脳筋魔王様の倫理 そのよん
「あー」
「あーー」
「あーーーー」
「あーーーーーー、勉強する気が全く起きんぞぉ……」
鉛筆を持った瞬間、激しい脱力感に襲われ眠くなる。こんなのやってられるか。世界滅ぼしたろかワレェ。
ぐでえと部屋に敷かれた高級カーペットの上でスライムのように溶けていると、雪女のリンネと吸血鬼のエロースがやってきた。
「魔王様、勇者と争っているのでしょう。投げ出すのですか? もう少しだけでもやりましょう。魔王様なら出来ますよ」
「魔王様はよーやったって! ほんまほんま! もうエエやろ! 街に降りてナンパしよや!」
同じ幹部でもこの差である。
「黙れ小童ァッ! 魔王様はこんなところで諦めるようなお方ではない! 口を慎め!」
カッと目を見開いたリンネの背後に激しい吹雪が吹き荒れる。
「年増は黙っ取れェ! 偶には気ぃ抜いた方が魔王様もエエやろが! あんさんアレやろ? 魔王様自身のことはなんも考えてへんやろ」
ん!? リンネなら分かるが、脳内十二割しょうもないエロで埋め尽くされているエロースとは思えない発言が飛び出したぞ!?
いや、まあ……小さかったアイツを拾って育てたし、割と懐かれてる自覚はあったんだが……んー、それにしても意外だな。
「涙を飲み魔王様を律するもの手下の務め!」
「体調及び気力の管理も手下の務めやろ!」
ああー、城が壊れるー!
幹部ふたりが放つ威圧を受けて部屋にヒビが入り始めた。アワアワと扉の向こうで部下達が右往左往していた。
「少し落ち着け、な?」
静かになった。
「ふたりの忠誠心はよーくわかったぞ」
「ハッ!」
「えー、ほんまー? なんか恥ずいわー」
胸に手を当て、頭を下ろすリンネとクネクネした動きをするエロース。横目でエロースを見る目がとんでもない事になってるぞ、リンネ。
落ち着け、ホモ・サピエンスの提唱者兼植物学者。
「……エロース!」
小声でリンネが叫び、ゴスっと肘鉄を食らわせていた。あ、脇腹凍ってる。
偶には勉強のない話も。
息抜きは大切。