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エルフは言霊に希う  作者: 望月うさぎ
壱ノ章 「いってきます。」
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其ノ陸 零時間目 入学式

入学試験からの帰り際、マナさんに制服を貰った。いつの間にか魔法で採寸をしていたらしい。

それと一緒にいかにも魔術師らしい長いローブを一着。これは防寒着にもなり、入学後の集会などで着る何処に所属しているかを表してくれるものらしい。


そもそもこの学校は、剣士組、魔術師組、どちらでもない内省官を目指す勉学組に別れているらしく、一番多いのは剣士組ーーこれは鍛錬と訓練をしていれば特別な才能が無くても強くなりやすいため、

次に内省官組ーー内省官は収入が安定しているのはこの世界でも同じなようだ、

そして魔術師組ーー明確なランク制度で懸命に努力をして一つ、人生を捧げてやっと二つ上がることがあるかどうか、如何せん才能に左右されるため、あまり人が居ないらしい。に別れている。

よって、教師側の都合上識別が即座に出来ないと緊急時に問題が生じる為、そのような服装が用いられていると聞いた。


家に帰り、実際に制服に袖を通しながら考える。

勉強することは違うが、形態は前の世界の学校とよく似ている、ように思う。

授業はちらっと見ただけだったが、わたしが大学にイメージしていた姿と似ている。もしわたしがあの世界で大学に入っていればこんな感じだったのだろうか。


姿見を見ると中学校に入るか入らないか程の身長しかない儚げでいて可憐な少女と目が合う。

コニオさんは今は居ない。帰ってきたあと


「夕食を買ってくる。」


と出かけてしまった。ならばその間に制服を着てみてその具合か確かめようとしていたのだが一人になって制服という学校を思い起こすものにふれ、今まで考えようとしなかったことを考えてしまう。


目が合ったわたし(・・・)は全く自分(・・)に似ていなくて。そのせいで余計強く、自分(・・)を思い出してしまう。もしあの時よりも前に家族の事に気づけていたら。父の苦悩、母の苦悩に力を貸せていたら。しかしそれらは所詮たられば。目を開けるともうそこにはわたし(・・・)しかいなくて。今更のように思い出す中学校からの友達。弓道の皆。わたしが死んでどう思っただろうか。


もう会えないと半ばわかっている。それにあの世界にもし戻れたとしても、もう姿はかつての面影は微塵も残っていない。


皆と、もっと話しておけば良かったなぁ。

お母さん、お父さんと、もっと話しておけば良かったなぁ。

今更過ぎる喪失感がわたしの身を貫く。

気付けば涙が流れていた。

でも。戻らないものは戻らない。新しいこの世界で、あの世界の記憶を持って来たとしても、取り戻すことは出来ない。

わかってはいるが涙はあとからあとから流れる。

この悲しみは、消すことは出来無いのだろうか。

いっそのこと、前の記憶を全て忘れたなら。

楽になるのだろう。しかし、それはもはやわたし(・・・)でも自分(・・)でも無い別の何か、だ。

後悔、後悔、喪失、喪失、.......願望。



結局、結論を出すことはできずコニオさんが帰ってきて泣き跡を隠すのに苦労した。

心には靄がかかったようだった。



>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


そして3日後、わたしはコニオさんと学校へ行った。今日から学生なのだ。試験の時はこちらからだったので時間が適当だったが今日はマナさんに言われた時間、授業開始の前らしい時間に来てくれと頼まれた。

そして迷っては行けないからとその時間よりも少し早めに来たのだが、今日は全校集会があるためそこで紹介されるらしい。いきなり全校の前は凄く恥ずかしいが拒否権はもちろん無い。集団生活の闇を見た気がする。



そしてその時がやって来る。わたしはコニオさんと別れ、マナさんについて体育館のような大きな建物に裏から入り、誰とも会わずにステージの裏に来た。


「呼ぶまでここにいてね」


そしてしばらくすると女の生徒の


「続いては校長によるお話です」


という声とともにマナさんがステージに出る。


「皆さん、おはようございますわ。もうそろそろ剣士組の人は剣舞のテストがある頃です。このテストの上位が対人・実戦訓練の方に入ることになります。上級生の人はサポートしてあげて下さいまし。」


マナさんの丁寧だが敬語とは違う威厳のある声が響く。そしてマナさんはそこで話を切り、


「話は変わりますが、今日からこの学校に新しい生徒が転入してきました。組は魔術師組、Cクラスとなります。ーーーミツキさん、いらっしゃい。」


流石に生徒の前であの敬語は出せないのだろう。何故先生よりも高ランクの人が、となるからだ。

わたしは、自分がエルフだということはマナさんにも、そしてSランクであることは誰にも言わないようにした。出る杭は打たれる、とはよく言ったもので、排他されるのが怖かったのだ。

そんなことを考えつつ、というよりはそんな考えで無理矢理緊張をほぐしつつステージに上がる。


しかし上がった瞬間目の前に広がる人の波。

わたしは自分の身体が油をさしていない機械のように固まるのを感じた。全校生徒からの視線を感じる。


『わたしはミツキ・フォーレライです。

魔術師組のCクラスに入れさせてもらえることになりました。急に来ることになり、まだこの学校の事も全く分からないので、どうか優しくしてください!』

全力でお辞儀をする。考えておいた話はちゃんと出来ただろうか。


「はい。ではミツキさんは一回さっきの教室に戻ってくださいませ。後で案内しに行きますわ。」


そう言われてわたしは何とか身体を動かしてステージから出る。後ろから拍手が聞こえる。歓迎の拍手なのかはわからないが振り返る余裕もない。緊張が解けないが何とかもとの教室に戻るのだった。


そして暫く待っているとマナさんが戻ってきた。


「お疲れ様です、うまく出来ていたと思いますよ。」


『そうですかね…』


「ええ。それではまずC組の担任に合わせますね。付いてきてください。」


後ろから付いていく。すると教室の前にがっしりとした身体付きの男の教師が立っていた。


「私がC組担当魔術師のジャスだ。これからよろしくな。」


そう言うとその男...ジャス先生は快活に笑ってみせる。


「じゃあ私が先に入って呼ぶからそしたら入ってもう一回自己紹介を宜しくな。」


『はい。』


いつも通りライトレターで返事をする。するとジャス先生はどこか不満そうだ。


「すまんが声を出してくれないか?わたしの授業は元気を重んじているのだ。」


出したくないから出していないわけでは無いのだからどうすることも出来ない。と言っても失語症が分かるとは思えない。...どう誤魔化そうか。

ふと思いついたことを言ってみた。


『わたしは産まれて間もない頃に呪いを受けて声を封じられているのです...何時かまたあの時のようにお父さんの前で歌を歌うのがわたしの夢なのです。』


呪いなんてものが信じられているのかは知らないが、前の世界のライトノベルとかでは魔法のある世界では必ずと言っていいほど存在していた。間違いでは無いらしく、ジャス先生は


「そうだったのか...これは悪いことを聞いた。何時か治るといいな。...では呼んだら入ってくれ。」


と言い、教室に入っていった。


...緊張する。嫌われたらどうしよう。わたしは前の世界では転校なんてした事が無かったので初めての経験なのだが、前の世界でも転校生はこんな気分だったのだろうか。

そうこう考えていると教室から


「では改めて紹介する。今日から家の組に入るミツキさんだ。」


言われてゆっくりと入る。...集まる視線が恥ずかしい。俯きそうになるのを堪えて先生の横についた。


『集会でも言いましたが、わたしはミツキ、ミツキ・フォーレライと言います。今日からよろしくお願いします!』


ライトレターを少し大きくしてみんなに見えるようにする。お辞儀。


ーーー「.....あの娘可愛くねぇ?」

ーーー「それな。どっかの貴族とか?」

ーーー「キャー!こっち見た!」

ーーー「ちっさいのに凄いよねー」

ささやき声。

...さっきは集会で聞こえなかったが、狭い教室だと、向こうからの声が聞こえてくる。

...前に湖で見た時に自分でも少しは思ったが、そんな他人に好かれるとは思って居なかったので顔が凄く熱くなる。


「みんな静かに。では、ミツキさんはそこの窓側の席にいってくれ。」


見ると確かに一席空いている席がある。頷いてそこに座った。隣には男子が座っている。やはりわたしが小さいのか、大きく見える。

ここは前の世界の知識をフル活用して仲良くなるべきだろう。


「よ...よろしく。」


『あ...こちらこそ...。あの...名前は?』


「ああ!ごめんね!俺の名前はオルト。そっちはミツキ...さん?」


『はい。お隣になって迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします。オルト君。』


微笑みを作りながら小首をかしげる。


「い...いやで迷惑何て...何でも言ってね。」


嫌われては無さそうで良かった。上手くやっていきたいな。

いつの間にか10回文突破ですね。いつになったら上手く書けるのか。

感想とかもらってる人が凄い事が実感出来ますね。

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