ゴブリンという種族
すいません。寝落ちしてしまい投稿が遅れてしまいました。
「で、なによ。話だけなら聞いてやる」
どっかりと胡坐を掻いて地面に座る紅朗。その対面でゴブーリと名乗るゴブリンも同様に足を崩して座っている。場所はヒョウモンゼブラの死臭が鬱陶しいので、草原なれども先程とは異なる場所。紅朗の後ろには狐兎族姉妹。ゴブーリはゴブリン四体を背負っての会合となった。
因みに、ゴブリン側から見てもヒョウモンゼブラの肉は価値にしても味にしても美味しくないようで、死骸はそのまま捨て置きだ。余りにもな酷評をされた物言わぬ遺体に、紅朗が少しだけ同情の念を抱いた事は秘密である。
それはさておき、ゴブーリの話。
「実は拙僧らは、とある高貴な御方をさる場所にまで護衛する任務に就いていた。だが道中、さる御方は行方知れずとなり、それだけならばまだしも、我ら第17小隊を含めた部隊は正体不明の襲撃を受け、身共らは散り散りとなってしまわれたのだ。それでも某ら第17小隊はなんとか五人全員集まる事は出来たが、さる御方や他の隊員らと離れてしまった事は最早覆しようの無い事実。速やかに本隊への合流を図りつつ、さる御方を捜索している所、件の魔物に追い回された次第。それより先は、強き者よ。貴殿の知る所と御座候えば」
「取り敢えずお前まず一人称をちゃんと決めろ」
「申し訳無い皆の者……っ。吾輩の力量が足りぬばかりに……っ、部隊から逸れるばかりかっ! 高貴な御方を見失ってしまうとはッ!! なんっったる不覚!! 許されるのであれば今直ぐにでもこの腹を切り開いてくれようものだが、今ここで安易な死を選ぶのは只の逃げッ!! 生き恥を掻いてでも小生はあの御方を見つけ出し、時至らば座して切腹仕ろうぞッッ!!」
「あ、ダメだコイツ。人の話聞かないタイプだわ」
拙僧だの我だの身共だの某だの吾輩だの小生だのと。一人称をふわっふわふわっふわ浮雲のように変化させながら、ゴブーリはやがて感を極めて泣き出してしまった。それが後ろのゴブリン達にも伝わったのだろう。ゴブーリの涙は後続のゴブリン達に伝染し、ゴブーリを慰めんばかりに囲んで背を叩き出した。ゴブーリ以外のゴブリンの口からは、ゲギャゲギャと擦過音にも似た奇妙な音しか出ていなかったが。
正直に鬱陶しいわぁと思いながら紅朗が後ろを振り向くと、紅朗の後方に鎮座する狐兎族姉妹は涙を流すゴブリン達を見て怪訝な表情を浮かべつつ、ひそひそと内緒話をしている。
どうやら、この場をどうにかしようと思っているのは紅朗のみらしい。盛大に溜息を吐いた紅朗は、どうすれば円滑に話が進むか一つ考え、左手を後方へ向ける。
「テーラ、剣」
振り向きもせず左後方に座るテーラに一言告げれば、彼女は紅朗の意図を察したのか、自らの腰に差した剣を抜き、その柄を紅朗の手の平に乗せた。そのまま剣を握った紅朗はその左手を大きく振りかぶり、振り落ろす。振るわれた刃は当たり前のように、ズン……! と、力強い振動と共にゴブーリの足元すれすれに深く沈んだ。
ぴたりと涙を止めるゴブリン達。紅朗の背後からもひそひそ話が鳴り止む。
「感極まるのは良いんだけどさ、こっちもそんなに暇じゃないんだよね。言いたい事があるならはよ言え」
その台詞は、刃を振るったにしては特に覇気を感じられず、それに見合うように紅朗の表情も特に強い感情は見られない。強いて言うのであれば眼の開き具合とか体の弛緩具合とかを見て、怠そうだなと思えなくも無い状態だった。きっと刃さえ振られなければ、日常の一幕として記憶の底に埋没していくだろう。それぐらいに一般的な抑揚で喋られた。
故にそれだけで充分だった。ゴブリン達は即座に理解する。きっと目の前に座る男は、今見せたような仕草で、さながら日常のように、実に呆気なくあっけらかんと自分達を斬り捨てる。斬り捨てて、一昨日食べた物のような気楽さで忘れてしまえる人物だ。足先から数cm離れた大地に減り込む凶刃は、ともすれば今直ぐにでも何の脈絡も無く、自分達に降りかかりかねない。思わず想像した己の末路にぞくりと背筋を凍らせたゴブーリは、焦りながらも急いで居住まいを正す。
「も、申し訳無い強き者よ。己の不甲斐無さ故につい……。見苦しい姿をお見せした」
「良いから。そんで頼み事ってのは?」
「……。余り、多くを語る事が出来ぬのだが……」
口をもごもごさせながら、ゴブーリは言葉を紡ぐ。何かを思案するかのように。何かを言い憚るかのように。30秒程逡巡して――紅朗がイライラし始めて膝を揺すり始めた頃になって、ようやくゴブーリは口を開いた。
「貴殿らの腕を見込んで頼みがある。どうか、わっしらが護衛仕っていた高貴なる御方の捜索に手を貸して頂きたく」
ゴブーリの口から告げられた依頼に、だろうな、と思う反面、成程、とも紅朗は思った。ゴブーリの態度から察するに、彼はその高貴なる御方ってのに随分と「お熱」だ。それは彼が護衛という仕事を完遂させたい生真面目な性格から来ているのか、はたまた高貴なる御方に心酔しているのかは定かではない。だがその高貴なる御方を第一に考えている事だけは確かなようだ。
そしてそれの手助けを願うという事は、自らの力量では仕事を完遂出来なかった事を認めるしかなくなるのだ。それを自ら口にするのは、屈辱にも似た思いがあるだろう。だから故にゴブーリは口籠っていたのだった。
それだけの思いで口に出したものだ。男の矜持に掛けて、最早ゴブーリは後に退けない。対面する紅朗は、ゴブーリのそんな思いを含んだ眼差しを一身に受けて、溜息を吐いた。
紅朗も男だ。種族は違えど、男の矜持はなんとなく解ってしまう。解ってしまうからこそ溜息を吐いたのだ。ゴブーリの思いを受けて、前向きに成りつつある自分を自覚してしまったのだから。面倒事に関わりたくは無いんだけどなぁと思いつつ、紅朗はゴブーリの依頼を受諾するにせよ拒否するにせよ、まずは情報収集をしようと問いかける。
「その、高貴なる御方ってのの名前は?」
「言えぬ」
しかし返ってきたのは素っ気ない一言だけ。
「……。今なんて?」
「済まぬ。高貴なる御方の名称は秘匿事項に当たる故」
「そ、そうか。まぁ良い。じゃあ外見の特徴は」
「それも言えぬ」
彼にも彼の事情がある、と気を取り直して再度質問を投げかけたが、それの返答も却下されてしまった。紅朗とゴブーリの間にやたら寒々しい風が吹いた。
「……何処に行ったかぐらいは掴んでンだろうな?」
「はっはっは。皆目見当も付いておらん」
「ナメてンのかテメェ!!」
三度目にしてとうとう紅朗がキレた。情報を出し渋るばかりか、なにやら笑って誤魔化そうという態度のゴブーリに苛立つのも無理も無い。体調的な意味でも多少感情がささくれ立っている状態の紅朗だ。その苛立ちは憤怒へと形を変え、今まさに爆発した。
爆発した感情に任せていきり立って腰を上げ、今にも殴りかかんとする紅朗だったが、しかし狐兎族姉妹がその体にしがみ付いて紅朗の勢いを止める。
「ちょっと落ち着けってクロウ!!」
「名前も特徴も居場所も解んねェもん探せとかテメェ頭湧いてンのか!? そんなもんの捜索を余所者に頼んでんじゃねぇよ!!」
「す、済まぬ!! 名も姿も己らゴブリン族の最高機密なのだ!! 場所もそもそも僕らはヒョウモンゼブラに追われて乱雑に走り回ってしまっていた故……」
「言い訳なんざ聞きたくねェんだよォッ!! そんな条件なら話は無しだ! 帰るぞソーラ、テーラ!」
「わ、わいらの依頼を受け候へば、少しばかりは話せるのだ!! どうか、どうか!!」
「知った事か離せ緑ィのッ!!」
狐兎族姉妹だけでなくゴブーリまで紅朗の腰にしがみ付く。彼の心情を考えれば、無理も無い。なにせ任務中に護衛対象を見失い、襲撃を受けて部隊とは散り散りになり、ヒョウモンゼブラに襲われたのだ。任務失敗と命の危機を矢継ぎ早に受け、肉体的にも精神的にも疲弊し切ったその身に、次は自らの無力感を吐露しなければいけなくなった屈辱を思えば、眼前の強者を離したくなくなるのは自然の道理。
幾ら紅朗が自身の自慢である角を掴み、圧し折らんばかりに押し退けようとも、この手は離してなるものかとゴブーリは腕の力を緩めなかった。そして同時に、ゴブーリはその思考をフル回転させて、なんとか紅朗の興味を引けるだろうワードを考える。
たった一言。唯の一単語で良い。そうでも無ければ眼前の強者の勢いは止まらず、このまま立ち去られてしまう。たった一言で彼の勢いを削ぎ、彼の興味を得るものは無いか。そう考えた時、ゴブーリの口は半ば無意識的に一つの単語を口走る。
「――さ、さる御方は……っ、アルテリア様なのだァッ!!」
「知るか誰だソイツ!! 名前だけ解っても意味無ェんだバーカ!!」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
ゴブーリにとっては重大発表にも似た気概で告げた句は、紅朗にとって掠りともしなかった。即座に返された罵倒に思わずゴブーリは驚愕の声を上げてしまう。
「あ、アルテリア様だぞ? アルテリア様なのだぞ!?」
「アルカイダだかナイジェリアだか知らねぇよ! なんだ? そいつぁ世界政府の要人か? それとも皇帝陛下か? あるいは神だろうが仏だろうがどうだっt――「ちょ、ちょっと待ってクロウ!!」――ムグゥッ!」
念を押すように繰り返したゴブーリに向かってガーッ! と吠えようとした紅朗だったが、その背後からソーラが覆いかぶさるように抱き着き、紅朗の口を塞いだ。突然の重圧と重心の変化によろめく紅朗。それでも鍛えてきた実績を持つその体は倒れる事無く、ソーラを背に抱えたまま紅朗はソーラを睨む。
そんな紅朗の顔の脇から乗り出す様に首を突き出したソーラは、ゴブーリに向けて懐疑的な視線を向けて、その疑問を口にした。
「アルテリア、って言ったわよね……今」
「……、そうだ。アルテリア様だ」
「どうして、貴方達ゴブリンが、アルテリアの護衛を……」
脇から注ぎ込まれている紅朗の鋭い視線を無視してソーラは問う。対するゴブーリは、未だ懐疑的な視線を受けながらも、そのソーラの瞳を真っ直ぐ見返して胸を張った。
「人の世で……我々がどう言われているのかは、聞いた事が有る。それを考えれば、其方が狼狽えるのも然もありなん。しかし、わっちらは古よりアルテリア様の護衛を仕ってきたのだ。信じてはもらえんだろうが、その事実は揺らぎもせぬ」
その返答をどう捉えたのか。ソーラは暫し俯き加減のまま黙りこくり、徐に顔を上げる。その顔には未だ色濃く残る猜疑心と、極めて僅かな謝意が垣間見えた。ゴブリンへの疑いは未だ確かな根拠が無い為に拭い切れず、しかしこうして対面して初めて体験するゴブリンの知性的な言動。疑うべきがゴブリンなのか今迄培ってきた常識なのか、という思いが、彼女の中の謝意を表面に覗かせるまで浮かばせたのだろう。
それでも、大多数は疑惑しか無いゴブーリの要望を、ソーラは拒否した。
「……。今は未だ、貴方達の事を信じる事は出来ない。この話は無しにしておくわ」
「左様か」
人の世で自分達がどのような評価を受けているのか、少なからず聞いた事のあるゴブーリは、その言葉を想定していたのかもしれない。少しだけ項垂れたゴブーリだったが、それはほんの一瞬。まるで立ち上がる反動を得る為に下を向いたと言わんばかりに彼は腰を上げ、踵を返した。
だがそれは直ぐに覆される。
「でも、アルテリアの事は私達の方でも探してみる」
そう、ソーラが口にしたのだから。
「ほ、本当であるか!?」
希望を見出したかのように勢い良く振り返るゴブーリ。人と会話した事など今回を含めても片手で足りる程度の経験しかないゴブーリにも解る程、ソーラは真摯に頷いて見せた。その隣では未だ口を塞がれている紅朗がやや面倒臭そうに顔を引きつらせているが、ゴブーリはそんな事にも気付かない程に期待で眼が眩んでいる。世の中には見なくても良いものがあるのだから、そう考えれば今眼が眩んでいる事は彼の幸せに繋がっているのだろう。
「ただ、仮に私達がアルテリアを見付け、アルテリアが貴方達に引き渡される事を受け入れた場合、貴方達への連絡はどうすれば良いのかしら」
「……これを」
この世界に携帯電話等の気軽に連絡出来る文明の利器が存在しない以上、当然ぶち当たるであろう壁を危惧したソーラに差し出されたのは、ゴブーリの手。その手の平に、犬笛にも似た筒状の物が置かれていた。
全体はソーラの小さな手の平にもすっぽりと隠れてしまいそうな程に小さく、そして細い。筒状と言っている以上、中心は当然刳り貫かれており、端の方に小さな切れ込みを設けられている。その形状からして恐らく笛だろうと確信しているソーラ達を肯定したのは、取り出した張本人。
「これを草原でも森でもどこでも良い。町の外で吹いて下されば、2~3日中には必ずその場に我々は現れる」
犬笛と呼ぶべきかゴブリン笛と呼ぶべきか判断の付かないソーラは、ゴブーリの笛を取る事を一瞬だけ躊躇した。それは別に悪感情からくる停滞では無い。彼女特有の知的好奇心が彼女自身の体を縛ったからだ。
吹けば時間を置いて現れるとは言うが、それはどういう事だろうか。しかも必ずときた。魔術による瞬間移動法など確立されていない現在、ゴブーリ達にせよソーラ達にせよ、双方を繋ぐ直線距離が遠く離れていた場合、必ず出てこれる方法は今の所存在しない。勿論、ソーラの常識内ならば、という前提はあるものの、それは紛れもない事実だった。
遠く離れた音を察知する技術も、遠く離れた場所へ即座に移動する技術も、未だ確立されていないのは確かな事実なのだから。
そんな思考がソーラの肉体を縛っていたが、考えても止む無しと結論付けたソーラは、ゴブーリの笛を手に取った。
口約束のみだが、ゴブリンとの契約を交わした事に不安が無い訳でも無い。世間一般的にはゴブリンとは悪の代名詞だ。そんな存在と約定を交わすなど、ギルドへの――人類社会への反抗と見られても致し方無い。下手したら冒険者全てを敵に回す背信行為にまで発展してしまうのかもしれない。
だがそれでも、ソーラは目の前のゴブリンの笛を取った。そこにどんな思いがあるかは解らない。単にメリットデメリットを計算し、より旨味のある方を選んだだけかもしれない。もしかしたら眼前のゴブリンが掲げる眼差しを見て、信じてみたいと思っただけなのかもしれない。
神ならぬ人である紅朗やテーラに、ソーラの思惑は解らない。だがそれでも、彼女がしっかりと頷いたのは間違いない。
「えぇ。解ったわ」
「……かたじけない」
ソーラの瞳に籠る光に、ゴブーリは頭を垂れる。繋がったのだと。無力な自分達では零れ落してしまったアルテリアへの糸が、髪の毛一本より細く頼りないものではあるが、しかし確かに繋がったのだと確信して。
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「――最後に、聞かせて」
紅朗達とゴブリン達。双方の組みがそれぞれに踵を返し、自らのフィールドへ戻ろうとしている時。
不意に、ソーラが振り返って尋ねる。
脆い事この上無く、しかも確約はされていないけれども、約定を交わした間柄。そんな間柄からの問いに応えない訳は無く、ゴブーリは振り返った。
「何をで御座ろうか」
「貴方達は……、他種族の集落を襲い、他種族の雌を使って繁殖すると聞いたのだけれど……、それは本当かしら」
ソーラが問うたのは、ゴブリンに向けられた世の風評、その真贋だった。それになんと答えたら良いものか。ゴブーリは暫し頭を悩ませると、ふと古い言葉が脳裏に過ぎり、彼はその思考を口にする。
「【牙角無しは絵描きに成れず】というのが我らゴブリンに古くから伝わる諺でして。それが我々ゴブリンが持つ共通認識だと思って頂ければ」
何が琴線に触れたのか。時間が経ち、怒りが薄れた紅朗はゴブーリの諺に興味を持ち、続きを促した。
「ほう。その心は」
「【色】が無い故に」
一言のみで返されたそれに、紅朗とゴブーリは暫く目を見合わせ、やがて意味を理解した紅朗は弾けたように笑いだす。
「っははははははは! 成程、そういう事か」
「御理解頂けたようで」
二人の間のみで完結された会話。古くから伝わるゴブリンの諺の何が紅朗を笑わせているのか、そしてソーラの質問にどう繋がるのかを、傍から聞いていたテーラには察する事が出来なかった。時折振り返ってはニヤニヤする紅朗の視線も含めて、首を傾げるばかりである。
しかし事はそんなに難しくは無い。今迄碌に学へ触れていなかったテーラが知らないだけなのだ。【色】と言う単語が【カラー】という意味以外にも、男と女のアレやソレをも意味するという事を。
つまりゴブーリの台詞を要約すれば、「ゴブリンの共通認識の一つとして、牙も角も無いなんて女じゃねぇ。抱いて欲しけりゃ色気を出せやオッラァン」的な感じに仕上がるのだった。それを踏まえれば紅朗の視線の意味もなんとなく察する事が出来るだろう。「女の敵とか宣言したのに女として見られてなかったとか。今どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」と言わんばかりの視線を。
そして狐兎族姉妹の頭脳担当であるソーラは、残念な事にゴブリンの告げた諺の意味を理解してしまう。同時に、紅朗の視線の意味にも。びしりとソーラの額に青筋走る。
「「あっはっはっは」」
「どうしようかしら、凄く腹立たしいわ。あら、あんな所に射殺しても罪に問われなさそうな魔物が二体……」
「落ち着いてソーラ!! ゴブリンは兎も角、クロウは魔物じゃない!!」
「離してテーラ。これは女の尊厳を賭けた正当防衛なのよ」
「どう考えても過剰だよ!?」
「大丈夫よ、先端だけだから。先端を少し頭に入れるだけだから」
「過剰どころの騒ぎじゃないよ!!」
「「わぁっはっはっはっはっは!」」
笑い合う人とゴブリン。その後方で妹を羽交い締める姉。騒然とした現状に、人語を介さないゴブリン達はなんの解決策も見出せず、明確に動く事も出来ずにただオロオロするだけしかなく――
――結局、その騒ぎが収束を見せ始めたのは、実に一時間程経過した後の事であったのは余談である。
・ゴブリン
魔物の一種。背丈は1mに満たないぐらいで、緑の肌。そして牙と角が生えていたら大体それ。徒党を組んで穴倉に住み、周囲の集落を襲っては食料や女性を攫って行く山賊紛いの生き物。基本的に雄しか居らず、他種族の女性を使って繁殖を行う醜悪な生態を持つ。
だが、実は違うらしい……。




