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脳筋魔王様の倫理 そのいち

悪逆の限りを尽くしたというよりは強い者を求め続けた結果、世界を支配してしまった魔王と、ある日ふらっと異世界から現れた勇者が激突した。


三日三晩戦い続けた二人は、終わる頃には敵と書いてライバルとも呼べる関係になった。決して仲良しこよしというわけではない。互いを切磋琢磨し合う同等の実力を持ったライバルだ。


彼らは只管戦いに明け暮れた。


猛者を求め続け世界までを支配した魔王は、不思議なまでに満ち足りた日々を過ごした。


その日々が崩れる切っ掛けは無二のライバルと定めた勇者の一言だった。


「俺、お前とのバトル辞めるわ」

「な!何故だ?!」

「いや、だって大学受験迫ってるし」

「ダイガクジュケン、だと……?」

「大学受験真面目にやばくなってきた」

「……ほう、我に勝つよりやばいと? そう言いたいわけだな?」

「そりゃもうやばい。そもそも俺は異世界の平和より、俺の将来の方が大事だから。異世界救っても俺の大学受験はどうにもなんねぇから」


そう言って勇者ライバルは姿を消した。ある日ふらっと世界に現れた勇者は帰るのも一瞬だった。


取り残された魔王は暫し呆然と立ち尽くしていたが、やがて腹の底から笑い始めた。


「……ハ、クハハハハ!!ダイガクジュケン……我がライバルがあれほどまで苦戦するとは興味深い……!」




***


そして『ダイガクジュケン』を受けることが魔王配下全てに知れ渡った頃。

無駄に絢爛豪華な城の最上階に魔王はいた。


「まるで意味がわからんぞ!人間は一体何種類いるのだ!けしからん統一しろ!」


どんな手強い相手だろうと高笑いを崩さなかった魔王が、参考書片手に絶叫していた。手元のノートにはぐちゃぐちゃなミミズ字が苦しみのたうちまわっている。


「……魔王様、以下がなさいましたか?」


音も無く背後に立ったのは、魔王直属の配下六武将の一人、リンネだった。

腰まで伸びた透き通るような青白い髪と真っ白な肌。リンネは勇者の世界で言うところの雪女だった。


「はっ!?あ、ああ、リンネか。……いや、それがだな……ホモ・サピエンスだとかホモ・ホニャララだとか種類が多すぎやしないかと思ってだな……」


参考書に気を向けすぎていたのかリンネの気配に驚く魔王。だが、すぐ取り繕い、参考書を指さした。


「なるほど、倫理ですね。私の得意教科でございます」


そう言ってリンネは薄く笑った。魔王と釣り合いをとるかのように六武将のメンツは何かしらの勉強が得意なのだ。……まあ、若干例外もいるが。


「ホモ・サピエンス(英知人)は有名ですよね?」


「流石にホモ・サピエンスぐらいは分かるぞ。勇者が言ってたからな。今の人間は皆ホモ・サピエンスらしいから……そうだな、『スライム召喚』!」


世界で最も数が多い魔物とされるスライムが魔王が創り出した魔法陣からぽんっと出現する。彼は東の村をふらふらとさ迷っていたただのスライムだ。

スライムは突然現れた社長マオウに怯え、ぷるぷる震えている。


「お前、今日からホモ・サピエンスな」


彼にはゴルバチョフという立派な名前があったが、社長命令は絶対である。今日からゴルバチョフはホモ・サピエンスになった。


「魔王様、サピエンスには知恵という意味があるそうですよ」


「……知恵、か。ちょっと待ってろ。確か頭が良くなる実がいくつか残ってた筈だ……我には何故か効果は無かったが……」


がさごそと異空間に腕を突っ込み、中身をかき回す魔王。腕に触れるものを引っこ抜くとそこには赤い熟れた果実があった。

それをスライムの体内に放り込む。放り込まれた果実はじわじわと消化されていった。


「よしよし、これで今日からお前はサピエンス(知恵)だ。その名に恥じぬよう生きるのだぞ」



余談だが、ホモ・サピエンスは後にスライム初の教師となり、引退するまで元気に働き続けたという。

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