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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
番外編①
56/56

プレゼント

クリスマスに書いた番外編です。

 ここ、レインルイン王国には、子供は年の終わりにプレゼントをもらえる風習がある。


「なぁシルク、今年のプレゼント、もう決めた?」

 ストロンの言葉に、教科書から目を離し、彼の方を向いた。

 隣にいたアルトは、ちらっとストロンを目だけで見て、

「それ、今関係ないでしょ、ストロン。今日はこの図書室で、年末の試験に向けて真面目に勉強するって決めたじゃないですか」

「だってさー、飽きた」

「……まだ、始めて五分もたってないですけど」

 鉛筆を口と鼻の間に乗せて本を閉じるストロンに、アルトは呆れたような顔をする。

 その様子が面白くて笑いそうになりながら、さっきの質問に答えた。

「プレゼント、僕はもう決めたよ」

「おっ、なになに?」

「お菓子だよ」

「へえ。それはおかしいな」

「えっ寒ッ?!やめてください!!」

 ニヤっとして言ったストロンに、アルトは急いで椅子を動かし、彼から距離をとる。

「……けれど王子、年一度のプレゼントがお菓子でよろしいんですか?」

「うん! というのも先月、城下町に異国からのチョコレート屋さんができてさ。高価だけど、すごく美味しいんだって」

「へえ。じゃあそれが欲しいんだな」

「おしゃれですね!さすが王子!」

 ストロンとアルトが納得したのを見て、僕はさらに付け加えた。

「あと、 数々の評論家が絶賛したと最近話題になっている翠の都のシフォンケーキと一日百個限定で売られているの行列のできる碧の都の焼き菓子屋さんのフルーツパウンドケーキに銀の都で有名な老舗で作られている薔薇の香のシュガーボンボンも」

「シルク、」

 ストロンは真面目な顔をして、僕の言葉を遮った。

「俺、付き合うからさ、冬になっても、剣の稽古とかして運動しような」

「え?うん、ありがとう……?」

 よくわからないけど、とりあえずお礼を言う。

 ふと横を見ると、アルトがすごく難しい顔をしていた。


 後で分かったけど、そのとき彼は笑いを堪えていたらしい。


   ☆


「あーくそ! 何でオレがこんなこと!!」

 教会の屋根の上、スコップで雪をすくい、地面に投げる。

 ここ翠の都では、今年は例年より多くの雪が降り、オレはその雪かきを頼まれていた。

「わしらじゃできんからの~。そうじゃ、これも修行だと思うんじゃ」

 大魔導師のリグじいさんは、毛布を膝にかけ、庭で温かいコーヒーを飲みながら、オレを見上げてそう言った。

「――って、何温かそうにしてるんだよ!!」

 オレはこんなクソ寒い中、働いてるのに!!

 腹が立ち、すくった大量の雪を思いっきりじいさんの方へ投げた。

「ほほほ」

 けど、じいさんは即座に保護呪文をかけて、跳ね返った雪は、代わりに隣にいた司祭に積もった。

「あ、悪い」

「すまんかった」

「………………」

 雪に包まれた司祭は、一拍おいて、くしゃみをした。


「はー、やっと終わった」

 部屋に入り、暖炉の近くで暖をとる。

「ご苦労様じゃった」

 じいさんが淹れたての紅茶を持ってきて、微笑む。

 ご苦労様、って……お前が頼んだんだろ!!

(あーもう、早く出てってやる! こんな家!!)

 紅茶を飲みながら、決心を新たに固めていると、じいさんはオレの隣に座り、

「それと……少し早いが、わしからプレゼントじゃ」

「え?」

 そう言って紙袋を取り出したのを見て、思わずカップを持つ手が止まる。

 紙袋を見ると、そこには二つの包み。

 一つは緑のマフラー、もう一つは魔法に関する数冊の本だった。

「この本、ほしかったやつ……」

 思わず呟くと、じいさんはにっこり笑った。

「トラスコットからも、またもらえるじゃろう。楽しみにしてなされ」

 ぽんぽん、とオレの頭をたたき、じいさんは別の部屋へ去っていく。

「……子供扱いしやがって」

 けど……まあ、もうちょっとくらい、この家に居てやるか。


 温かいマフラーに包まれて、そう思った。


Fin

改めまして、二章、完結しました!

三章ではストロンの故郷である港町・碧の都へ向かう予定です。お楽しみに!

2019.6.4.

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