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エルフは言霊に希う  作者: 望月うさぎ
始ノ章 「はじまり、はじまり。」
1/28

其ノ始 あの日あの場所あの夜に。

この『小説家になろう!』を見ていて、とあるTS作家さんの物語に感動して見切り発車しました。自己満足で更新します。キーワードのグダグダはこのためです。


「ーーーーッ!ーーーー!……」


 喉を必死に震わせ声を出し助けを求めようとする。

 しかし喉が震えることは無く、その結果声が発せられることも無い。

 目の前には数匹の狼の群れ。満月の光を浴びて爛々と光る目と滴る唾液が反射し存在感を主張する牙。

 もちろん俺に戦う力などないし、逃げることさえままならない。

 何故なら、今の俺は幼女の身体に質素な服を着ただけの状態だからだ。


 自分の身長はどのくらいかはわからない。ただ、目の前の狼は、……腰が抜けへたりこんだ自分の目の高さよりもずっと上で見上げなければならない。そのことから写真などで見た狼よりも相当な大きさを持っていると思われる。

 後もうひとつの違和感。そう。俺は元々男だったはずなのだ。

 それなのに女になっていることは……、自明の理だ。自分の身体だったものから、今まであったはずのものが無くなっていることですぐに判った。

 ……そして声が出ないこと。

 これは、決して恐怖に(・・・)よるもの(・・・・)ではない(・・・・)

 確かに突然の恐怖で言葉を失うこともあるのだろうが、今回ばかりは違った。

 この身体になった時既に(・・)出なくなっていたのだ。

 知識がある訳では無いが、現代風に言えば『失語症』と言うやつだろうか。

 しかしそれが結果として、本来本能的に行われる筈の、、「声を出すことで誰かに助けを求めること」を封じられていた。

 こんな森の奥深く、何が変わるでも無いかもしれないが、出来ないこと自体が俺の精神をガリガリと削っていく。


「ガルルルルッ!」

「ガルルゥ……」


 狼は決して獲物を逃すまい、とじりじりとその包囲を狭めてくる。気づけば俺は恐怖から失禁していた。


 こんな強烈な恐怖を味わったことなんて殆ど無いが、それでも元の身体なら失禁はしなかっただろう。

 それが今の自分の身体の脆さ、か弱さを象徴しているような気がした。


「グルゥアッ!」


 何がきっかけになったのかはわからない、しかし遂に狼の一匹が咆哮と共に飛び掛ってくる。これまでの威嚇とは全く違う、殺すための声。今まで聞いたこともない声と、図体に全く似合っていないスピードが迫ってくる。自分の心は全く覚悟が出来ていないままでも、身体は反射で己が目を閉じさせる。





 ────しかし痛みと狼がやって来ることは無く、更に取り囲んでいたはずの狼の圧力も消えている。

 恐る恐る目を開けると、そこには一刀のもとに両断され2倍の物体の塊となった狼の群れだった残骸達とその中心で巨大なツーハンデッドソードを振り抜いた男がいた。


 そいつは狼に目をくれもせず振り向き、


「……怪我はしていないな。」


 とあまり心配していなさそうとも取れるような抑揚の少ない声で話し掛けて来る。


「ーーーーーー……」


 しかし俺は話すことが出来いまま、安心からか意識が遠のいて行った。薄れゆく意識の中ただただ思っていたことは……、


 どうしてこうなった、だった。


<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<


俺はこれまで家が貧乏で共働き家庭だったが、そこそこの公立高等学校に入学して、まぁまぁな高校生活を送っていた。それに─────────────────────。


 ……はずだった。


 その日は部活の弓道部が試合前日の為に長引き、電車通学の俺が家に着く頃には10時を回っていた。

母はいつも7時ぐらいに帰ってきていて、いつも遅めの夕食を2人で食べている。父はいつも10時を過ぎている、帰っていても、おかしくだろう。


「あ〜、疲れた〜! 」


 そう言いいながら家に入った俺は、そのまま入口にバッグを取り落としてしまう。

 母が好きだと言って買ったカーペットが、ビリビリに破れている。

 今日の朝、靴を取り出した靴入れの棚が真ん中から折れている。

 その中の父のコレクションのスニーカーが、長靴が、丁寧に手入れされた革靴が、ズタボロになって散乱している。

 奥に続く廊下に置かれた細々とした壁掛け家具も、軒並み破壊されている。

 こんな貧乏な家に泥棒か? みんなは、部屋の物は大丈夫か? なんて、非現実的すぎる光景に、動転したまま、思考が冷静さを取り繕う。とりあえず近くにあった壊れた傘を持ち、物やら砂やらが散乱しているので、靴のまま上がる。


 廊下からリビングへ。見回しても、それらしい影はいない。どうやらもう事は終わった後らしい。ふと、散乱している中、不自然な程綺麗な机が目に付いた。

 そこには何かが書かれた紙が広がっており、それを紛失しない為にそこは荒らさなかったと考えられた。 自分の家に、そんな泥棒が大切にする紙なんてあった記憶は無い。そう思って、紙を覗き込んだ。

 そこには。

 0の数が異様に多い父名義の借金取り立ての用紙とそのための家具差し押さえの日程、父の欄の印だけがたりない離婚届が置いてあった。


 ……父は会社をいつの間にか首になっており、それを隠して今まで仕事に行くふりをして借金を繰り返していたらしい。そこまで見て戦慄していた俺の耳に、


「ああああああっっぐっ!!」


 唐突に、聞き慣れた父の、聞き慣れない悲鳴が聞こえてきた。びっくりして玄関の方を扉から覗こうとすると、玄関から近いこの扉まで何か水のようなものが流れてきていることに気付いた。しかし、暗くてよく分からない。悲鳴と水の正体を探るべく、そのまま玄関に出る。


「っ?!」


 そこで俺は思わず息を呑んでしまう。

 玄関には、家に入ろうとして後ろから包丁で腹を一突きされ、そこから下に向かって染みを作りながら何かを流す父の姿があった。

 開け放たれた扉の向こうから、淡い満月の光に照らされていた。


 その凶行の主が包丁を父から抜き、父を蹴り飛ばす。父は力なく倒れてしまった。父の後ろに隠れていた、その姿が見えるようになる。嫌に平等に降り注ぐ夜の光が包丁を照りつけている。

 ……突いていたのは、まるで目に光のない、母だった。母はまるであやつり人形の様にゆったりとした動作で俺の方を見て、


「フフ……フフフ……ごめんね、もう、いいや」


 そう言うと、包丁を構えたままこちらへ向かってきた。予想外すぎる展開に脳は全くついて来れていなかったが、それでも身体は命を守る為に逃げ出した。


「くそっ!」


 家の中を宛もなく逃げ回ったが、所詮は小さな家、すぐに追い詰められてしまう。追いついてきた脳も打開策を見出せずただ思考停止するだけだ。


「やっ……止めてくれ母さん!なんでこんなことを!」


 原因など、紙を見て分かりきっている。しかし聞くことで時間を稼ごうとする。しかし母は


「こんなこと……?ナニをイッテいルの……?」


 ……完全にイってしまっていた。


 それでも抵抗のために握ったままだった傘で抵抗を試みたが、それが母には不快だったらしくこれまでとは全然違う速さで襲いかかってきた。

 全く抵抗することが出来ず次に意識できたのは包丁が自分の鳩尾から生えている姿だった。


「ぐっ……あぁ゛ぁぁああぁあッ!?」


 鋭い痛みが身体を無理矢理止めさせる。すると、母はその包丁を引き抜くと2回、3回と突き刺してきた。


「ごめんね、後免ね、ゴめんネ、ゴメんね、ごめんネ、ゴめンね、ごメンネ」


 7回、8回、9回。


 刺す度に自分の身体に穴が空き、肉が裂け、血が飛び散り、部屋を極彩色に染め上げてゆく。


 頭を支える気力も無くなり、力なく横たわり、視界が揺れる。


「ゴメンネ、ゴメンネ、ゴメンネ、ゴメンネ、ゴメンネ、ごめんね、ゴメンネ...…」


 身体中の痛みさえ感じなくなって。

 口中に広がっていた血の味さえ感じなくなって。

 何もかも失って。


 ナニカに謝る声と重なる穴で、俺の命は、尽きた。



>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


目を覚ますと、そこは知らない天j...…森?だった。



 ……は?


 ……え?



 俺は確かに死んだはずだ。流石にあれだけ刺されて死なない程強いなんて思ったことはない。しかし想像していたような『天国』って感じでも無ければ『地獄』って感じでも無い。それにしては変な現実味を帯び過ぎている。

 ならどこなのだろうと思っても、あまりにも大きい木々。草だけでも腰程ある。そして満月の明かりで辛うじて視界があるが完全に夜だ。詳しいことは分からなかった。

 さらに、なにか自分の身体に違和感を覚える……手がやけに綺麗で細い。弓道部での活動でかなりゴツゴツとした手になっていたはずだ。そして小さい。これでは自分の身体と釣り合わない。アンバランスな手だ、と思ってから気づいた。


 俺の身体は、幼女のそれへと変貌を遂げていた。


「ーーーーッ!?」


 しかも声が出ない。何度混乱を言葉として外へ吐き出そうと思っても、それは全て喉を震わせること無くただ虚しくすり抜けて行くのみだった。


 そしてパニックになった俺の耳に───────





 ───────狼の遠吠えが聞こえた。

読んで頂き誠にありがとうございます! この『小説家になろう!』の機能自体も探り探りですが、助けてもらえると幸いです。よろしければこれからもよろしくお願いします。

良ければ、感想、コメント、評価等々、してくださると嬉しいです!

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