其ノ漆 壱時間目 魔法授業・入門編
「それでは、私は授業の準備をしてくる。それまでは自由とする。解散!」
ジャス先生はそう言って教室を出ていった。
...その瞬間、わたしのまわりには人の壁が出来ていた。私の背が低いせいで基本みんなが大きく見える。
「どこから来たの!?」
「お父さんの都合で出来たんでしょ?何してるの!?」
「それにしても小さくて可愛いよね!」
「ほんと!それにこんなに小さいのに学校に来るなんて凄いよね!」
主に女子が興味深々と言ったようすで次々と話しかけて来る。男子も話しかける様なことはしないが、囲んでいる人の中にいる。
そういえば前の世界で聞いたことがあった気がする。
曰く、転校してから一〜二週間はその珍しさからとても人気になる、とか。
しかし1度に聞かれすぎて全く返せない。そんな慌てて焦った様子を見たのか周囲から少し離れた、いかにも学級委員長、といった風貌のストレートの髪を二の腕辺りまで伸ばした女子が、
「こらこら。そんなにいっぱい聞いてもミツキちゃんが困るだけでしょ?1人ずつ聞きなさいな。」
と、みんなを止めてくれた。
「じゃあ私から!」
そして1人の女子が手を挙げ、それからいろいろなことを聞かれた。
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やっとみんなが静かになったところでその女子に視線を向ける。
『助けてくれてありがとうございます。えっと...あなたは?』
「いえいえ。私の名前はクインよ。困っているなら助けるのは当たり前だから気にしないで。
それとこの学校は今日が初めて何でしょ?学校の構造とか、時間さえよければ放課後に案内するわよ?」
それは有難い。まだ限れた場所しか行っていないので、全体を見て回りたいと思っていたのだ。
『あ、ありがとうございます、ぜひよろしくおねがいしま「少し待て。」
『え?』
見ると、そこには複数人の男子が立っていた。
男子の1人は続ける。
「確かに案内っていうのは委員長のやりやすいことかもしれねぇ。しかしな、この学校のことをよく知ってるのは委員長だけじゃない。ここはその役目を平等に決めようじゃねぇか。」
委員長...クインはため息を付いて、
「それはあなた達の願望でしょう?まぁミツキちゃんがいいっていうなら良いけど。ミツキちゃんは誰でも良いの?」
何をそんなに揉めているのだろうか。学校を案内
してもらうだけなのだが。
『わたしは誰でも...』
「決まりだな。決定内容は『三竦み』でいいな?」
「ええ。さっさとしましょう。そっちはそいつら全員なのか一人一人なのか。」
「そりゃ別々だ。行くぞ。」
そして始まったのはジャンセンのようなもの...だと思う。掛け声と共に手のひらに炎、水、雷を起こして、その相性、炎を消す水、水に通る雷、しかし炎には通らない、と言って勝敗を分けるもの、...という説明を、結局完勝したクインさんから聞いた。
男子達が恨めしそうに見ていたのだか、そんなに良かったのだろうか。
そんなことを考えていると、ジャス先生が教室に入ってきた。
「はい。それでは席に付いて。授業を始めるぞ。」
と、教科書らしきものを出し始めた。周りを見るとみんなもさも当然のように同じ本を出す。
...持っていないのだがどうしようか。聞いてみることにする。
『先生、教科書がないのですが...』
「あぁ、まだ渡されていないのか。そのうち渡されると思うので、今日は隣に見せてもらえ。」
仕方ないな。早くもらえないと迷惑になっちゃうけど、今日は見せてもらおう。
『オルト君、見せて貰ってもいいかな...?』
「あ、うん、全然良いよ。」
『ありがとう。』
見せてもらうために机を寄せる。オルト君の小さな悲鳴が聞こえた気がするが許して欲しいな。
ジャス先生が再開する。
「では、昨日までで『魔力について』という内容が終わった。今日は復習をした後、『魔力の絶対量について』という内容に移る。ではそこ、魔力とはどういうものか、説明してくれ。」
中列ほどの女子が指名される。
「はい。魔力とは、自身の体内に宿るもので、これを使って、詠唱の命令を伝えます。複雑だったり、規模の大きい命令だったりするほど、多く消費します。」
「宜しい。魔力が無くなりかけると疲れを感じたり、切れると気絶したりするから、気をつけてくれ、という話だった。
では、その体内に宿る魔力は増やすことができないのか。結論から言うと、それは可能だ。要は魔力は筋力だと考えてもらえるといい。
トレーニングを続ける事で、筋肉を付けるように絶対量を付けることができる。
しかし、ただ魔法を撃つだけでは、魔力切れを起こして終わりだ。今日はグラウンドでその方法を教える。みんな外に出てくれ。クインはミツキを連れていくように。」
その声とともに生徒は教室を出ていく。わたしもクインのところへ行って、一緒に校庭へ出た。
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校庭へ出ると、先生がみんなから少し間を開けている。その最後尾についた。先生はみんなが揃ったのを見て話し始める。
「訓練方法と言っても、基本は簡単だ。できるだけ詳しく、よりはっきりと命令をする。ポイントなのは複雑なのでは無く、あくまでもはっきりと、と言うことだ。そうすることでより質のいい練習となる。例はこんな感じだ。
“『魔力を壁として』、『魔力を鉄として』、『より硬く』『より堅く』『より固く』せん。《マジックアーマー》”」
《アーマー》か...嫌な思い出しかないが見てみると表面に薄い青紫色を膜のようなものが貼っている。それで攻撃を受け止めるのか。
「このように、今の私が命令したのは『魔力を使って』、『かたく』することだけだ。しかし命令をより詳しく、はっきりとさせることでより深く訓練とすることができる。」
ただ、自分がどのレベルにいるのか分からないと訓練のやる気も起きないだろう。そこで今日みんなにはこれを配る。学校お手製の絶対量チェッカーだ。魔力を流すと、ランク相当で絶対量を表してくれる。ここでみんな一回使って貰い、これからの方針とする。一列にならんでくれ。」
体温計を薄くしたような器具を渡される。
そして順番にチェッカーを使い始めた。【あなたの魔力はCです】等々の電子音が聞こえてくる。
そしてわたしの番。魔力を流す。聞こえてきたのは、
【あなたの魔力はAです】
という声。みんなの時間が止まった。
『...え?』
「...え?」
わたし、続いて先生の、みんなの声を代読するかのような声が出た。
もう一度流してみる。
【あなたの魔力はAです】
先生と目があう。
なんか凄いですね。
凄い何て問題じゃないぞ?
やっぱりそうですか?
とりあえずこの後もう一回みんなには囲まれるな。
ですよね。
会話ができた気がした。無言で最後尾に帰る。
先生は沈黙を消すかのように、授業を締める。
「えー、魔力の絶対量に限界はない。よってこの訓練はずっと続けることが大切だ。自分で時間を見つけ、こつこつとやっておくように。以上。」
そして先生は帰っていった。とんとん、と肩を叩かれる。後ろを振り向くと、とても一言では言えない顔をしクインさんがいた。
「そ...それじゃとりあえずお昼だから、お昼ご飯を食べる食堂から案内するわね。...そこでいろいろ聞かせてもらうわよ?」
...物凄い圧力を感じたので素直に頷く。
それは他の生徒を一切寄せ付けなかったことが物語っていた。
ストーリー評価、文書評価を初めて貰いました。すっごく驚きました。ありがとうございます。
まだまだ拙い文ですが、よろしくお願いします。