其ノ拾伍・表 ?時間目 《自称:転生者》の鬼の友達
今回は人に寄っては鬱な可能性があります。ご了承ください。
ん.....。
わたしは身体中の違和感で目を覚ました。
ぼんやりとしながら確認すると、椅子?だろうか、に座らされて胴体は背もたれに、両足をそれぞれ椅子の足に、両手を天井へ掲げた様な格好で吊るされて手首周りで一つに鎖と鉄製と思われる手枷で縛られていた。
更に目隠しをされていた。わたしが話せないことを知っているのか、口には何も無い。
どうやら拘束されているらしいと考えてから、覚醒してきた意識が恐怖を告げていた。
拘束を解こうと身体を動かそうとするも、結果は拘束具が金属音を鳴らすだけで緩む気配さえない。
魔法で強化しようとするも、いつもどう発動させていたのかが分からない。頭に変な靄がかかったように感じられ、それでも思い出そうとすると軽い頭痛が走る。
どうして。誰が。混乱した頭が必死に考えるが全く思考がまとまらない。
「おや。騒がしいと思えば気がついていたのか。ミツキさん。」
扉が開く音と共に聞こえてきたのは。
オルト君の声だった。
「ーーーーーーッ.....」
魔法を使えないわたしは《ライトレター》を使い、言葉を届けることも出来ない。解放の願いを込めて身をよじる。微かに揺らされた鎖が音を立てる。
「やっぱりあの空中で光る文字は魔法だったんだ。これであのミツキさんでも何処にも助けを呼ぶことは出来ない。大人しくしてるんだね。」
そういうオルト君の声はいつもの優しそうな声の筈なのに、何故かその声はわたしの耳にねっとりとまとわりつく様な心地がする。
「ああ。やっとだ。やっとミツキさんに復讐出来る。あの日、あの日からずっとこの日を待ち望んできた。」
あの日。あの日とは。.....心当たりはある。だが。その度にオルト君は許してくれ.....。
いや。違う。オルト君は。きっと。
一度も許してなどいないのだ。
全てはこの時のために内に感情を押し殺して。
「これからはミツキさんは僕の奴隷だ。ああ。ミツキさんが本当に僕に屈服した時にその拘束は解いてあげるよ。」
「具体的な目標でも上げてみようか。魔術って言ったらやっぱりその血だよね!普通とは違う素材ならやっぱりその結果にも期待が持てるからね!本当に従順なら喜んで分けてくれるよね!」
オルト君が本当に嬉しそうな声で話し掛けてくる。
その声に狂気を混じらせながら。
「僕の可愛いエルフの奴隷さん?」
どくんっ、どくんっーーーー心臓の鼓動が大きく速くなっているのを感じる。
彼は知っているのだ。わたしの種族を。そしてそれを知って使おうとしているのだ。
「ーーーーッ!〜!」
恐怖と焦燥感がわたしを突き動かす。無駄だと知りつつももがいて拘束具を解こうとする。
ガチャガチャと音を立ててもがいていると、
突然、電気を受けたような痛みが走った。
受けた衝撃と痛みで身体が仰け反ろうとするが背もたれに括られているので痙攣したようにしか動けない。
あまりのショックに意識が明滅する。
「そんなに抵抗しないでくれよ。この部屋には僕の意思で即座に起動できる攻撃魔法陣が設置してあるから危ないからね。それじゃあ、また来るよ。」
そんなオルト君の声が聞こえた気がしながら、わたしは意識を失った。
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あれからどのくらい経ったのだろうか。気絶から意識が戻っても、目隠しなどのせいで捕えられてからの時間も今の時間も確認することが出来ない。
まだ身体が痺れたような痛みがある。そこまでは経っていないためか、それとも無理な体勢で長い間気絶していたためか。
わかることは相変わらず全く動けない状態で拘束されていること、何の音もしないのでオルト君は今居ないようであるということだ。
コニオさんやクインさんは何をしているだろうか。心配を掛けてしまった。今は探してくれているのだろうか。今なお魔法は使えそうにないので何も出来ない、その焦りを無理やり抑えつつ思考を走らせる。
まずこれからどうするか。オルト君はわたしを奴隷、と言っていた。そしてその証に研究用にエルフであるわたしの血を取ると。
拘束こんなことをされたにもか関わらず自分でもどうかと思うが、血を取られることは別に拒もうとは思わない。しかし奴隷となるのは流石に忌避感がある。
しかし、だからといって魔法が使えないと非力な女子でしかないわたしは何も出来ない。そうして思考が堂々巡りしていると、
ぐぅーー。
...お腹から音がなった。非常時にも関わらず、わたしの身体は欲望に忠実だ。フライングした空腹を追いかける様に喉の乾きもやってくる。痛みは相変わらずだったが。
すると、それを見透かしたかのようなタイミングで扉の開くような音が響いた。
「やぁ。こんばんは、ミツキさん。気絶してからずいぶんと起きなかったからどうしようかと思ったよ。」
.....言葉から察すると今は夜で、気絶したのは何時かはわからないが時間は経っているらしい。
「それでミツキさんがお腹を空かせているんじゃないかって思ってわざわざ持って来たわけだよ。」
そう言ってオルト君からなにかを置く音とカチャカチャと軽くーー恐らく食器であろうーー固い者がぶつかる音がした。
「今日の食事はステーキだ。」
微かに肉の香りが鼻を掠める。空腹のわたしの口に否応なしに唾液が溜まる。
「ほら、口を開けて。」
言われた通り口を開く。まるでペットに餌を与えられているかのような扱いの恥ずかしさと、近ずいてくる美味しそうな匂いの元を食べる期待で顔が熱くなる。
が、実際に口に入る直前、口前まで近づいていた物が離れていってしまう。咀嚼をするために分泌されていた唾液がよだれとなって垂れる。それを見ていたオルト君はくつくつと笑って、
「物欲しそうな顔をして。別にミツキさんの飯だなんて言ってないだろ?その顔が見えると思ってわざわざ持って来たんだ。」
なんてことを言う。お腹が痛いぐらいに空腹を訴えてくる。それなのに食べられないという状況にいつの間にか涙が頬を伝っていた。
「泣かないでくれよ。ほら。これでもあげるから。」
口内に流し込まれた液体を驚きながらも嚥下する。飲んだものは水だった。肉の匂いを嗅がされた後で満足は出来ないが空腹感を誤魔化していく。
「もう俺の奴隷になる気になったかな?」
オルト君が尋ねてくるが、やはり奴隷は嫌だ。ハッキリと首を横に振る。
その瞬間、電撃の様な痛みがわたしを打ち据えた。
「早く俺は研究がしたいんだ。さっさと諦めてくれよ。」
ならばこのまま無理矢理取ればいいではないかと思うが、《復讐》として譲れないものがあるのだろうか。
痛みの中そんなことを思いながら意識を失った。
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それからわたしが横を向くと丁度飲める位置に水を飲める様な装置が設置された。
しかしまるで人で無いかのような扱いにギリギリまで飲む気になれず、それでも訪れる限界の度に精神はすり減って行った。たまに来ては奴隷化を迫り拒否するとされる攻撃で肉体的にも疲労して行った。最近は耐性が付いたのか慣れたのか、一撃では気絶しなくなった。そのせいで余計に多く受けるようになった。今日もわたしは攻撃を受ける。
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またどのくらい経ったのかはわからない。最近はずっと身体中に痺れる様な痛みが残っている。
.....いつまでこんな事が続くのだろう。
水は貰ったが、空腹が癒える訳ではない。
誘拐されてからどのくらい過ぎたのだろうか。
最近は助けを半ば諦めかけている自分がいる。
そろそろまたオルト君が来る頃だろうか。
そこまで考えた時、あるものが訪れた。
オルト君でも助けでもない。
それは、尿意。人が生きている以上必ず訪れる生理的欲求。が、拘束されている状況では用を足すことなど出来ない。はずさないと。この拘束を。勢い良く手枷や鎖のなかであばれる。はずれない。おおきなおとをたてながら暴れる。
音に気付いてオルト君がはいってくる。
「なにを暴れてるのかな?」
そんなことばに反応しているひまはない。
はやく、はやくここから出なきゃ。
暴れる。暴れる。あばれる。
いままでしっかりとわたしをしばりつづけてきた鎖達はどれだけ暴れてもゆらぐけはいさえない。
ひろうした精神やにくたいはただでさえ足りないちからをさらに弱める。
「奴隷になってさえくれれば良いんだよ?」
もうなにもかんがえられない。なんでもいいから。うなずく。うなずく。
「やっとなってくれるのか!ありがとう!」
そういっておるとくんはわたしからせをむけてとびらへといってしまう。
「じゃあ俺は道具の用意をしてくるから。待っててね」
まって?まって。はずしていって。もうすぐげんかいだから。おねがい。
おるとくんがとびらにきえるのとわたしのげんかいはほぼどうじだった。そして。ひへいしきったわたしのせいしんのなかのたいせつな《なにか》がこわれるのも、またどうじだった。




