決闘後
冒険者ギルドは正に祭りのように騒乱に沸いていた。彼らはある意味、新たな歴史の証人となったようなものなのだから。
登録して二日目の、なんの実績もない新人冒険者のクロウという男が、ロレインカム防衛騎士団副団長に勝ったのだ。なんの実績も無い、というのはギルド的に言えば当たり前である。
クロウという男は、ボアウルフとコーディス・ワームというBランク相当の生物を二体倒した事実はあれど、ボアウルフはギルドに持ち込んだ訳では無いので証拠不十分だし、コーディス・ワームを持ち込んだのはテーラである。よって、ギルドにおいて彼が倒したとされるのはCランカー冒険者ガルゲルのみだった。しかも討伐対象では無い事は言わないでも解る事だろう。山賊にしたって証拠不十分な現状、彼が冒険者として稼いだ額は0なのだ。
故に、事実を知らない冒険者達は、クロウという新人の男をこう評している。男にしては細い体にも関わらず、騎士団の胸部プレートを容易く貫く程の破壊力を持った男。そんな男が急に現れたのだ。イベント好きな冒険者達にとっては格好のネタだろう。
そいつは、あるいは新たなSランカーになるのではないか。いやいや、そこまでとは言わないまでも、たった二日でBランカー相当の猛者を倒したのだ。きっとどこかで有名になるだろう。
推測が憶測を呼び、憶測が希望に変わる。その時きっと、彼らは周囲に対してこう言うのだ。そいつが最初に打ち立てた伝説を知っているか? と。俺はそれをこの目で見たぞ、と。
クロウという男が有名になった暁には、彼らはきっと語り継ぐ事になるだろう。場末の酒場や新米の冒険者を相手に、いつかきっと今日の出来事を語るだろう。その日を夢見て、彼らは杯をぶつけ合う。新人冒険者と騎士団の争いが終わったのだと思いながら。
さて。そんなネタの渦中に見舞われた紅朗は何をしているのか。
「貴方、本当に魔術を知らないの?」
「知らんよ」
「なぁなぁ、あの最後の蹴りってどんな技だ?」
「普通の全力蹴りだよ」
パーティーメンバーの二人から絡まれてうんざりしていた。
現在、彼らは自分達が拠点としている宿に場所を移し、雑談タイム中である。ギルドの騒乱を嫌った紅朗とソーラは帰宅を選択し、興奮冷めやらぬテーラがまだ飲みたかった事と、ついでに紅朗に聞きたい事があった為に、互いの妥協点を探り合った。結果、宿の飲食スペースに落ち着いたのである。
紅朗の前には果肉を取り除いた果実水。テーラとソーラは酒とつまみが、それぞれの前に置かれている。
「勝負の最中に魔術を使ったという事は?」
「無ぇよ」
「技名とかはあるのか?」
「無ぇよ」
早くも妥協したのを後悔する紅朗。ソーラはソーラで、紅朗の体躯からあの脚力が出た事に対して納得がいかず。テーラはテーラで紅朗の体術を聞き出そうと必死だった。
しかしどんなに聞かれようと紅朗にとって魔術とは未知の技術であり、魔術などという夢技能を地球で過ごした二十二年間において聞き及んだ事はあれど全くもって信じていなかったのだ。そして体術に関してだが、これも正直本当に技名も何も無い。紅朗が教わったのは体の動かし方だけであり、技を教わった覚えも無ければ技名を伝えられた記憶も無い。基本こそが奥義なり、と言わんばかりに叩き込まれただけである。
はっきり言って、紅朗が狐兎族の双子に答えれる事など何も無かった。そんな紅朗の内情を知らない姉妹は、テンポ良く交互に左右から似通った声で疑問を投げかける。正直、鬱陶しいとさえ思っていた。
「つーかマジ鬱陶しいんだけど」
思った事は割と直ぐ口に出す紅朗だった。だが彼女達はめげる事無く追撃する。
「そう? それはごめんなさい。でもね、最後の攻撃に関しては腑に落ちないのよ」
「そうそう。アレは凄かったなー」
ソーラの言い分に賛同するテーラ。彼女曰く、騎士のプレートも鎖帷子も纏めて破壊出来る攻撃が、紅朗の体躯で出せた事に疑問を覚えているらしい。故に仮定として、自分が知らない間に魔術を行使した可能性を唱えたようだ。
確かに、一般的には鉄を生身で破壊する事は不可能に近いだろう。しかしそれを可能にするのが武術という人の悪意である。
「それはお前らの動き方が雑だからだろ」
溜息を吐きながら紅朗は答える。そもそも武術とは、敵を倒す為に考案されたものだ。この敵という概念の中には当然、他人……つまりは人間も含まれる。武術が生まれ始めた初期の頃は防具も何も無い時代だったので、適当に殴りつけるなり蹴りつけるなりすれば良かったのだが、防具が生まれ始めてから武術の在り方は変わり始めた。
武器、あるいは防具破壊技が練られ始めたのだ。
防具という人の智慧によって堅硬になった命。それを容易く奪う為に、人は武器という更なる人の智慧を手にした。刀を、槍を、斧を、弓を。それぞれの流派は、素手で打ち倒す事を早々に諦め、簡単に手に入る更なる破壊力を求めた。
だが、どの世にも歴史に反する者はいる。世の流れに逆らい、武器という安易な逃げを選択せず、素手で防具を貫く技術を磨く者達がいた。あるいは武器を手に取りながら素手での研鑽も怠らなかった流派があった。試合を重ね、死合いで磨き、戦場を飛び回り、弟子に自らの技術を託す。
その積み重ねの一端に、紅朗は立っている。
どう動けば破壊力が増すのか。どう動けば鉄を蹴り破れるのか。効率化と簡略化と最適化を積み重ねてきた歴史を紅朗は自身の肉体を持って学んできたのだ。
例えば、居合。座した状態で襲われた場合を想定して、後の先を取って人を斬る抜刀術の一つ。言葉だけで言うのであれば簡単に聞こえるが、居合の達人ともなるとその刀の動きは目で追えるものではない。本当の意味での一閃。刀の鈍い煌めきが消えた時になってようやく【刀が振るわれた】と知覚出来る神速の剣術だ。
その居合は正に前述した通り、効率化と簡略化と最適化が示す最たる例の一つだろう。刀を抜く動作、刀を振る動作、刀を納める動作。物凄く簡単に言ってしまえば、この三つの動きを効率化し簡略化し最適化したのが居合だ。だから目で追えない。だから知覚出来ない。だから魔法のように映る。
そして紅朗は、その居合と同じような動作を全身で行使出来るように教え込まれたようなもの。そんな紅朗から見れば、この世界の住人がとる動きは、雑の一言に尽きよう。無駄が有り過ぎる。力が伝えきれていない。ともすれば無意味に地団太を踏んでいるようにさえ見えた。
そして、そんな世界の住人から見れば、紅朗の動きは余りにも最適化過ぎたのだ。力の動きがまるで見えなかった。始まりと終わりしか認識出来なくて、過去と結果がどうにも結び付けられない。まばたきでもして魔術の行使を見逃したのかとさえ思えてしまう。話としてもそちらの方がまだ有り得るので、出来るのならば自分の説を肯定して欲しいとまで思う程に。
そんな認識の違いが、彼らの現状を作り出していた。
「雑って……」
簡潔にきっぱりと言われたソーラは二の句も告げられなかった。冒険者ギルドでは一人前と称されるようになった力量を持つ彼女だ。自らの技量が雑と考えた事など、今まで一度たりとも無かっただろう。
しかし、その余りにもな台詞に不服を持ったテーラは言う。
「じゃあどうやって蹴ったんだよー。それぐらい教えてくれても良いだろー?」
「どうやってって……。えー……と」
例えば、先にも記した居合という技術を例にしよう。腕で刀を抜かず、腰を切る事によって刀を抜き、その圧倒的な速さで後の先どころか先の先をも取れる技術。その技術は、言ってしまえば無駄な動作の一切を削り落とした先にある、神速の技法である。紅朗が繰り出した蹴りは、それと同じ事を足でやっただけだった。言わば蹴りの最適化を成しただけの事。
人の体は良く出来ているようで、実は全くの不完全に近い。動作の一つ一つを最適化しなければ、100%の力など敵に伝わる前に半分以上削られてしまうのだ。筋肉の動きが拙ければ約30%減退し、ばかりか各関節で5%から10%ずつ削られてしまう。そうならない為の最適化を、足にて行使した。
テーラ達にとっては魔術の行使でしか叶えられないと思われる技ではあるが、紅朗にとっては当たり前の技法、当然の動作でしかないのだ。動かし方を理解はしているが、それを言語化する事に手間取ってしまう。
つまりは蹴り方を伝える術を紅朗は持っていなかった。居合などの技術を説明するには骨が折れるし、かといって最初から最後まで伝えた所で教えきれる自信が無い。足指の先で地面をしっかりと握る感じで力を込めて、かかとは地面を蹴るように浮かして、足首はがっちり固定して、かかとで蹴った直後に脹脛を使って膝を伸ばし……等々。微に入り細を穿って説明するのは正直しんどい。更に言えば、こればっかりは体験してみなければ事実の一端に触れる事もままならないものなのだ。
「……頑張った」
絞り出した紅朗の一言に、いったいどれほどの苦悩が込められているのか。
「納得出来るかーー!!!」
テーラ達は知らないので吠えた。
まだそんな深い時間帯では無いし、周囲も居酒屋のような騒がしさを保っているので注意される事は無かったが、店員からの冷たい目線を紅朗は察知する。が、そんな事などテーラにはお構いなしのようだ。
「教えろよー、教えろよー。どうやったら強くなんだよー」
「なんだお前、酔っぱらってんのか?」
今日はいつになく……という程の付き合いも無い紅朗だが、テーラのしつこさは異常なように見える。仕事終わりに上機嫌でばかばか酒を飲んでた事が原因だろうか、と紅朗は思ったが、それはどうやら違うようだ。酒を飲んで顔を赤くしたテーラは、しかし今迄のしつこさから一転、真面目な瞳を紅朗に向けた。
「あんたの強さはさー、あたしの理想なんだ」
拳を硬く握り締めたテーラの言葉。赤ら顔で瞼が幾分落ちているものの、その瞳の力は強かった。恐らくは酔ったからこそ出たテーラの本心と言えるだろう。
「あたしは、ソーラと違って魔術が使えない。生活魔術は使えるけれど、それじゃあ威力が弱くて実戦には向いていないんだ。だから戦い方はいつだって、剣での一点突破しか出来ない。どうしたって魔術を使えるヤツが相手になると防戦一方になって、ソーラに頼むしかなくなってしまうんだ」
テーラの台詞は、確かに合点がいく事だった。地球で言う歩兵対弓兵の事を例にすれば解り易いだろう。歩兵は前に進む事しか出来ない。飛び道具も何も無い。ただ己の足で、気が遠くなる程の長い弓兵との距離を、命懸けで詰めなければならないのだ。
いや、弓というよりも銃かもしれない。例え近付けたとて、魔術という利便性の高い武器は、それ程のアドバンテージを有するのだから。
「だから、アマレロ相手に戦って勝ったあんたは、あたしの理想なんだよ」
テーラはその事実を知っている。魔術師相手に距離を詰める恐ろしさを。離れても近付いても恐ろしい威力を発揮する、魔術を相手に戦う恐怖と、それに勝つ難しさを。故に、彼女はアマレロ戦にて快勝した紅朗に理想を抱いていた。紅朗の持つ強さに、憧れを抱き始めた。
しかし彼女はまだ知らない。その強さがどれだけ危ういものなのか。どれだけ不安定な状況で手にしたものなのかを。紅朗の言葉によって、彼女はそれを知る事になる。
「はっきり言っておくが、俺はお前が期待している程、強い訳じゃない。アマレロとかいうヤツとの闘いだってかなりギリギリだった」
紅朗は、アマレロの剣閃の一つ一つに冷や汗を流した。少しでも気を緩めれば命をもぎ取られる恐怖の中での戦いだった。思い出すだけで恐怖に委縮してしまいそうな程に。
「実際、アイツは強いヤツだよ。本気でぶつかれば八割方、俺が負けていた。筋肉量も反射速度も俺はアイツより下回っている。あのまま行けばジリ貧で負けていたな。首をスパンとぶった斬られてな」
今の時点では、という注釈付きだが、それはまた別の話。
兎にも角にも、紅朗は魔術という一つの武器に対して恐れを抱いた。
前述したように、魔術という武器は明らかなアドバンテージを有している。地球の人類が銃という、驚異的な利便性と殺傷能力を保有する武器を手にしてから武術が衰退したのと同じように、この世界の住人は魔術という武器を取って体術が疎かになったのだろう。そうなってしまうのも無理は無い。魔術は武術を遥かに凌駕出来る程の可能性を秘めているのだから。
紅朗はそれを、今回のアマレロ戦で痛い程、思い知った。早急に魔術という一つの技術を知らなければならないと心に強く刻んだ程だ。
しかしそんな紅朗の思考は、テーラには関係無い話だろう。テーラはこの世界の住人だし、魔術の利便性にだって紅朗よりは深く触れている。だから紅朗は、パーティーメンバーの一人としてテーラに一つ、教える事にした。
「なぁ、強いヤツに勝つにはどうすればいいか、知ってるか?」
テーラと、ついでにソーラが首を横に振る。そんな手法があるのか、というような視線と共に。
「相手が本気を出す前に、相手が本気を出せないように追い込んでから、自分が本気を出す事。今日のアマレロ戦でやった事は、詰まる所、これだけだよ」
相手が50から60%ぐらいの力しか出してない内に、自分が100%の力で上回る事。その見極めさえ出来れば、ある程度の奴には勝てるのだ。
「だから中傷した。だから馬鹿にした。だから、言われたら一番嫌がる事を言った」
騎士の矜持を虚仮にし、不意を打って感情を波立たせ、強者の傲りを嘲笑した。これは全て、紅朗にとっての前準備だった。紅朗自身が本当にそう思っているかどうかは関係無い。本音も虚構も、今回の闘いにおいて言えば、それ自体にはなんの価値も無い。
アマレロの動きを誘導する事。それさえ出来れば良かったのだ。
「そして突進を選びやすいようにしただけなんだ」
だから紅朗は、最後の蹴りを合わせられた。アマレロの初速を体感し、度重なる剣撃を逸らして体力を消費させ、口撃にて感情を逆撫でて視野を狭めさせ、結果紅朗はアマレロの突進に合わせられたのだ。
アマレロ戦で見せた最後の蹴りは、技名こそ無いものの、トドメ特化の動き。駄目押しの技だ。格闘ゲームで言えば技後硬直もあるし、コマンド入力に時間が掛かるようなもの。アマレロの動きを誘導しなければ、あの剣に合わせる事は出来なかっただろう。
「勝つとか負けるとかって、つまりはそういう話なんだ。剣技が優れているから勝つんじゃない。腕力が優れているから、反射神経が、魔術が、武術を修めているから勝てるんじゃない。ルールに則った試合であれば優れている方が勝つんだろうけれども、ルール無用の喧嘩ならば、それはまるで別の話になる」
紅朗のやった事は、試合ならばブーイングの嵐だったろう。卑怯者と罵られ、後ろ指を指されかねない行為だった事は間違いない。しかし紅朗は、それでも構わないと突っぱねる。他人になんと言われようと、最後に立っていた者だけが勝利者なのだ。
だからこそ彼は言う。はっきりと、胸を張って、何恥じる事無く真正面から正々堂々と。
「善も悪も度外視して、勝つ為に質の良い時間を費やした者だけが喧嘩に勝てるんだ。俺はそう思っている」
例えば、狩人は卑怯なのだろうか。罠を使い、犬をけしかけ、猟銃や弓でもって生物を殺す行為を、卑怯だと罵るだろうか。
答えは否だ。断じて否である。獣が所有しない道具で捕らえ、多対一で追い立て、獣が反撃出来ない位置から攻撃する事を、卑怯とは決して呼ばない。呼んで良い筈が無い。何故ならそれが、命を懸けて生きるという行為そのものなのだから。
仮にこれを卑怯と訴える者がいるとするのなら、そうやって命も懸けずに厚顔無恥にも傍から言う傍観者こそが卑怯者と言えるだろう。
獲物が捕らえられたら殺されるのは自明の理ではあるが、では狩人が獲物を逃した場合はどうなるか。簡単だ。狩人は飢えて死ぬ。故に狩人は全身全霊で獲物を狩り、故に獲物は全身全霊で逃げる。そこに傍観者は必要無い。彼らは生きる為に必死なのだから。
だから紅朗は動く。負けは死同然と思い、生きる為に必死に動く。そこに善も悪も無く、ただ我武者羅に動き続けた。今回の話は、突き詰めればそれだけの話だった。
そしてそれは、テーラの心に深く突き刺さった。善も悪も関係無く、ただ質だけを求めた前例が目の前に居るのだ。善行を好善とし、悪行を嫌悪する一般的な感性を持ったテーラにとって、それはきっと青天の霹靂に近い衝撃だっただろう。こと戦闘において、善悪の概念が無いという観点。あるのは質の良し悪しのみ。その考えは、テーラの心を痺れさせた。
「……あたしが強くなる為には、どうすれば良い?」
「簡単だ。腕を足のように強くするか、足を腕のように器用にすれば良い」
つい口を突いて出たテーラの言葉は、実に簡単に回答を返された。
一般的に足の筋力は腕の筋力の三倍とも言われている。そこから単純に考えて、腕の筋力を足と同然なまでに鍛えたら、破壊力の強化という点で確かに強くなれるだろう。
反対に、足を腕並みに器用にしたらどうなるか。腕の使用法の多彩さは言わずもがな。突き、薙ぎ、絡み。体を支えて歩く事を目的とした足と違い、腕は振り回す事に長けている。そんな腕同然に足を動かせるという事は、戦闘における選択肢が一気に増えるという事だ。結果、敵を相手に真正面から奇襲をかける事が可能になる。
紅朗のその説明に、テーラは何を思ったか。何かを決断した眼で紅朗を見た。テーラの猫のような碧眼を向けられた紅朗は、その眼の気迫を受けて少しだけ口角を上げる。まるで、昔の自分のようではないか、と。
「頼みがある」
「言ってみろ」
「あたしを強くしてほしい」
テーラが強く放った言葉は、それこそ紅朗が両親からも世間からも、自分自身でも子供だと思っていた時の台詞。自らが師匠に向けて放った言葉と一字一句違わない台詞だった。
だから紅朗は思わず軽く息を溢して笑い、
「無理だ」
そして決め顔でそう言った。テーラは思わず立ち上がり、叫ぶ。
「なんでだぁああああああ!! 今のは完璧教えてくれる空気だったろうが!!」
「だから俺は教え方なんて知らねぇっつってんだろ!! 感覚だバーカ!!」
「感覚で強くなれんなら世の中全員強者だバーカバーカ!!」
「お客様!! 他のお客様への迷惑になりますので、騒ぐのであればどうか外で!!」
騒ぎ出した二人。周囲からの迷惑そうな視線。ついに来た店員からの注意。ギルドに居ようと何処に居ようと、どの道騒がしくなってしまった現状に、ソーラは店員と周囲に頭を下げつつ、一人内心頭を抱えた。
ソーラが頭を下げた事で、やや非難の視線が収まってきた頃。溜息を吐きつつ座ったソーラは、紅朗に向けて疑問を投げかける。
「因みに紅朗、その師匠から習った武術の流派に名前はある?」
「無い。いつだったか適当に付けたけど、調べたらどっかで使われてた名前だったらしい。格闘技の世界じゃあ流派とかなんとかそういうのが糞面倒臭くて、それも名乗るのを止めたそうだ。確か――」
と、思い出す様に視線を上げた紅朗は、ややあってして記憶から引っ張り出してきた霞みのように不確かなソレを口に出す。
「――【骨法術】、だったか?」
「じゃあそれの鍛錬法教えろ!! それぐらいなら出来るだろ!!」
どうやらテーラは反省していないらしい。またも興奮して叫び出す様に、流石にそろそろ周囲の客とも揉めそうだった。
ソーラが頭を下げた矢先にこれだ。アマレロの時は空気をあえて外した紅朗ではあるものの、徐々に冷えてくるソーラの瞳を受けて空気を読む。
「……。良いけど、じゃあ俺の勉強も手伝えよ?」
「任せとけ!!」
そう言って大仰に胸を張るテーラだが、彼女はさして頭が良いとは言えないように紅朗は認識している。近くにソーラという頼れる頭脳担当がいる事の弊害なのだろうが、その言葉を何処まで信じて良いのやら解らない紅朗はソーラを見るも、彼女はただ頭を振るだけだった。
それが横か縦かは秘密である。
遅くなりましたが更新です。これで一章の半分には来たかな。




