プロローグ
北極星を中心に回る星たちの動きが活発になる夏の夜
北極星とは一線を画し
惑うように動く星たちの間から一筋の光が舞い降りた。
源三は、麓の村へ炭を卸しに行き…
母のタエに、今夜は白い飯でも喰わしてやろう。
と、玄米を三合程買い求め家路についていた。
山の中で炭を焼き、麓に行っては僅かな銭を手にして帰る。
糊口を濯ぐ毎日ではあったが
親子仲睦まじく暮らしていた。
源三は日が落ちる前には家に帰りつきたかったのだが…
山入端に沈む夕陽が魅せる一瞬紫色に輝きがまるで手品か魔術の様で…
ついつい足を緩めてしまった。
山の日の入りは早い、秋の日の釣瓶落とし出はないが鬱蒼と繁る樹が微かな夕日の名残を遮る。
次第に足元が覚束ない程に暗闇が迫り来る。
いつもの慣れた道なれど源三は一歩…また一歩家路へ歩を進めた。
山の中ほどにある我が家の光が見えてきた。
母のタエも源三の帰りを首を長くして、待っていることだろう。
入り口の引き戸の隙間から灯りが漏れる。
囲炉裏に火をおこして母が待って居てくれている。
自然と源三の足は速くなった。
初夏の山は未だに日が暮れると肌寒い。
源三は玄関の引き戸の前に立ち…
少し冷たい山の中を駆け抜ける頬をなぶる風を感じながら、おとないを告げた。
『かあさん…今帰ったよ…』
引き戸の向こうで母の立ち上がる気配の後、閂を外す音と共に引き戸が開き
『お帰りなさい』と
満面の笑みで源三を母は迎え入れた。
じっくり書いていくので純愛に浸って下さい。