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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
07 金色と赤色
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その先に

「くそっ、倒しても倒しても……!」

「クラウド、フォーレス!」

 ペンダントを首に戻して、剣を握り、さっきの広間まで戻ると、そこにはまだネズミの魔物がいた。

 三匹だ。さっきより数が増えている。

 二人は僕を振り返り、驚いたように叫んだ。

「ルーク!どうして戻ってきたんだ!」

「危険だよ、今すぐ逃げろ!」

「僕も手伝うからッ!」

 ザシュッ!

 そう言って地面を蹴り、近づいてきてきた魔物の首を刺した。

『フシャアアア!!』

 魔物は奇声を上げながら、青い液体を流して倒れる。

 続けて、二匹目、三匹目。

「今だよ、とどめを刺して!」

 二人を振り返って、叫ぶ。

 しかし二人は、ぽかんとして僕を見ていた。

「……どうしたの?」

「いや……」

「……君、意外と……」

 二人は曖昧に答えながら、魔物を消滅させた。

 何だろう、拍子抜けるなあ……。

 まあいいか、それより。

「魔物、増えてるの?」

「ああ。これで七匹目。奥からやってきてんだ」

 クラウドは答え、さっき蛇の魔物がいた場所の、その先を指差した。

 道が少し細くなっていて、魔法の光が届いておらず、薄暗い。

 リトは目を細めて、

「もしかして、ネズミの魔物の巣があるんじゃ……?」

「可能性はあるな。少し進んでみるか」

 僕らは頷きあって、その先へと進んだ。



 ぴちょん、ぴちょん……。

 水が滴る音が、すぐ近くで聞こえてくる。

 次第に壁が濡れてきて、空気が湿り気を帯びてきた。

 ネズミの魔物は、あれ以降姿を見せていない。

「二人とも、足元が滑りやすくなってるから気をつけ――うわわっ!!」

「「危ない!!」」

 そう言いかけたとき、スリップしそうになって、後ろの二人に支えられた。

「バカ、お前が気をつけろ!」

「すみませんでした」

 叱られて、謝りながら前を見る。

 と、少し先に、明るい影を落としている場所があることに気がついた。

「なんだろう?」

 周りには、まるで積んでいたのが崩れたように、大きな石が沢山転がっている。

 上を見ると、夜空……外が見えた。

「わかった……古井戸だよ、これ」

「古井戸?」

 そう静かに言ったリトに聞き返すと、彼はこくりと頷き、壁の濡れている石をなでた。

「もう使われていない井戸のこと。きっと昔の村は、生活水にここの湧き水を使ってたんだ。おそらく……蛇はこの井戸を通って外に出て、鶏小屋を襲った」

 そう言って、地面に落ちている白い羽をつまんだ。

 クラウドは頷き、

「地理的にも、鶏小屋と近い場所だ。これは確定だな」

「じゃあ……ネズミはどこから?」

 僕がそう言うと、リトは無造作に羽をいじりながら、

「推測なんだけど……やっぱり近くにネズミの魔物の巣があるんだと思う。蛇はネズミを食べるだろう? ベリール伯爵が封印を破壊して、蛇が目を覚ましたから、きっとネズミは動揺して巣からか村へ出てきてるんだ」

「そっか! じゃあ、その巣を潰せば――」

「ルーク!!」

 言いかけた、そのとき。

 クラウドが僕を床に押し倒した。

 続けて、ガチン、という鈍い音。

 ……えっ?!

「何が――」

「『ファイヤーフレイム』ッ!」

 リトが、魔法を撃った。

 クラウドの肩越しに見ると、さっき僕がいた場所に、ネズミの魔物が立っている。

 ……あ、危なかった!

「お前、ほんと周りに気をつけろよ!だから引っ込んでろって」

「ごめん……というか、クラウドは大丈夫?! 歯が頭に……!?」

 ぱらぱらとその綺麗な銀髪が落ちてきて、ギョッとする。

 クラウドは珍しく快活に笑って、

「髪に掠っただけだ。少し切れたかもだが、ハゲなけりゃ全然――」

 そう彼が自分の頭をなでた、その時。


 はらりと、包帯が解けた。


「…………!」

 彼の両目と、目が合う。

「え……? あ……!」

 あわてて片目を抑える彼を、僕はただ呆気にとられて見上げていた。

「大丈夫かい? もう夜中だし、これ以上進むのは危ない。外に出て、この辺りにネズミの巣があることを、リグさんと都の領主様に報告しよう」

 何も気づいていないリトが、そう言った。



 その後、会話もないまま、三人で一緒に教会へ戻った。


 リグに簡単に事件の説明をして、リトは帰って行った。

 帰り際、彼が懐かしそうに司祭や教会を眺めていた理由を、僕は知らない。

「先、風呂行ってこいよ」

 その後、クラウドに目も合わされずそう言われて、シャワーに当たりに行った。

 そのぬるい水が体に触れたとき、無事に帰ってこれたんだな、という実感が出て、思わず安堵のため息を吐いた。

 交代で風呂場に行ったクラウドの帰りを、彼の部屋で待つ。

「クラウド……」

 一人でベッドに腰掛けて、目を閉じる。


 やっとわかったよ。

 君が左目を隠していた意味が。


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