脳筋魔王様の倫理 そのに
「では、次はホモ・ルーデンス(遊戯人)とホモ・ファーベル(工作人)について学びましょう」
「第二第三のホモがまとめてやってきおったな。……ずっと気になっていたのだが、ほもとはどういう意味なんだ?」
まさかアレではあるまいな、と戦々恐々としながら魔王はリンネに尋ねた。魔王は勇者からの無駄知識を得すぎているのだ。
「ホモとは古代ギリシャ語で人間を意味するようですよ」
「心底紛らわしい!」
魔王が吠えるとこの世界では金に等しい価値のある窓ガラスが砕け散った。飛び散った硝子は空を飛んでいたドラゴンの髭を散髪しても尚、遠くに飛び続けた。
「……まあいい。とりあえずそのルーデンス(遊戯)とファーベル(工作)だ」
叫んだことで冷静になった魔王は再び椅子に腰を下ろした。
「またスライムを呼びますか?」
「いや……今度は」
魔王は再び魔法陣を呼び出した。その中から出現したのは、突然いなくなったスライムを必死に探していたダブルスライムだった。
ダブルスライムはスライムが横に二つくっ付いているだけの低級モンスターだ。
「ーーダブルスライムだ」
ただ消えた友人を探していただけの、友達思いなダブルスライムは、自分など指先どころか息一つで消しされる災害を前にぷるぷる小刻みに震えていた。
「左のお前、今日からホモ・ルーデンス(遊戯人)な」
「右のお前、今日からホモ・ファーベル(工作人)な」
右の彼にはベーコン、左の彼にはブルーノという何処と無く似た名前を持っていたが、災害様は絶対だ。
彼らは人ではなく列記としたスライムだが、今日からホモ・ルーデンス(遊戯人)とホモ・ファーベル(工作人)になった。
「……ふむ、遊戯人と工作人な……よし、我が稽古をつけてやろう。立派なわ○わくさんの後継者に育て上げてやる」
その言葉を聞いた瞬間、スライム達から文字通り色が消えた。
下請け企業の平社員が、突然大手の社長と関わり合ってしまった時、こんな気分を味わうのだろうか。
「あ、因みにホモ・ルーデンス(遊戯人)の提唱者はボイジンガで、ホモ・ファーベルの提唱者はベルグゾンだそうですよ」
「ふむ……、ならば芸名をそれにしてしまおうか」
ーーボイジンガとベルグゾンの作って!遊ぶ!
主にベルグゾンが作り、ボイジンガはそれを全力で楽しみ遊ぶのだ。どう考えてもベルグゾンの負担が大きい気がするが、人という文字も右の負担が明らかに大きい。世の中そんなものだ。
ベルグゾンとボイジンガ、本名ホモ・ファーベルとホモ・ボイジンガは後に、世にも珍しい芸のできるダブルスライムとして、大手のサーカスでエースを務めたり、さすらいのスライム芸人になったり、時には国王の前で工作芸を披露したりした歴史に名を残すダブルスライムとなった。