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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
02 隣国の王子
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歓迎パーティ

 

 輝くシャンデリア。

 真っ白な布の敷かれたいくつもの丸テーブル。

 大理石の床に彩る、カラフルなドレスやタキシード。


 大広間には既に、隣国の王子を歓迎する、小さなパーティが催されていた。


 いつもは王族と他国からの招待客だけで開かれる夕食なのに、その倍以上の人が集まっている。

 僕がそこに足を踏み入れると、晩餐に呼ばれた貴族や家臣は、一斉にこちらを振り向いた。

 そして、僕に会釈したり、こちらを見ながら仲間内で話をし始める。

「王子~!」

 そんなざわめきの中、一つ弾んだ声が僕を呼んだ。

 そちらに目を向けると、人混みの中でミルクティー色のふわふわの髪の少年が手を振っている。

 アルトだ。

「アルトもパーティに呼ばれたの?」

 友達がいてくれて嬉しい。駆け寄ってそう聞くと、アルトはにっこり笑って頷き、

「大臣である父と共に、特別に呼ばれたのです! お客様は多い方が、にぎやかで良いとのことで……」

 なるほど、そういうことだったのか。

「だから周辺に住む貴族たちや、位の高い臣下たちが集まっているんだね」

「はい、そこまで大きなパーティではないそうで、都外の貴族の方は多くはいらしていませんが……でも、ストロンは来てるんですよ、ほら!」

 アルトはそう言って、左手を出す。

「ん?」

「……あれ?」

 彼の手には、青い上着しかなかった。

 アルトは目を丸くして、その豪華な服を凝視し、

「いない! 招待されたのに行かないってぐずるから、引きずり出して連れてきたのに!!」

 なかなかの問題発言をしながら、驚きと困惑の混ざった目で、脱け殻を見つめ続ける。

 それがちょっと面白くて、にやにやしてしまいながら、

「まあ、しょうがないよ……ストロン、パーティとか嫌いだから。今ごろ、庭で夜風に当たってるんじゃないかな?」

「えっ、そうだったのですか? うーん、こんなに美味しいものがあるのに……」

 アルトは残念そうに、テーブルの上に並べられた料理の数々を見つめた。

 料理……。

 …………あっ、唐揚げ!

 ローズの話を急に思いだし、辺りを見渡す。

「そうだった、僕、探さなくちゃ!」

「あっ! アイルス王子のことですね!」

「………………うん」

 違うけどね。

 いや違わないけど。

 主役に挨拶しないで料理に手をつけるとか、無礼にもほどがあるね。

 ごめんねアイルス王子。

 食欲を優先させてごめんね。

 心の中で懺悔を繰返しながら、探しものをアイルス王子に切り替える。

「アイルス王子はどこにいるの?」

「それが、私もたった今来たばかりなので、まだお目にかかれていなくて……どのようなお方なのですか?」

「うーんと……僕より少しだけ年上で、王子様! って感じの人だよ」

 それこそ、おとぎ話のヒーローのような。

「おとぎ話に出てくるような、王子様、ですか……」

 言葉を繰返しながら、アルトは僕を見上げた。

 そのまましばし沈黙してしまったので、どうしたの、と尋ねようとしたとき、

「あの……もしかして、王子の後ろにいらっしゃる方、アイルス様だったりしますか?」

 アルトの言葉にぽかんとしてると、背後から誰かの笑い声がした。

 急いで振り向くと、そこには水色の衣装で身を包んだ、一人の青年が立っていた。

 彼は真っ白な歯を見せながら、僕らに爽やかに微笑み、

「その通り。私がフロスティーヌの第一王子、アイルスです」

 アイルス王子の金色の髪は、シャンデリアの明かりにより、いっそう輝いていた。

「お会いできて光栄です、アイルス王子」

「こちらこそ」

 挨拶をして、握手をする。

 二人の王子の談話に、周りの客人も注目していた。

 それに、アイルス王子はなかなか顔が良いしね。

「シルク殿とは国が隣同士というのに、あまり個人的に話したことがありませんでしたね」

「そうですね。この前のアイルス王子の成人式の際も、挨拶を交わしただけでしたし」

 アイルス王子は僕より二つ年上で、現在十七歳だ。

 その分背も高く、僕が見上げるような形になっている。

「シルク殿、そちらの少年は?」

 アイルス王子の言葉に、後ろに立っていたアルトがそわそわしだす。

 そんな彼を構わず抱き寄せ、

「彼は王立学校での友人で、アルトといいます。そちらにいらっしゃる大臣の一人である、ライトモンド伯爵のご子息です」

 そう言って、アイルス王子の左手側を示してみせる。

 そこにいたライトモンド伯爵は、こちらに気がつき、深くお辞儀をした。

 そして伯爵の隣に、僕の父がいることに気がついた。

「アイルス王子、レインルインの料理はもう召し上がったかね?」

 僕の父――つまり現国王は、こちらに近づきながらそう尋ね、優しげな緑の瞳でこちらを見つめた。

 大きな体に赤いガウンを羽織り、茶色い髪の上には、国王であることを示す王冠がのっている。

「はい、国王陛下。どれも美味しいです」

「唐揚げも美味しいですよ」

 僕の言葉に、父もうんうんと頷く。

 しかし、次には笑みを消して、父は急に真面目な顔になった。

「皆、楽しんでいるところ申し訳ないが……先程シルクに急用ができてしまった。今からパーティを抜けさせなければならない」

「……急用?」

 僕が聞き返し、アイルス王子もアルトも、不思議そうに父を見つめる。

 父は頷き、今までとは変わり、真剣な目で言葉を紡いだ。


「シルクに、魔物を退治してほしいんだ」

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