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デミット×カワード ぷろとたいぷっ  作者: 駒沢U佑
第一章 環境適応のススメ編
35/53

勝利への要因

大変遅くなりました。34話更新です。楽しんで頂けたら幸いです。




「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「ああああああああああああああああ!!」



 相対する二人は互いに示し合わせたかのように雄叫びを上げ、眼前の敵に向かって走り出した。


 紅朗は徒手空拳。スカイクォーツは剣。得物一つとってもスカイクォーツの方が間合いは大きい。その上、腕や足の長さ、ダメージの低さ、体力までもスカイクォーツが勝っているのだ。どちらが先手を取るのかは、考えるまでも無いだろう。



「シィッ!!」


「甘ぇよ!!」



 当然、紅朗もそれは重々理解している。鈍色の光を置いて水平に走る剣先を、姿勢を低くして躱した紅朗はその足を止めず、スカイクォーツの懐へ潜り込もうとした。だがスカイクォーツも当然、紅朗の動きを読んでいた。交わした時間は短いけれど、紅朗とは今まで濃密な戦いを繰り広げていた身。水平に剣が振るわれた場合、紅朗が剣先の下に潜り込む確立は非常に高い。それを頭では無く身体で感じ取っていたスカイクォーツは、振るった剣を肉体強化魔術も駆使して文字通り切り返した。



「どちらが、だ!!」



 切り返した剣が向かうは、姿勢を低くした紅朗の更に下。機動力の要である足に向けられている。そう来るだろうと、紅朗は確信していた。



「テメェが、だ!!」



 スカイクォーツの剣が紅朗の足に触れる直前、紅朗は両足を自分の身体に密着させるように引き上げ、自らの身体を宙に浮かせた。丁度、スカイクォーツの剣に対して、斜めに当たるように。そして剣は紅朗の足、グリーブの表面をなぞるように滑り、大地に激突。甲高い金属音を奏でた直後、紅朗は身体を捩じり、生きている右手で大地を掴んだ。そのままスカイクォーツの剣速を上乗せした紅朗の足は右腕を軸に旋回。強烈なミドルキックがスカイクォーツの胴体に衝突した。



「――ゲハァッ!!」



 ガイィン!! と、剣では無くスカイクォーツの着込んだ鎧が音を立て、スカイクォーツは壁際まで飛ばされた。寸での所で壁との激突を回避したスカイクォーツだったが、紅朗の蹴りを鎧で阻んだとは言え衝撃までは殺しきれず、荒い吐息を漏らす。その隙を紅朗が見逃す筈が無かった。



「――、チィッ!!」



 即攻の追撃、スタンプ(踏みつけ)


 頭部を狙った追撃は、しかし届く事は無く。体内に響く鈍痛を抱えながらも、スカイクォーツは紅朗の追撃を肘打ちで相殺した。そしてそのまま肘を上方へ掬い上げる。紅朗の足は当然のようにスカイクォーツの肘に追従し、軸足と蹴り足は強制的に離された。その開かれた足と足の間に潜り込み、スカイクォーツは渾身の突きを放つ。


 ただの斬撃さえ見えぬ程の速度で放てるスカイクォーツの肉体強化魔術。それを施された風の如き突きを紅朗が避けられたのは、決して紅朗がスカイクォーツを上回った訳では無い。紅朗は、肘打ちを防がれた瞬間に回避行動に移っていたからだ。


 スカイクォーツは壁際に寄せられ、鎧では防ぎ切れなかったダメージを追っている。精神的にも肉体的にも、刹那的にではあるが焦らずにはいられない。そんな状態で、常日頃から剣を振り続けてきた者が果たして剣以外を頼るだろうか。高い殺傷能力を保有した、自らの身体のように使い慣れた剣を。答えは、彼自身が示した通り、咄嗟の時には必ず剣を振るだろうと紅朗は確信していた。


 その事を踏まえた上で、肘打ちを防いだスカイクォーツの体勢。あの体勢からでは、斬撃は充分な力が乗らず必殺にはならないだろう。力が乗りやすい、最速の攻撃。必殺と成り得る攻撃は突きしか無い。


 思うまでも無く、紅朗の肉体は勝手に動く。そういう技術。俗に言う【先読み】とも呼ばれる技術を持ち、尚且つ頭からの命令を待たずして動ける肉体が合わさって初めて出来る回避行動により、紅朗はスカイクォーツの突きを避けられたのだ。


 身を捩り、剣の通る直線上から外れる。それだけでもスカイクォーツは……否。観客のように立つソーラですら目を疑う完璧な回避行動に、その上で紅朗は攻撃までプラスさせた。身を捩る、つまりは旋回の勢いをそのままに、軸足を浮かせてスカイクォーツの側頭部、湾曲した角に叩き込んだ。


 そしてそれだけでは終わらない。紅朗は、先程かち上げられた蹴り脚を巧みに使い、スカイクォーツの角を蹴ると同時に、突きの為に伸ばされたスカイクォーツの二の腕を絡め捕った。別段それは攻撃の為の行動では無く、蹴りの衝撃により剣がブレて危なっかしいから捕っただけではあるのだが、しかし側頭部への蹴りが余程衝撃的だったのかスカイクォーツがよろめき、それを感じ取った紅朗は絡め捕った行動を攻撃に転身。重心移動を用いてスカイクォーツを引き摺り倒し、地面に着いた瞬間に今度こそと、その肘関節に紅朗は全体重を掛けた。


 メギィッ!! と、スカイクォーツの関節が軋む音を紅朗は足を通して聴く。知覚行動では間に合わない。脳がそれを認識して対処行動を起こす程度の通常動作では間に合わない程に、それは流れるような体重移動だった。にも関わらず、スカイクォーツの肘は軋む程度で折れた感触は伝わらない。



「――ガァッ!!」



 ばかりか、スカイクォーツの咆哮と同時に紅朗はまたしても振り払われ、距離を大きく開けてしまった。



「っ、毎度毎度……捕るのが上手い」


「単調なんだよ、下手くそ」



 一連の攻防。それによる体力の消耗はあれど、戦いはまた振り出しに戻った。胴体部や頭部へのダメージは無視出来る程度に些細なもの。肘関節のダメージも、痛みは残るがまだ動かせる。そして距離の開いたこの状況。闘争はまた振り出しに戻った、とスカイクォーツは判断した。


 しかし紅朗は違う。自分よりスカイクォーツの身体能力が遥かに上である事は、身に染みて解っている。そもそもがこの異郷では、下手しなくとも下から数えた方が早い部類に自分は入っているだろう。その異郷でも上位に入るアマレロの上司の身体能力が低い訳が無い。だが、培い修めた技術は自分の方が遥かに高いと紅朗は確信した。明らかに身体能力の劣る自分がこうしてどつき合い、二度もスカイクォーツの腕を取れたのだ。それはそのまま、紅朗の確信の裏付けとも成り得る事だろう。


 それだけ解れば、紅朗には充分だった。スカイクォーツの首に自らの牙は届き得る。であれば、後はその道を切り拓くのみ。



「さぁ、進むぜぇえええええええ!!」



 血が脈動する度に脳へと突き刺さるような激痛も無視して、紅朗は走り出した。対するスカイクォーツも合わせるように腰を落とし、両者は三度、互いの意思をぶつけ合う。


 剣が振るわれ、足が振るわれ、鎧が鳴り、具足が削られる。肘打ちと膝蹴りがぶつかり合い、頭突きとハイキックが衝突し、剣と踵が互いを削る。醜い音が街角を揺する毎に何かが壊れ、風切り音と共に金属音が木霊する。正にそれは、激突であった。


 それでも、片やロレインカム防衛騎士団という肩書を背負うまでに至った者。片や極有り触れた肉体を持つ冒険者。地力でも体力面でも、勿論魔術面でも紅朗はスカイクォーツよりも劣っている。ましてや左腕のダメージは大きく、血は未だに流れ出ているのだ。長期戦は明らかに分が悪い。それをまざまざと見せつけるかのように、紅朗はスカイクォーツに押され始めていた。


 剣を多用し始めたスカイクォーツの袈裟切り、突き、薙ぎ。視認すら許さない剣閃。それを極めて高い集中力を持って躱す紅朗だが、肉体に刻まれた傷と流れ出る血がその精度を削り取っていく。


 首元を狙った横薙ぎを、体を後ろに傾ける事で回避。頭上を通過した剣はすぐさま返されて袈裟切り。その剣速は横薙ぎよりも明らかに速度を上げており、恐らく先の一撃は本気で紅朗の首を狙った訳では無いのだろう。だがそれが解った所でどうしようもない。剣の攻撃など左腕の大怪我を加味しなくとも、当たれば負け確定のようなものだ。決して当たる訳にはいかない紅朗は身体が傾いた状態で更に腰を引き、落下速度を上げて辛くも袈裟切りを躱す。


 しかし、上半身をのけぞらせた上で腰を引く。その行動はつまり、後方への転倒を余儀なくする動作だった。その体勢に入った紅朗に出来る事は、そう多くない。精々が、無様に転倒する事だけは避けるよう背中を丸め、後転する事ぐらいだ。


 そんな隙を、スカイクォーツも見逃す筈が無い。



「――貰ったッ!!」



 大上段から振り下ろされる剣。足元で転がる敵、つまりは死に体となった敵を前にした時。人という生き物はどうしても全体重を乗せた必殺の一撃を放ちたくなる。その習性を全国行脚で体験してきた紅朗は、自らの身体が後転途中の逆様になった時、右腕一本で無理矢理自身を持ち上げて剣から身を逸らした。そして流れるように側転。住宅街の隅っこにぽっかりと開いた路地裏に自身を滑り込ませた。



「てっめぇ!! 今確実に殺るつもりで振り下ろしたろ!!」


「安心しろ! 背骨を断たれても我が隊の医療班ならば後遺症も残さん実績がある!!」


「何それ超怖ぇ!!」



 スカイクォーツの言い分が本当ならば、この世界の治癒術か医療は、分断された神経まで正確に治療出来るという事になる。碌に蒸気機関さえ持ってない文明レベルなのにそこまでの治療が可能とかマジ頭おかしい。蒸気機関が無いという事は地球で使うような精密な機材や器具すら生産出来ない筈なのに。


 本当に、この異郷は地球と比べてちぐはぐだ。と、紅朗はスカイクォーツの剣を避けながら思う。恐らくは魔術というものが科学の代わりを成しているのだろうが、脊髄……つまりは神経というものがどういうものなのか本当に理解しているのだろうか。理解していないのであれば先達として教えてやらねばなるまい。その体に、みっちりと。筋肉如きではどうにもならない現実というものを叩き込んでやろう。その為のピース(小片)は、既に目を付けてあるのだから。



「理解しているのであれば、その時はまぁ、ご愁傷様、という事で」



 呟きながら、紅朗は狭い路地を活用して向かい合う壁を交互に蹴り、自身を空中高く蹴り上げた。狭い路地裏では剣も碌に振るう事は出来ない。この限定された空間内での剣の軌道は、振り上げか振り下ろしの二択のみ。その上でスカイクォーツの剣、その切っ先が下がっているのであれば、即応動作はたった一つ。



「振り回してみろやデカブツぁあああああああああああ!!」



 上空から、全体重を加算した紅朗の蹴撃。重力加速度と最後の壁蹴りも相俟って、その奇襲がスカイクォーツの身に突き刺さるのに必要な時間はコンマ秒単位だった。並みの武芸者であれば避けきれないだろう速度を伴った襲撃に、しかしスカイクォーツは対応してみせる。流石に剣の振り上げは間に合わない事を悟ったスカイクォーツが、肉体強化魔術を用いて振り上げたのは、己が拳。その拳を、スカイクォーツは紅朗の足裏目掛け、渾身込めて突き出した。迎撃と、せめてもの反撃に。その脚を打ち砕かんとばかりに。


 だが、その拳が得た感触は、決して骨を砕いた感触では無かった。紅朗の足裏がスカイクォーツの想像以上に強固だったのか緩衝材でも仕込んでいたのかは彼には解らないが、結果から言うのなら、スカイクォーツの迎撃は紅朗を周囲の家屋を見下ろせる程の上空に打ち上げてしまったのだ。それも、隣の家屋と道路を挟んだ向かいの家屋。その屋根までの飛距離を出して。



「しまった!!」



 焦燥を含んだ叫びと同時に走り出したスカイクォーツの向こう側で、紅朗が家屋の屋根にぶつかる。その光景を見ていたソーラは、目の前で繰り広げられた激闘に蒼褪めつつも、スカイクォーツの後ろを追いかけ始めた。


 ・


 ・


 ・


 足裏の衝撃直後、数瞬の浮遊感。打ち上げられた紅朗はそのまま放物線を描いて落ちるかというところで、ガシャン!! と屋根の上を転がった。石造りの家屋の屋根だ。その材質は瓦に近く、粘土を薄く伸ばしてただ焼いただけの陶器に近い。そしてその形状上、屋根は傾斜を描く必要性があるのだが、その傾斜は余り角度が付いておらず、なだらかだった。


 屋根に背中を強かに打ち付けた紅朗だが、その緩やかな傾斜に功を奏し、左腕の痛みと背中の新しい痛みをこらえながら全身を屋根に密着させるようにして滑落を防ぐ。と同時に、「マジかよ……」と呟いた。流石に自分を二階建ての屋根に打ち上げる程の威力をスカイクォーツが有しているとは思ってもいなかったのだ。


 幸いにしてこの町の屋根は全てが緩やかな傾斜を描いている。角度を付けていないのはきっと、ここいらの地域には雪が然程積もらないのだろう。その事に誰に思う訳でも無く感謝しつつ、紅朗は屋根から身を乗り出して眼下を伺った。直後、反転。緩やかな傾斜を疾走する。その背後に、恐るべき脚力で屋根まで飛んできたスカイクォーツが、剣を大上段に構えていたからだ。



「マジ、かよッ!!」



 直感に任せて飛び退けた紅朗の背後を、刹那の隙間も無くスカイクォーツの剣が振り下ろされる。ズガァッ!! と一般町民家の屋根が一部、叩き潰され砕かれた。



「テメェ!! 他人様の迷惑ってもんをちったぁ考えろ!!」


「貴様がそれを言うか!!」



 屋根の上を転がって躱した紅朗へ向けて、スカイクォーツは再度の振り下ろしの為に剣を振り上げた。転がる相手への有効打を狙うにはそれしか無い。そしてその一手は軌道こそ読めるものの、避けるも防ぐも難しい最善の手とも言えるだろう。横たわった状態で全体重を掛けた渾身の振り下ろしを防ぐには困難を極め、避けるにしたって横に転がるしか無いのだから。当然スカイクォーツもそれは熟知しており、紅朗が避けようと横に転がった際に剣の軌道修正を図る事など造作も無い。


 故に、それこそが最善の手であった。


 紅朗に出来るのは足掻く事のみ。精々が壊れた血塗れの左腕を無造作に振るい、己が血液をスカイクォーツの顔面に飛ばして目晦ましをする事ぐらいだ。紅朗の血液は紅朗の望み通りスカイクォーツの顔面を襲い、その視界を幾分か奪う事には成功した。しかしそれで止まれる程、スカイクォーツは柔な鍛え方はしていない。


 赤黒く染まった歪んだ視界のまま、スカイクォーツは微塵も躊躇する事無く、音と記憶を頼りに剣を振り下ろした。そして鳴る、瓦が幾つかと屋根板の砕ける音。避けられたか、と思うまでも無く、スカイクォーツは右の拳を振り回した。


 今まで紅朗が取った行動は、殆どが迎撃。スカイクォーツが受けたダメージはほぼ全て先の後を取られたものだ。その経験を糧にスカイクォーツは右拳を振るい、そして正解を打ち抜いた。右拳から伝わる感触は肉と、骨。その骨が肉の内部で砕ける感触まで伝わってきた。そう、スカイクォーツは見事、少ない経験から肉薄する紅朗を右拳で捉えたのだ。



「――グァ……――!!」



 スカイクォーツの拳が突き刺さるは、左肩と二の腕の間。咄嗟にガードしてその場所で受け止めた紅朗だったが、スカイクォーツの拳は紅朗のガードを破壊。更には立っている足場も悪く、留まる事も出来ず紅朗は吹き飛ばされてしまった。


 その威力は先程同様、家屋と家屋の間に横たわる道路を再び越えさせ、あまつさえ家屋の壁を突き破らせた。



「む、いかん。またしてもやってしまった」



 ドガシャァアアアン!! と。けたたましい破壊音と共に呟いたスカイクォーツ。しかし紅朗が壁を突き破ってしまったのも仕方ない事なのかもしれない。ロレインカムの街並みにある家屋は基本的には石造りだが、極一部に木造建築だって存在する。当然、その壁の強度は石よりも脆い。


 スカイクォーツの拳がそれほどの威力を孕み、紅朗の吹き飛ぶ速度が壁を突き破る程だったという事も無い訳では無い。だが壁を突き破ってしまった一番の原因は、他の石造家屋よりも脆い木造建築物だったから、という事になるだろう。


 淡い緑を基調とした木造建築物。二階部分に開いた真新しい大穴が痛々しく思える程の、小奇麗な家屋だ。数瞬前まではその外装と同じ印象を抱いていただろう屋内は残念ながら木っ端と木片が散乱し、その真ん中で紅朗は横たわっていた。


 激突の衝撃に視界を点滅させながら、左腕が完全に逝かれた事を紅朗は自覚する。肘から先は穴が開いて皮膚が捲れて肉が抉れて血に塗れ、肘から上は骨を砕かれてぶっくり膨れている。開放骨折はしていないものの、肉の中で折れた骨が暴れたのか、血色が悪くなって白くなった肌と重度の内出血による黒に近い紫色の肌が、斑に模様を描いていた。こりゃ完全にアウトだわ。と、紅朗が自嘲気味に漏らすのも仕方無い。


 だがそこに、諦観は無かった。武器を一つお釈迦にし、付随する激痛を耐え続けなければならない現状。スカイクォーツという強敵を相手にこれほどの痛手は無いだろう現実に、しかし紅朗はまるで諦めを覚えない。ともすれば、その胸中にあるのは安堵に近いものだった。


 なにせ彼は、ようやっと辿り着いたのだから。最後のピース(小片)に。


 そう。ここに吹き飛ばされたのは決して偶然などでは無い。スカイクォーツに殴り飛ばされたのも、激闘の最中動き続けたのも、紅朗は意図的にそう動いていたのだ。そうなるように動き、そうなるように攻撃を食らっていた。決してスカイクォーツに悟られぬよう、慎重に。その結果、痛手を受けようが深手を負おうが、問題は無い。この場所こそが、勝利への活路を拓くのだと紅朗は確信しているのだから。


 視線を脇に流せば、木っ端と木片の向こう側に蹲る一人の少女を紅朗は見付ける。彼女こそ、紅朗が求める最後のピース(小片)だ。


 背中の中程までに伸ばされた色素の薄い金髪を緩やかに下ろし、その髪の下で驚愕と恐慌により大きく見開かれた瞳はアメシストのような紫色。瞳の横、側頭部から突出した長い耳。そして何より、抱えた膝も腕も、耳も顔も、雪花石膏(アラバスター)のように白い肌。全体的に色素の薄い少女こそが。



「――よぅ……」



 無残に散らばる木片の中で、紅朗とアルテリアの忌み子は再会する。紅朗の開けた大穴から少し離れた場所には、セイムダート奴隷商館と書かれている看板が掲げられていた。





誤字脱字や感想等がありましたら、どうぞご一報をお願い申し上げます。

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