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デミット×カワード ぷろとたいぷっ  作者: 駒沢U佑
第一章 環境適応のススメ編
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現状把握



「まずは自己紹介から始めよう」



 そう切り出したのは紅朗だ。


 片や飢餓、片や山賊に襲われて、それ以外にもなんやかんやでてんやわんやに色々あった石動紅朗とテーラとソーラ。三人が満足に動けるようになったので彼らは森から場所を移して、今は平原でそれぞれ無造作に尻を落ち着かせていた。


 足を負傷したままだったテーラは、疲労から立ち直ったソーラによって治してもらい、全裸だった紅朗は比較的綺麗な状態の山賊の服を選び、幾つか剥ぎ取って着用している。裾がボロボロで七分丈のような状態になった黒のズボン。猪か何かの獣革の腰履き。上は綺麗な物が無かったので、灰色の腰布を適当に巻きつけただけの、出来損ないのタンクトップのような状態だ。靴はなんか気持ち悪かったので、これまた腰履きの獣革を綺麗な腰布でぐるぐるに巻き付けただけ。全裸の状態よりは見れる容姿にはなったが、それでも文化的とは言い辛い状態だった。まぁ背に腹は代えられないという事で我慢している。


 そんなこんながあって移動し、先の台詞に繋がった。



「あぁ、その前に。此処は安全なのか?」



 周囲を見渡す紅朗。1kmぐらいの後方には先程まで居た森が佇んでいるものの、それ以外はほぼ平地の草原ばかりだった。彼らが腰を据えている場所は少なくとも一般的な通り道なのだろう。地面が固められており、土が露出している。その道の脇にある石や岩に彼らは腰を下ろしていた。



「ここが安全というか、山賊とかボアウルフが出た事自体が本来無いイレギュラーで、ここいら近辺は他の土地に比べて何処も比較的安全なんだよ。その証拠がこの道さ」



 紅朗の言葉にテーラが答え、地面を指差した。現在彼らが腰を据えている道は、大よそ道幅2m程。



「先程、私達が居た森の向こう側に町があってね。行商人が良く使う道なのよ」



 テーラを補填する形で告げられたソーラの台詞に、紅朗は「成程」と頷いた。山賊はともかく行商人とは、文化の進んでいるウェールズに居るとは思えない随分とレトロな単語だな。発展途上国にはまだ居るだろうが。と思いつつ。



「それじゃあ自己紹介を始めよう。疑問は自己紹介が終わったら一人ずつ順番でな。それが一番手っ取り早いと思う。まずは俺。さっきも言ったが、名前は石動紅朗。国籍日本人の22歳。現在師匠を探す旅の真っ最中。お前らと会った時は腹が減って死にそうだったから助かったよ。はい次金髪」


「あたしはテーラ。コクセキってのは解んないけど、見ての通り狐兎族。ソーラとは双子でどっちかと言えばあたしが姉。18歳。外の世界が見たくて村を飛び出して、冒険者ギルドに所属している。この間Dランクになったばかりさ」


「テーラが言ったけど、私はソーラ。テーラの双子の妹。あとはテーラと同じね。因みにあの森に居たのは薬草採取が目的。油断して装備を整えていなかったのが原因で、もう少しで山賊に捕まるところだった。貴方が来てくれて助かったわ。ありがとう」



 紅朗は双子の、双子は紅朗の言葉を聞いて吟味するように頷いた。そして紅朗は更に疑問が増えた。18という年頃は、確かに見た通りだろう。出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる、実に均整のとれた肢体をしている。遺伝子が良いのか栄養が充分に取れているのか。それは解らないが、彼が18だった当時の同級生達が羨みそうなプロポーションだ。顔も美少女と言って差支えは無いだろう。だがそれを払拭してしまえる程の得体の知れない違和感が纏わり付いて離れない。


 コト族と言うのは恐らく彼女らの出身部族だろうが、矢張り聞いた事が無かった。しかし金髪の少女テーラは見ての通りと言った。つまりこの地方においてはコト族というのは一般的に知れ渡っている部族なのだと推測できる。それぞれの名前は和名とは程遠い上に、無いのか名乗らないのかは解らないが家名は無し。にも拘わらず日本語が通じる。しかし【国籍】という単語は知らない。どういう事なのだろうか。疑問は尽きず、知らない事だらけだ。冒険者ギルドというのも聞き覚えが無い。



(たしかギルドってのは同業組合って奴だよな。でもそれって昔に廃れたんじゃなかったっけか。え、なにココもしかして未だ封建制度?)



 知れず、紅朗は自分の顎に触れる。考えるべき事、知らなければならない事が沢山出来てきた。薬草採取ってのも考え物だ。山菜取りならまだしも、薬草。一般的な医療がこの地方では進んでおらず、未だ原始的な対処療法を行っているという事だ。下手したら民間療法かもしれない。河豚毒食ったら砂に埋めるとか、蠍に刺されたら砂糖をスプーン一杯食べれば良いとか、そんなんで治る訳無いのに信じているとか実に恐ろしい。超怖い。



「すまないが前言を撤回しよう。聞きたい事が有り過ぎる。俺の疑問を解消しない限り、二人の疑問に適切な回答を返せない恐れがある。まずは俺の疑問をある程度解消して貰っても良いか?」


「まぁ、良いけど……」



 紅朗の問いに、テーラが訝しげに頷いた。紅朗の言葉に何か引っ掛かるものでもあったのだろう、ソーラも神妙な顔して頷く。合意が得られた事に、我が意を得たりと紅朗は更に思考を深める。


 先の二人の言葉から得られた情報は、


 ・俺の知らないコト族という部族は、ここいらでは一般的に知れ渡っている。

 ・日本語とは縁の無さそうな名前だが何故か日本語は通じる。が、通じない単語もある。

 ・冒険者ギルドという、恐らくは何らかの集まりか、一般的な組織がある。

 ・山賊、行商人、薬草採取が仕事の一つ。発展途上国の可能性が高い。


 という事。だが、真っ先に尋ねなければいけないのはコレだろう。



「先程の、ソーラが出した光はなんだ?」



 生きる為に必要な、食の情報。あの肉が食べられないのか、それとも固形物そのものが無理なのか。未だ検証不足ではあるが、あの光を食ったと言えば食ったのだろう。三日以上絶食したかのような飢餓感に苛まれていたが、あの光を吸った時には腹が膨れていく感覚を覚えたのだ。現に今は飢えによる体の痺れも、意識のふらつきも無い。一日何も食べてない程度の空腹だ。我慢出来ない事は無い。



「治癒魔術の事かしら。聖ソティル党から購入した教本で覚えたもので、ヒールという魔術よ」


「……魔術と来たかー……」



 返ってきた言葉はオカルトだった。なんだ魔術とか。オカルトか。いやまぁ手が光るなんて考えるまでも無くオカルトそのものの事ではあるが、しかしまさかここで魔術なんて言葉が出るとは思いもしなかった。


 知り合いにオカルト好きはまぁまぁ居るし、魔術とか使い魔とか召喚だとか良い歳こいて大真面目に議論している場に出くわした事もあるし、そういう同好会というかサークルというか集会みたいなものに所属する人を何人か見てきた事はあるのだが、まさか自身がこうして直面するとは思わなかった。と、紅朗は頭を抱える。


 そういうのを信じるのは結構。幸いにして紅朗は宗教感ごった煮で神が腐る程おわす国で産まれ育ったのだ。信仰の自由という事である程度の無視が出来る程には理解がある。だがそういうのに巻き込まれるのは駄目だ。残念ながら、紅朗はそういうオカルトのをまるで信じていない。魔法とか魔術とかいう夢物語を信じるには、国際的に科学技術が結集している方の国で育ち過ぎた。



「……それじゃあなんですかー。貴方には魔力とかいうもんがあってー、それで火ィ出したり水出したり出来ちゃうんですかー」


「火も水も威力があるものは出せないけれど、ゆくゆくは習得したいと思っているわ。残念ながら私の適正は治癒と土だから、習得出来るとは限らないけど」


「イタイイタイイタイイタイ……」



 イタイよー。イタ過ぎるよこのお人ー。と紅朗はますます頭を抱えてしまった。普通に肯定したソーラもソーラだが、その隣のテーラも至って普通の顔をしているのだ。まるで、ソーラの言う事が間違っていないような素振りで。そういう文化の無い紅朗には全くもって信じられない事である。だが何よりもイタイのは、それに頼らなければ食事が出来ないかもしれない自分自身だ。



「……一応聞いておきたいんだが、そういう……、なんてゆーの? 魔術? とかいう奴、は……、まさか全国的に広がっている訳じゃあないよな?」


「何を言っているの貴方」



 ほんの僅かな期待を寄せて問うた紅朗の言葉に返したのは、ソーラ。僅かな否定的な言葉に、頼む、頼むぞと念を寄せる紅朗は、しかし裏切られる事となる。



「魔術は国の防衛に必須だわ。高名な魔術師は大概国に雇われているものよ」


「生活魔術ぐらいなら大概の人は使えるしね。あたし達もお母さんから教わったし」


妖精郷ティル・ナ・ノーグか此処はァッ!!」



 紅朗の悲痛な叫びが平原に木霊した。




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