歓迎パーティ
輝くシャンデリア。
真っ白な布の敷かれたいくつもの丸テーブル。
大理石の床に彩る、カラフルなドレスやタキシード。
大広間には既に、隣国の王子を歓迎する、小さなパーティが催されていた。
いつもは王族と他国からの招待客だけで開かれる夕食なのに、その倍以上の人が集まっている。
僕がそこに足を踏み入れると、晩餐に呼ばれた貴族や家臣は、一斉にこちらを振り向いた。
そして、僕に会釈したり、こちらを見ながら仲間内で話をし始める。
「王子~!」
そんなざわめきの中、一つ弾んだ声が僕を呼んだ。
そちらに目を向けると、人混みの中でミルクティー色のふわふわの髪の少年が手を振っている。
アルトだ。
「アルトもパーティに呼ばれたの?」
友達がいてくれて嬉しい。駆け寄ってそう聞くと、アルトはにっこり笑って頷き、
「大臣である父と共に、特別に呼ばれたのです! お客様は多い方が、にぎやかで良いとのことで……」
なるほど、そういうことだったのか。
「だから周辺に住む貴族たちや、位の高い臣下たちが集まっているんだね」
「はい、そこまで大きなパーティではないそうで、都外の貴族の方は多くはいらしていませんが……でも、ストロンは来てるんですよ、ほら!」
アルトはそう言って、左手を出す。
「ん?」
「……あれ?」
彼の手には、青い上着しかなかった。
アルトは目を丸くして、その豪華な服を凝視し、
「いない! 招待されたのに行かないってぐずるから、引きずり出して連れてきたのに!!」
なかなかの問題発言をしながら、驚きと困惑の混ざった目で、脱け殻を見つめ続ける。
それがちょっと面白くて、にやにやしてしまいながら、
「まあ、しょうがないよ……ストロン、パーティとか嫌いだから。今ごろ、庭で夜風に当たってるんじゃないかな?」
「えっ、そうだったのですか? うーん、こんなに美味しいものがあるのに……」
アルトは残念そうに、テーブルの上に並べられた料理の数々を見つめた。
料理……。
…………あっ、唐揚げ!
ローズの話を急に思いだし、辺りを見渡す。
「そうだった、僕、探さなくちゃ!」
「あっ! アイルス王子のことですね!」
「………………うん」
違うけどね。
いや違わないけど。
主役に挨拶しないで料理に手をつけるとか、無礼にもほどがあるね。
ごめんねアイルス王子。
食欲を優先させてごめんね。
心の中で懺悔を繰返しながら、探しものをアイルス王子に切り替える。
「アイルス王子はどこにいるの?」
「それが、私もたった今来たばかりなので、まだお目にかかれていなくて……どのようなお方なのですか?」
「うーんと……僕より少しだけ年上で、王子様! って感じの人だよ」
それこそ、おとぎ話のヒーローのような。
「おとぎ話に出てくるような、王子様、ですか……」
言葉を繰返しながら、アルトは僕を見上げた。
そのまましばし沈黙してしまったので、どうしたの、と尋ねようとしたとき、
「あの……もしかして、王子の後ろにいらっしゃる方、アイルス様だったりしますか?」
アルトの言葉にぽかんとしてると、背後から誰かの笑い声がした。
急いで振り向くと、そこには水色の衣装で身を包んだ、一人の青年が立っていた。
彼は真っ白な歯を見せながら、僕らに爽やかに微笑み、
「その通り。私がフロスティーヌの第一王子、アイルスです」
アイルス王子の金色の髪は、シャンデリアの明かりにより、いっそう輝いていた。
「お会いできて光栄です、アイルス王子」
「こちらこそ」
挨拶をして、握手をする。
二人の王子の談話に、周りの客人も注目していた。
それに、アイルス王子はなかなか顔が良いしね。
「シルク殿とは国が隣同士というのに、あまり個人的に話したことがありませんでしたね」
「そうですね。この前のアイルス王子の成人式の際も、挨拶を交わしただけでしたし」
アイルス王子は僕より二つ年上で、現在十七歳だ。
その分背も高く、僕が見上げるような形になっている。
「シルク殿、そちらの少年は?」
アイルス王子の言葉に、後ろに立っていたアルトがそわそわしだす。
そんな彼を構わず抱き寄せ、
「彼は王立学校での友人で、アルトといいます。そちらにいらっしゃる大臣の一人である、ライトモンド伯爵のご子息です」
そう言って、アイルス王子の左手側を示してみせる。
そこにいたライトモンド伯爵は、こちらに気がつき、深くお辞儀をした。
そして伯爵の隣に、僕の父がいることに気がついた。
「アイルス王子、レインルインの料理はもう召し上がったかね?」
僕の父――つまり現国王は、こちらに近づきながらそう尋ね、優しげな緑の瞳でこちらを見つめた。
大きな体に赤いガウンを羽織り、茶色い髪の上には、国王であることを示す王冠がのっている。
「はい、国王陛下。どれも美味しいです」
「唐揚げも美味しいですよ」
僕の言葉に、父もうんうんと頷く。
しかし、次には笑みを消して、父は急に真面目な顔になった。
「皆、楽しんでいるところ申し訳ないが……先程シルクに急用ができてしまった。今からパーティを抜けさせなければならない」
「……急用?」
僕が聞き返し、アイルス王子もアルトも、不思議そうに父を見つめる。
父は頷き、今までとは変わり、真剣な目で言葉を紡いだ。
「シルクに、魔物を退治してほしいんだ」