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エルフは言霊に希う  作者: 望月うさぎ
壱ノ章 「いってきます。」
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其ノ伍 入学前 入学試験

朝、わたしとコニオさんは街に出た。コニオさんの家はメインストリートから道を2、3本程挟んだ、街の入り口とお城の中心程にある家だ。この道は人通りがまばらだ。そんな道をお城に向かって歩いてゆく。

途中、大きな橋を渡った。聞くとそれでもこの国ではよくあるサイズの様で驚かされた。


橋を渡ってしばらく歩くと、家の数が少なくなって来る。

そして民家が無くなった頃、大きな建物が見えてきた。

建物の前に広がるのはとても広い芝の校庭、

そして左右に長方形の建物、そして中央には頂点に大きな時計塔の付いた学校だった。

コニオさんは正面から入ろうとする。慌てて付いていくと

弾かれた。トンッと押されるような感覚。

それを見たコニオさんが


「こいつは俺のだ。通してくれ」


と誰もいないのに言った。すると目の前の何かが消える感覚。そのまま通ることが出来た。


「この学校の防御術式だ。記録に無い全てを通さないらしい」


と言った。コニオさんのと言っただけで通れるようになるなんてなんて高度な魔法……

……ん?コニオさんの?なぜ所有格?

……要らない想像をして何故か顔が熱くなるのをコニオさんの後ろにいることで見えないだろうと無視する。……なんでこっち向くんですか。


「どうした?」


ひゃい!?『にゃんでもないです!』


……思考がそのまま流れるこの仕様は変えた方がいいかも知れない。

全力でなかった振りをしつつ付いていくと真ん中の校舎の入口の前に女性が立っている。


「久しぶりですわ。コニオ」


「そうだったか?

まぁいいが。紹介しよう。こいつがこの学校の校長をやってるマナ・ヴァレンタイン、

そしてこいつが連絡したミツキ・フォーレライだ」


「あら。あなたがあのミツキさん?話は聞いてるわ。魔法が習いたいらしいわね」


『はい。魔法が上手くなりたくて』


マナさんはライトレターを見ると、少し驚いたように、

「初めて見るけどそれも魔法ね?素晴らしいわ。そんなふうに魔法は使い方さえ合っていればどんなことでも出来る素晴らしい力となる。あなたもここでそれをもっと経験してもらえるといいわね。それじゃ、付いていらっしゃい」


そう言ってマナさんは玄関から校舎に入っていった。慌てて追いかけると、前の世界の高校生と同じくらいの人々が、様々な教室で授業を受けていた。


「今は授業中なので出来るだけ静かにお願いするつもりだったのですが、ミツキさんは落ち着いていらっしゃるのね。普通初めて来た人たちは新鮮な環境に声を上げるんですのよ」


落ち着いて居る……訳ではないが、前の世界では高校生だったので授業中には静かにするということが当たり前になっていた。そのお陰だろう。


そしてしばらく進むと、大きな扉に突き当たった。その扉をマナさんが開ける。すると大きな広場...と言うよりは闘技場の方が雰囲気があっている広い空間に出た。


「いつもここで生徒は魔法のテストなどをやっているの。ここで貴女にはテスト……所謂編入試験をしてもらうわ。と言ってもコニオの紹介だし心配してはいないのですが」


テスト……久しぶりに聞いた。この世界でもテストからは逃げられないのか……。


「緊張はしなくていいわ。テストは私がその場で教えた簡単な魔法を唱えてもらうだけ。その出来栄えで、今の魔法ランク、そしてどのクラスに入るかを決めるわ。都合が悪いなら日を開けても良いけど。どうする?」


わたしはいつでもいいのだが、とコニオさんを見ると


「ミツキが良いならすぐにやっていいぞ。今日は特に用事もないからな」


と言ってくれた。


『じゃあやります』


そう言うとマナさんは頷いて


「よろしい。ではこれから私がその魔法を見せます。私のランクはA+なのでここまでは求めませんが、参考として見ておいてください」


と言って闘技場の中央を見る。そして


「“この場に御座す精霊たちよ『その姿を我が秘めし力に染め』ここに現せ。《ルーン・チェック》”」


───────その瞬間、闘技場を暗闇が包んだ。

段々と前後左右もわからなくなってくる。

肌寒い気がする。漠然とした恐怖。

何か、が居るのではないかという不安。それを煽られる様な暗闇だった。

気付けば腰が抜けていた。


「止めてやれ。ミツキが怖がってる。チェックの暗闇に紛れて別の魔法を使うと何か試験の魔法か分からんだろうが」


何処かでコニオさんの声が聞こえた。

すると暗闇が晴れ、さっきまで感じていた恐怖や不安が嘘のように消えて行く。


「ごめんなさいね。あんまり可愛く興味を持ってくれるから張り切っちゃって。大丈夫?」


『大丈夫……です』


「……改めて今回のテストは《ルーン・チェック》、自分の得意な属性を微精霊達が発した魔力から読み取って形にしてくれる魔法よ。魔力が大きければ大きい程大規模な表現になり、得意な魔法が多ければ一気に全て表してくれるから起こるバリエーションが増えるわ。ちなみに私のは見ての通り闇属性ですわ。」


「……誤魔化そうとするなよ、あんな恐怖を煽るのはルーンチェックの範疇では無いし、そもそも回復させてからだ」


「……わかってるわよ」




10分程後、落ち着いてきた。そろそろテストをしよう。


『もう大丈夫です。何かコツとかってありますか?』


教えてくれないだろうなとは思ったが、一応聞いてみる。


「そうね……これは全ての魔法に言えることだけれど、イメージをしっかり持った方がいいわね。なにを起こしたいのか、とかね。この魔法の場合は初めてだと何か分からないから難しい所はあるのだけれど」


『ありがとうございます。がんばってみます』


コニオさんの前だ。いい所を見せたい。

心の中でいつも通り詠唱を始める。


“此処に御座す精霊達よ。『その姿を我が秘めし力に染め』、その姿を現せ。『今この時は、我が力の全ては精霊達の顕現のために』。『汝の最も流麗なる姿を現せ』。

思い出すは(・・・・・)私の前世界(・・・・・)

その優美なる風景を(・・・・・・・・・)この姿でもう一度(・・・・・・・・)

《ルーン・チェック》”


詠唱を終えた瞬間、倦怠感とともにそれとは別に力の抜ける感覚。前に倒れると危ないので後ろに倒れる。


───────そこには、星空満天の真夏の夜が現れていた。

さっきまで暑くなかった気温も夏のような暑さになり。それを夜の涼しい風が攫ってゆく。

明かり一つない中でも満月と満天の星空が夜空を薄明かりに照らす。

不意に、夜の静寂を破る甲高い音。

そして爆発音とともに夜空に咲く光の大火。

そしてそれが着火剤だったかのように次々と上がる音、大火。色も赤、青と様々に変えて夜空を花畑へと変えてゆく。そして一際大きな花が咲き、魔法が終わった。




「……………………」


マナさんの沈黙。


「……………………」


コニオさんの沈黙。


そしてマナさんが


「今の……ルーン・チェック……よね?」


コニオさんが


「……ああ。魔法が発動したのは1回だけのはずだ」


と言った。わたしは全く動けないのでただ見ているしかない。


「……とりあえず分かったこと……は貴女はSランクの魔術師であること、得意な魔法の属性は……全属性なこと、かしらね」


結果マナさんから聞いた診断結果はこうだった。


『嬉しいです』


あの後、我に返ったコニオさんに倒れたわたしは介抱され、闘技場の横の控え室の様なところで長い椅子に寝かされていた。


疲れから弱々しい笑みしか浮かべられないが確かに微笑んでみせる。


マナさんはまだ驚きが隠せない様子で、


「それにしても聞いたことが無いわ……得意属性が全属性なんて……それでSランク……?なんで今まで聞いたことが無かったの……?というかSランクなんてこの世界に存在してるものなの……?」


と呟いていた。


それからまた暫くした後、マナさんが


「貴女はとんでもない魔力と属性適正がありますが、その絶対量が足りません。ですので貴女には一度Cクラスに入って頂きたく思います。Cクラスでは魔力量の増強、そしてそれを使った《バリア》を自在に発動させる練習をします。恐らく貴女は……教えさえすれば《バリア》は使えるとは思いますが、そこからの応用、相手の攻撃に対応してその攻撃を防ぐことは出来ないでしょう。ですのでそれを練習してはいかがでしょう?」



と言った。方針自体はわかったし実際その通りなのだが、


『なんで敬語になってるんですか?』


さっきまでの口調が嘘のように敬語になっている。そちらに驚いた。

だがマナ校長先生曰く、


「魔術師の間では、自分よりも高いランクの魔術師には敬語を使う、という決まりがあるのです。」


らしい。決まりがあるなら仕方が無いのか……もしれない。あまりなれることでは無いのでやめて欲しいのだが。


『わかりました。何時から行けば良いですか?』


「準備物もありますので3日後、よろしくお願い致します」


こうして、わたしの入学試験は終わり、入学が決まった。

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