床の3分の1程が土になっている。そこには並ぶようにして木が植えられていた。天井には青い光が木を照らしていた。


「回復魔術は植物に強い影響を与えることがわかっています。その中でも強く影響を受ける木をここで魔法を使って育てて練習に使います」


そう言うとマナ先生は4本の木にそれぞれ切り傷と焦げ跡を2本ずつ付けた。


「そして今回の魔術ですが、ミツキさんには自力で完成させて頂きたく思います」


『え?自力で、ですか?』


「はい。以前にも申し上げましたが、回復魔術は自身のイメージがそのまま魔術に影響します。ですので敢えて何も教えないようにして、自由にイメージして欲しいのです」


「本来は初めのあの魔術もそうしたかったのですが、流石にそれでは基礎が出来ません。ですので今回にした、という訳です」


『わたしに……出来るでしょうか』


「ええ、きっと。あれだけの魔術を使えるミツキさんなら、きっと上手く行きますわ。焦らずにじっくりと取り組んでくださいませ」


『はい、やってみます』


マナ先生は頷くと、反対側の壁方を向き魔法を呟く。すると地面に魔法陣が現れた。


「これに乗って帰りたい場所をイメージすればそこに飛ぶことが出来ます。帰る時には使ってくださいませ」


そう言って、マナ先生は帰った。


やって見なくちゃ。わたしは切り傷の付いた木に向き合う。


“精霊よ、この者に癒しあれ。『薬のように』『手術のように』《ヒール》”


手から光が溢れる。


その光が収まると、切り傷は跡形も無くなっていた。


かかった時間はおおよそ30秒ほど。

前にネズミに使った時はこんなに長くなかった様に思う。

それを覚えて同じ木に同じ位の切り傷を付けて、


“精霊よ、この者に癒しあれ。『薬のように』『手術のように』。生の安らぎを。回復の喜びを。《ヒール》”


先程よりも多めに魔力を使う感覚と共に少し熱さを感じる光が漏れ出す。

治るまでに掛かったのはおよそ15秒ほど。

短くはなったが、まだ長いように感じた。



その後、植物用にと詠唱を変えたり多くの言葉を追加してみたりしたが誤差レベルでしか時間が変わることは無かった。


薄暗い部屋に今までを忘れないようにするための《ライトレター》での書き残しが増えて光を放っている


次の詠唱をしようとした時、急に後ろから音がした。


見ると校長先生が魔法陣から出てくるところだった。


「ミツキさん?もう今日は外も暗くなりますので辞めにしましょう。何か進展はありましたか?」


『はい……、やはり難しいですね』


「そうですね、直ぐに完成するものでもありません。ゆっくりと進めましょう」


やはりもう少し時間がかかりそうだ。


……ん?


自分の考えに引っ掛かりを覚える。

何かがありそうで、しかし見つからないもどかしい感覚。それを抱えて帰路に着く。


家に着くと、珍しくコニオさんも帰宅していた。と言うより私が帰るのが遅かったのだろう。


そんなことを考えながらも頭の中の他のところで掴みかけた何かを考え続けている。


『遅くなってすみません、今準備しますから少し待ってて下さいね』


「ああ、おかえり。俺も今帰った所だから急がなくても良いぞ」


晩御飯の準備をするが、先程の感覚が甦り、また考えてしまう。もう少しで掴めそうなのに。


気付くと無意識の内に夕食の準備が終わっていた。作るのに戸惑っていたのがとても昔の事のように思える。


『出来ましたよ』


いつも通りコニオさんの着いている机に料理を並べて自分も席に着く。

食べている間もコニオさんと話しながら纏まらない考えがちらついた。

その考えにまとまりがつかないまま、いつの間にかねてしまったようだ。

朝、私の前には一通の手紙


《昨日も言った通り、今日から俺は暫くのあいだ依頼で家に帰らない。まだかかる時間は分からないが心配はしないでくれ》


考えなくてもはっきりと分かるように

コニオさんの姿は無かった。

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