紅朗、世界を識り始める。一日目その3
実を言うと、ここでガルゲルが再登場する予定はありませんでした。彼は完全にサブどころかモブキャラで、名前も適当に決めた一発限りのキャラクターだったのですが、ここで再度日の目を見るとは。我が事ながらちょっとびっくりです。
ガルゲルは熊腕族の冒険者。その名の通り、熊のような腕を持ち、その腕に見合った巨躯を持っている。そんな彼が手にしている得物は、木製の斧だった。戦斧、あるいは大斧とも言える、長さ2m近い巨大な斧。
見た目通りのパワーファイターが、圧倒的な破壊力のある武器を持っている。それだけでも威圧感は相当なものだが、それ以上に恐るべき事があった。腕力もさる事ながら、ガルゲルは意外と素早いのだ。
「ぅおりゃあっ!!」
腹から捻り出したかのような掛け声と共に、ガルゲルはテーラに飛び掛かり、大上段から斧を振り落とす。木製であるが故に刃こそ無いが、当たればそれだけで骨折は免れない。ガルゲルの斧は、それ程の威力を孕んでいた。
そんなガルゲルの斧を、右に飛んで危なげなく躱したテーラ。だがガルゲルは斧の先が訓練場の床を破壊する直前で止め、斧の横っ腹でテーラの上半身を痛打する。
「……マジか。とんでもねぇ馬鹿力だな」
流石はCランカー、と。紅朗が思わず唸る程、その膂力は凄まじい。
幾ら木製とは言え、2mもの長さを持った武器は、それだけでとんでもない重量を誇る。ましてや槍とは違い、刃にあたる部分の面積は他の追随を許さない。紙の部分まで木で出来た大きな団扇を想像してみれば解りやすいだろう。紅朗では両手で持つ事は出来るものの、十分に扱う事は適わない。出来て無理矢理振り回すぐらいが関の山だ。
しかもガルゲルが取った挙動は、その動作に慣れた者こそが出来る反応速度だった。つまりガルゲルは、木よりも重い金属類、あるいは石材で出来た重量のものを、普段から日常的に、今目の前でやったように動かしている事になる。紅朗が唸るのも無理も無い。
そんな紅朗を尻目に、痛打を食らったテーラはガルゲルから3m程離れて着地する。目に見えた怪我こそ無いものの、咄嗟にガードした左半身では、打撲による小さな疼痛が彼女の意識を苛んでいた。が、それで意識をガルゲルから逸らす事は出来ない。なにせテーラとガルゲルの間は約3m。ガルゲルからは一挙動で届く範囲なのだから。
「まだまだぁっ!!」
ガルゲルもそれを理解しているのだろう。休む事無く攻撃を繰り返す。柄の一番端、石突を握った右手を精一杯伸ばし、大斧を横振り。
始めの突進では面食らったガルゲルの速度だったが、テーラは一度受けてみて覚えたのだろう。ガルゲルの大振りを、身を沈める事で躱し、その反動を利用して一気にガルゲルへ肉薄する。そして木剣を横一閃。ガルゲルの右肩に直撃した。
だが、浅い。
「軽いんだよぉっ!!」
ガルゲルの圧倒的な筋肉量はテーラの木剣をいとも容易く弾き、そのまま攻勢へ出る。斧を掴んでいない方の左拳を振るい、テーラはなんとか躱したものの、またも距離を取ってしまった。
それら一連の流れを見て、紅朗は成程、と頷く。やはり彼らを動かしているのは筋肉だ。テーラが起こした、しゃがんだ反動でのダッシュ。力を込めて膨らむガルゲルの肩。それ以外にも、至る所に筋肉でなければ説明のつかない行動が垣間見える。力を込めるという一拍の間。踏ん張る際に見せる一瞬の制止。彼らが筋肉で肉体を動かしているのは、明白だろう。
だが、しかし……。
(――こりゃあやっぱ、人間じゃあ無ぇなぁ)
眼前の試合を見て、紅朗はそう判断せざるを得ない。その最たるは、ガルゲルの動きだろう。先にも説明した、長い得物の取り扱い方が人間の筋肉では不可能に近い。不可能であるとまでは断言しないものの、そういった扱いを可能とする人間など、ほんの一握りしか居ないだろう。横綱の足腰とボディビルダーの上半身、加えて重量級ボクサーの格闘センスを併せ持たなければ出来ない動き。そう思わせる程の膂力をガルゲルは駆使しているのだ。正しく、熊の筋量をもってのみ可能とする動きと言えよう。
それに対するテーラも、人のソレでは無い。瞬発力が段違いだ。溢れんばかりの筋肉を持って猛威を振るう、その一瞬の隙を塗って肉薄出来る事は、そう容易い事では無い。例えるのなら世界ランクの短距離走選手、そのスタートダッシュに似たものを紅朗は感じた。あるいは猫や犬などの走り出しだ。更に言えば、それ程の武器を持って、ようやくDランカー。
両者もって、正しく獣の筋肉を持っている。紅朗はそう確信を深めた。紅朗がアマレロ相手に勝てたのは、動作の効率化という人間の叡智を持っていたからだろう。それが無ければ、自身はきっとアマレロに勝てなかった。それだけならまだしも、もしかしたらこの世界で最弱の生き物だったのかもしれない。恐ろし過ぎる自身の想像に、自然と紅朗の体は身震いした。
その震えを何と見たか。
「どう見る、クロウ」
いつの間にか隣に立っていたガンターが声をかけてきた。どう見る、とは、恐らくは目の前の試合を差しているのだろう。どちらが勝つか、どちらが負けるかの予想。現状ではテーラの動きにガルゲルが翻弄されているようにも見えるが……
「十中八九、テーラが負けるな」
翻弄されている様はきっとブラフだ、と紅朗は見る。ガルゲルの大振りは、テーラにしてみれば殆どが一撃必殺。彼女は全身を使って躱すしか無いが、ガルゲルは一手当たれば良いだけ。であれば、テーラを動き回らせて体力を消耗させた方が勝率は高い。
大斧を振り回して間合いを維持し、あわよくばの一発を期待する。当たっても当たらなくても構わない。どうせその内、テーラの体力が尽きて当てられるようになるのだから。
というのが、ガルゲルの考えだろう。そしてそれは正解だ。とても失敗率の少ない、堅実な戦い方だ。
「酷いヤツだな。テーラはパーティーメンバーだろう?」
「だからなんだ。勝負事に仲間意識は関係無い」
ガンターの方を見ず、テーラとガルゲルの闘いをじっと見つめながら紅朗は否定する。
「思えばその分強くなるというのは幻想だ。思ったところでどうにもならない事など、この世にはごまんとある。そしてそのどうにもならないものの筆頭が、経験だ」
テーラの剣をガルゲルは耐え、ガルゲルの斧をテーラは避け。しかし斧に隠された蹴りを避ける事は適わず、彼女は腹部に強烈な一撃を貰った。肉を打つ鈍い音が響く。ソーラが心配そうに顔を歪め、テーラの荒い吐息が紅朗の耳にまで届いた。
「俺は才能ってヤツは信じてねぇし、種族間の力量差なんて良く分かんねぇ。冒険者ランクのDとCがどれだけ離れてんのかもさっぱりだ。だが、経験則ってヤツを無視出来る程、俺は世の中を軽んじちゃあいねぇ。そういう点で言えば、ガルゲルよりもランクの低いテーラの勝率は、すこぶる低い。外を歩ってたら鳥の糞が頭に落っこちてくる確率の方がまだ高いかもな」
「お前から見て、経験ってのはそれ程大事なものか?」
「殺し合いというスピード勝負においちゃあ、なるべく多くの経験をしていた方が有利だろ」
殺し合いという事で想像が付かなければ、少しランクダウンして喧嘩を想像してみてほしい。喧嘩は、当然の事ながら競技では無い。空手やボクシングなど、決められたルールの上で成り立つものでは無く、なんでもありのぶつかり合いだ。
例えば、拳。頭を狙ってくるか、腹を狙ってくるか、真正面から顔面を狙ってくるか、あるいは下から掬い上げるように顎を狙ってくるか。ルール無用の喧嘩であれば、その拳が何処に向かってくるか解らない。ましてや攻撃方法など拳だけでなく、蹴りが来るかもしれない。拳かと思えば掴まれるのかもしれない。攻撃手段は無数に存在するのだ。
そしてそれらを判断する時間は、当たり前のように短い。相手が構えて、攻撃を繰り出し、自らの体に当たるまでの間だけしか許されていない。その時間は一秒にも満ちておらず、咄嗟の判断が自らの勝率を大きく左右させる。
つまりは、その一瞬一瞬の判断に勝利の鍵が埋まっているのだ。そしてその一瞬一瞬を掴み取りやすく、また取り逃がしにくくする方法など、経験則しか無い。紅朗が言っているのは、そういう事だった。
「どれだけ経験を積もうとも、一瞬を掴めなければ負けるだろう? そんな奇跡を起こすのが才能というヤツじゃないのか?」
「それは負けた奴がテメェを慰める為に使う、耳障りの良い言い訳だ。経験を経て結果と成るのが全て。奇跡なんざこの世に無い。物事は起こるべくして起こるし、帰結は成るべくして成るもんだ。テメェが他人より劣っている事実を認めたくないだけに、才能なんて幻想に縋ってんじゃねぇ」
「……耳が痛ぇな」
例えば、喧嘩で負ける。試合で負ける。一つの物事を勝敗によって分別した場合、勝てずに負ける者は溢れる程出てくるだろう。それが世の常だと言わんばかりに、それが常識だと言わんばかりに経験するだろう。
それら負けた要因を、才能という一つの単語に背負わせるだけ背負わせて、自分には才能が無いから負けたと捉える。それで敵から、あるいは競技から逃げる行為を紅朗は非難しない。逃げたければ逃げれば良い。それはそれで自身が選んだ道だ。誰かが否定、あるいは肯定出来るような話では無い。他人は自分の人生を歩けない。親も友も師も、愛する人さえ関係無い。自分の人生を歩けるのは、他ならぬ自分だけなのだから。
ただ紅朗は、才能の有無で勝敗が決まったと判断するのは間違っていると確信している。この世に才能というものなど存在しないと断言する紅朗にとって、勝敗が決まる最大の要因は、今までの経験を万全に活かせたかどうかだと思っているからだ。
故に紅朗はテーラを注視する。今回、きっと彼女は負けるだろう。今迄の動きを観察した結果、どう足掻いても彼女の経験値ではガルゲルには勝てないだろう。しかしそれは才能の差で負けた訳じゃない。肉体性能の差で負けた訳じゃない。
彼女は、経験という手数の差で負けるのだ。
ガルゲルの大上段から振るわれる斧を一歩下がって躱し、斧が下がりきった所でテーラは己の体を前へと蹴り出す。彼女の種族特性からくる瞬発力を活かした肉薄は見事に成功し、テーラはガルゲルの懐へ潜り込んだ。その状態で剣を横一閃するも、しかしガルゲルは斧の柄でテーラの剣を受け止め、驚異的な腕力を持ってテーラを剣ごと弾く。
「――うわっ、とと……」
弾かれた衝撃は余程のものだったのだろう。テーラは体を後退させ、またも距離を開けられてしまう。その距離を今度はガルゲルが、弾いた勢いをそのままに突撃。下がった斧を握り直し、下段からかち上げるように斧を振るう。
その斧を、左に避けるテーラ。恐らくはカウンターでも狙っていたのだろうが、ガルゲルの攻撃はそれで終わりでは無かった。
「……っ、ぉらああああっ!!」
ドガン! と、ガルゲルが斧の横っ面を殴る。殴りつけた箇所はテーラの反対側。斧の推進方向は無理矢理軌道修正され、ガルゲルの腕力をそのまま乗せた斧はテーラにぶち当たる。
「っきゃあ!!」
短い悲鳴。テーラが訓練場の床に倒れる音。その隙を逃さなかったガルゲルは、すかさず斧の切っ先をテーラの首元に据えた。
「――俺の、勝ちだな……」
互いの武器をぶつけ合わせた幾合もの打ち合いは、相応の消耗をガルゲルに強いたのだろう。肩で息しながらガルゲルは告げる。
「……まいった。あたしの負けだ」
対して、大の字に仰向けで倒れたテーラは、深い溜息と共に己の負けを認めた。やはりCランカーは伊達じゃない。簡単には乗り越えられない。そう己に刻みながら。
こうして、訓練場の一角で起きた模擬試合は終わりを迎えた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「テーラ、大丈夫? 怪我は無い?」
急いで姉へと駆け寄ったソーラは、テーラの背中に手を回し、優しく上体を起こさせる。それに手を振って問題無いと告げるテーラ。あるとしたら打ち身ぐらいのものだろう。それでもソーラへの心配を絶やさないテーラは、僅かばかりに発生した青痣に治癒術をかけ始めた。傍から見ている紅朗からでも解る程、みるみる内に内出血の痕は消えていく。
そういえば、と紅朗はふと思う。筋肉痛にも治癒術は効くのだろうか。効いたとして、超回復は発生するのだろうか。筋肉の消耗時に生じる、回復のリバウンド効果。それによって筋肉が増える事は実証されているが、果たして治癒術による回復は超回復を起こせるのだろうか。
魔術に関して未だ何一つとして学んでいない紅朗にとって、その思考の答えは出せるものではない。やはり、一度臨床実験するべきなのだろうか、と紅朗は考える。
「お前の言う通りになったな」
そんな紅朗の思考に割って入ったのは、ガンターだった。
「当たり前だろ。だがまぁ今回は、勝つ事が目的じゃない。得るものは得た」
言って、紅朗は振り返り歩を進める。向かう先は博打で買った金を得る為に、賭博の親元へ。
紅朗の言う得たものとは金か、とガンターは思ったが、それは違う。
テーラにとって今回の試合は忸怩たる思いがあるだろう。なんて言ったって勝気な冒険者だ。大衆の面前で負ける事を良しとする程、彼女は大人じゃない。今はソーラの手前、心配かけまいと笑顔を浮かべているが、その内心では悔しい思いで歯噛みしていると思われる。
だが紅朗にとってはそうじゃない。今回の試合は実に良いものであった。見るべきものを身、知るべきを知り、得るべきものを得られたからだ。この世界の住人の肉体構造、種族特性、身体能力に、闘争における体術。そして、テーラの動きと筋肉の伸びしろ。何処をどのように鍛えれば良いか、それが垣間見えた試合だった。取り敢えずテーラには、今まで培ってきた経験の活用法を学んでもらおう。
目的以上に得られた知識を今後どう活かしていこうか。ほくほく気分で賭博の親元から配当金をせしめた紅朗は、視界の端で黙って立ち去ろうとするガルゲルを捉えた。手元には、金貨一枚と銀貨銅貨がじゃらじゃらと入った皮袋。それをどうするかなど、賭けた時から決めていた。
「ガルゲル!!」
手元の皮袋を丸ごと、紅朗はガルゲルに放り投げる。振り返ったガルゲルは急に飛来してきた皮袋を両手で掴み、その感触で中身が硬貨である事を理解した。ずっしりと両手にかかる心地よい重みは、その中身が金貨以上である事を容易に感じさせる。
「これは……」
「今日はありがとな。それは報酬だ。良い夜を」
ガルゲルの狼狽を押しのけるように紅朗は告げた。その行為に何を思ったのかガルゲルは身も思考も硬直させ、その代わりのようにガンターが二人の間に割って入る。
「ちょ、ちょっとまてクロウ! お前、配当金丸ごとって……」
そう狼狽えるガンターの向こう側では、狐兎族の姉妹も揃って目を見開いている姿が見えた。といっても、双子姉妹は紅朗の金銭感覚に触れた事があるから、数秒後には呆れた笑いが返ってきたが。
「俺の都合に付き合ってくれたんだ。対価を払うのは当然だろう?」
それは、常日頃自身の口から出ていた言葉だ。
相手から求められたら、対価を頂く。それは翻って、自身が求めたら対価を差し出すという事だ。紅朗にとって、己が言動通りに動いただけに他ならない。驚かれる事こそが不愉快だ。【自分は対価を払わない男】のように思われているという事の現れなのだから。
「なんだよ。俺はそんなケチなヤツじゃねぇぞ」
「そうよね。貴方、お金に無頓着だものね」
「ついでに道徳にもね」
未だ狼狽えているガンターの後方から聞こえる、いつの間にか近付いていた狐兎族姉妹の声。特に支えられる事無く立っているテーラの様子から、治療も粗方済んだのだろう。といっても、怪我なんぞ内出血だけだったのだが。
そんなパーティーメンバーからの言葉に、やや不満げな紅朗は言葉を返した。
「おいおい、俺をなんだと思ってやがる」
「守銭奴」
「自己中」
「なんだよ、わかってんじゃねぇか」
「一応言っとくが、褒めてないからなお前」
周囲に負けじと騒ぐ彼らを前にして、ガルゲルは手元の皮袋を見詰める。
先日、紅朗に毟り取られた額から言えば、手元の金は半分にも満たないだろう。カウンターの修理費も自分持ちだし、折られた膝の治療費だって払わなければならない身。だがそれは、酒の抜けた状況で考えると、全ては己が酒に呑まれて起こした失態だ。また、相手を見かけだけで判断した自身の拙さが招いた事だ。依頼中に出くわした魔物が、見た目相応の実力を持っていない事などごまんとある。だから金を取られた事は、己の自尊心を無視して言えば、全て自分の過失とも言える。
それに対して紅朗は、こうして誠実に行動した。相手の行動に対価を払うという、誠実な行動を。
確かに、膝を砕いたのはやり過ぎだという声もある。それでも自分が侮辱されれば誰だって相応の態度を取るし、それに伴う責任を負う事だってあるだろう。言うなれば――否。言わずとも、彼は侮辱された側で、ガルゲルは侮辱した側だ。
そんな、禍根も残っていそうな相手に対し、紅朗は誠実な対応をした。恨みつらみを過去へと流し、労働に対価を、しっかりと払ったのだ。
そんな相手に、自分はどうだ。そうガルゲルは自問する。苦手意識を強く持つ事は仕方ない。痛みがトラウマになる事などザラにある。だが、俺は――
「……悪かったな、蹴撃の」
自然と、謝罪の言葉が口を突いた。それでも何処か気恥ずかしくて、あるいは自尊心が邪魔をして。紅朗に背を向けてしまってはいるし、名前も明確には言葉に出来ず冒険者間で最近使われ出した二つ名を言ってしまったけれど、ガルゲルは先日の行いを謝罪した。
「おう」
その言葉を受けて、紅朗は片手で対応した。少な過ぎる返事。雑な応答。なんて気軽に流してくれる、とガルゲルは苦笑を漏らす。苦手意識が薄らぐじゃねぇか、と。
不思議と、心には先刻まで抱いていた悪い感情は無くなっていた。今日は良い酒が呑めそうだ、とガルゲルは今度こそ出口に足を向け――
「――今なんて!?」
紅朗に肩を掴まれて止められた。
柔らかに満たされた胸中に、いやもう普通に帰って酒呑みたいんだが。という至極面倒な気持ちが雪崩れ込んだのは言うまでも無い。
説明回を長いと思われる方もいらっしゃるでしょうが、もう少しだけお付き合いください。
次回の更新は2月5日予定です。