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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
07 金色と赤色
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もう片方の目

 カーテンから溢れる光。鳥のさえずり。

 僕はハッと目を覚ました。

「……あれ?!」

 瞬時に、眠る前までの記憶が蘇り、勢い良く体を起こす。

 そうか僕、クラウドが帰ってくる前に、いつの間にか眠ってしまったんだ……!

 慌てて時計を見ると、針はまだ、朝食の時間よりずっと前を示している。

 そこでふと、自分に布団がちゃんとかけられていることに気がついた。

 ……僕がクラウドのベッドで寝ているということは、クラウドはどこに……?

 僕がいたせいで、ここで寝られなかったはずだ。

「謝りに行かなきゃ……」

 一度自分の部屋に戻り、普段着に着替えてから、クラウドを探しに行くことにした。



 居間、台所、浴室、空き部屋……。

 行けるところは探してみたけれど、クラウドの姿はない。

「教会の方かな……」

 礼拝堂の方に行くと、ちょうどお祈りの時間が終ったようで、沢山人が出てきていた。

 慌てて陰に隠れて、様子を伺う。

「神のご加護がありますように……」

「レイン様のご加護がありますように……」

 司祭と街の人たちはそう口にして、教会の外へと出ていった。

 礼拝堂に残っているのは、朝日を通したステンドグラスが落としている、キラキラした光の影だけ。

 ……ふと、その礼拝堂に、入り口以外の扉があるのに気がついた。

 一人用のお祈りの部屋だ。

 そっと開けると、そこは机と椅子しかない、窓の付いた小さな部屋があった。


 そこに、彼はいた。


「クラウド」

 呼びかけると、クラウドは眼帯をしていない方の目で僕を見た。

「…………」

「おはよう。ごめんね、君のベッドで寝ちゃってた。ここで寝てたの?」

「……いや。空き部屋のベッドで寝た」

「そっか、ちゃんと寝れたんだね。よかった」

「…………」

 ……沈黙。

 窓から射し込む光の筋が、部屋の空気に舞う埃を目立たせていた。

「……翠の都って、信仰深い街なんだね」

 音のない、まるで時が静止したようなその部屋で、僕の声だけが紡がれる。


 教会も、街の人も皆、雨の神レインを信仰している。

 王族レイン家は、そのレインの神授者と言われていると、王の都の司祭さんが言っていた。


 しかし、そのレイン家――先代国王シルクたちは、魔王の手で殺された。

 きっと街の人は、今も魔王を恐れ、恨んでいる。


「――だから、隠してたの?」

 僕はそう言って、クラウドの眼帯をそっと外した。

 閉じていた片方の目が、静かに開かれる。


「魔王と同じ、赤色の瞳」


 左目が、ルビーのように赤くキラリと光った。



「赤の瞳を持つ人間は、魔王を出した一族……ルイン家以外にいなかった」

 クラウドは、その左右で色の違う瞳を俯かせ、静かに語り始めた。

「だからオレは、生まれてきたときからずっと、周りに忌み嫌われていた。魔王の生まれ変わりとか、隠し子とか……捨てられた理由も、きっとこの目のせいだ。でもオレは金色魔導師で、魔王と同じ赤色魔導師じゃない」

「そんな……酷い誤解じゃないか。可哀想……」 

「同情はやめろ。貴族で、王子で、周りにちやほや愛されてきたお前に、オレのことがわかるか!」

 ダンッと机を叩き、クラウドは僕を鋭く睨みつけた。

「お前は貴族だから、気づいてなかったかもしれないけどな。街にいると、必ず周りの大人はオレを嫌な目で見るんだ! オレを知らないやつがいても、誰かが教える……あの子供は捨て子だ、魔王の生まれ変わりだ、忌々しい、って!」

 息をつき、クラウドは重々しく言葉を続けた。

「リトにはこの目を見られてから、ずっと恐れられている。名家の息子のリトがそういう態度をとったから、学校では周りに嫌がらせをされた。けれど、リトは誤解を解かなかった。友達だったのに……!」

「クラウド……」

「……産んだ親も、こんなところに預けたりしないで、すぐに殺せばよかったんだ。だったら、オレはこんな……」

 そこまで言って彼は、僕から顔を背けた。

 その背中は小刻みに震えていた。 

「……君の気持ち、全部わかることができるなんて思ってない。けど……」

 震える彼の肩に、そっと手を置く。

「最初に言ったこと、覚えてる? 僕は家柄とかで人を決めたりしない、って」

「…………」

 振り向いたクラウドに、僕は微笑んだ。 


「魔王の子とか、誰の子とか、関係ない。僕はただ――生意気で、無愛想で、けど僕なんかよりずっとしっかりしていて、本当はとっても優しい君が好きだ!」


 そう言って、クラウドを抱きしめた。

「だから、そんなこと言わないで。僕は君に何度も助けられたんだ。クラウドがいてくれて、本当によかった」

 全部、心からの気持ち。

 クラウドは黙ったままで、返事はこない。

 けれどふと、首に、温かいものがぽたぽたと落ちる感覚がした。

「……んなこと、お前に言われたって……嬉しくねぇし、そんなの……」

 クラウドは掠れた声で呟いて、再び押し黙った。

 また、部屋は静かさに包まれたが、その空気は春のように温かかった。

「それに、ほら。見て」

 体を離して、自分の胸元からペンダントを取り出す。

 その魔法石は今も、僕の魔力で真っ赤に輝いていた。

 クラウドは慌てて目をこすって、そして目を見開いた。

「あ、赤の魔力……?! ……まさか、あのときの蛇はお前が……!?」

「クラウド、自分が魔王の子かもしれないって言った?」

 驚くクラウドに、僕は笑って言った。


「僕もそうかも」

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